第63話 褐色+銀髪+ロリ+涙目
真ん中あたりの長ったらしい説明分は飛ばしても何の影響も与えないです。
〈――アリス!!〉
聞き覚えのある声だった。
その声を聞いたのはざっと1年ぶりくらいだろうか、案外最近だったな……
そういえな無事だとかなんだとか言っていたような気がするな。
俺の身体の中に、本来は俺のモノではないはずの力が流れ込んでくる。この感じも久々だ、妙に安心する。
俺が聞いた声の主の名は―――
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「アリスっ!!」
「しまっ!?」
周囲に舞う土煙の中で俺はそんな声を聞いた。前者はハーメルン、後者はサタンだろう。
サタンは俺に魔力弾が当たってから正気に戻ったらしい、すごく焦ったように声を上げた。
土煙が中々散ってくれないな。チラっと俺の手元を見ると、魔術式の刻まれた刃が砕けて、鍔と柄だけの見るも無残な姿になってしまった魔法剣が握られていた。
そういえば鍔には【ブラスト】の魔術式が刻まれていたんだよな。
まだ試していない鍔の魔術式を発動させると、刃の側の鍔から強烈な風が飛び出し、周囲の土煙を吹き飛ばした。
「アリス!!」
「……いや全然見えねぇ!【エアブロウ】!」
鍔からでた【ブラスト】だけでは土煙が余計に舞うだけだったため、俺は自分の周囲に【エアブロウ】で風を発生させて土煙を今度こそ吹き飛ばした。
「お前ェ……なんだ、ソレは」
土煙が取り除かれて、俺の姿を目視したサタンは、俺が無事だったことにも驚いたようだが、それよりも、特に俺の右腕を見て驚愕に顔を強ばらせ、目を見開いた。
「あぁ、そういえばサタンに見せるのは初めてだっけ、コレ」
いや、ハーメルンにも見せたことはないが、ハーメルンも今凄い顔になってるし、アレは主に俺が生きていたことに対する感情だとは思うが……涙とか鼻水で顔グシャグシャだぞ……
「何なんだソレは……」
「ん……これは、竜の腕だ」
簡単に言えばそうだが、実際は少し違う。
昔、俺は独自に生み出した契約魔法、“眷属契約”を使って世界中の固有種やら何ならと契約してきた。
単に契約魔法と言っても幾つかの種類がある、まずは主と従者、つまり上下関係を作り、主が従者の力を得て、従者も主の数割程度の力を得ることができる、また、主は従者の行動の一部分を縛ることが出来る“主従契約”。
次に契約者同士の力が4割程度与えられる、上下関係を作らない“対等契約”。
そして契約期間は数時間と短く、契約が切れたあとは自分が持つ全ての力を契約者に与えないといけないが、その間だけ契約相手の全ての力を自分の力として扱うことが出来る“供犠契約”。
最後に契約相手の全てを握ることができる“隷属契約”。
基本的にはこの4つだ。“隷属契約”以外の契約魔法には、基本的に契約者の大体の現在地が分かるような仕組みになっている。ちなみに契約で自分の力が相手に渡っても自分本来の力は減らないという便利仕様だ。
しかしどの契約魔法も、相手の力、魂を縛る魔法のため、その分の対価が半端ない。とは言っても基本的にはその対価は魔力な訳だが、契約魔法に必要な魔力の量が並の魔法の比ではなく、並の魔法使いでは契約魔法すら使えない。そのため、精霊や悪魔との契約で主に使われる“主従契約”は、ほとんどの場合精霊や悪魔が主の立場になることになる。
まぁ仮に使えたとしても契約魔法は契約者同士が契約に了承しないと発動しないため、契約魔法を使っている奴なんてほとんどいなかったが。“対等魔法”も割といいんじゃないかと思うが、お互いの位置がバレてしまう為、基本的に使うやつはほとんどいない。裏切り行為とかよくあったしな。
その中でも“隷属契約”というやつが厄介で、現界のどこぞの国の阿呆学者が“隷属契約”の魔術式化に成功してしまい。それ以降、本来は大量の魔力が必要になり、互の了承も必要である契約魔法の中でも、それほど多くない魔力で、しかも相手の了承も得ずに“隷属契約”を強制的に行うことができるようになってしまった。魔術式になった分、本来よりも遥かに解きやすいため、魔法や魔術に対して深い知識を持つ者に対しては全く効果を発揮しなかったが……それでもそのせいで、現界で“奴隷”が増えたのは言うまでもないだろう。
まぁそれは置いといて、魔法は効果と対価に釣り合いが取れなければいけない、つまりメリットとデメリットだな。
俺の“眷属契約”はそのデメリット、対価である魔力をさらに大量につぎ込んで無理やり発動させる力技の契約魔法だ。小細工は一切なし、昔の俺だからこと出来た魔法だ。
“眷属契約”は一応は“対等契約”と似ており、上下関係をつくらず、誰の行動も制限しないが、契約者の能力を“供犠契約”同様10割引き出せるようにしてある、残念なことに俺の能力は向こうに行かなかったが……。
そして俺がこの“眷属契約”の真骨頂だと考えているところは、契約者が死なないところだ。まぁ不死身になるわけではなく、死んだとしても俺が契約者の魂を縛っている限り、魔力を使って魂から体を再構築させることが出来る、歳は取るが、それは“ホーム”を作ったことでなんとかなった。
つまり……そういうことだ。
「竜の……腕だと?」
「そ、竜神の腕だ」
俺が聞いた声の主の名は、バハムート。“竜神”の異名をもつ最強の竜、そして俺と初めて“眷属契約”をした相手。
竜の鱗と爪を纏、以前より少し巨大化した俺の腕に生える銀色に輝く鱗は紛れもなくアイツのものだろう。
「竜神……か」
「それよりも」
「何だ?」
「実験の続きはやらないのか?」
感傷に浸るかの如くひっそりとして落ち着いた雰囲気になってしまったサタンに俺はそう告げた。
サタンはさきほど自分が何をしたかを思い、何かを言おうとしたが、俺の目をみて考え直したようだ。
「そう……だな」
「アリス!大丈夫なのか!?」
「あぁ、心配かけた。もう大丈夫だ」
「お前ェなァ……」
「ふふ、掛かってこいよ“技巧派の羊”!」
「オイその名で呼ぶのは止めろと言っているだろうがァ!」
そういって、また俺とサタンはぶつかりあった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ったく……実験で試作器をぶっ壊す奴があるか……」
「お前が言うなよ」
実験は終わった、結果は俺の圧勝、やったぜ。
「魔法剣は鍔と柄が残ってたから良いんだよ。俺の魔導鎧ボッロボロじゃねェか、粉々じゃねェか!手加減とか出来なったのかァ!?」
実はあのあと、実験を再開したのは良いんだが。特に俺もこいつの実験に付き合う気なんてサラサラなかったので、俺の右腕の爪でサタンの魔導鎧を容易に傷つけられることを確認したあと、粉砕した。当然だよなぁ。
「お前のせいで俺死にかけたんだぞ!?そんなやつに手加減なんてする訳ねぇだろうが!」
「くっそ言い返せねぇ!!」
「フン、本当にアリスが死んでいたら、お前もろともこの国とついでに周囲の国も八つ当たりで滅ぼしていたところだぞ、アァ?」
「だからこうやって門の位置調整してやってるだろうが!!」
「「それもともとの約束だろうが!!」」
「くっそ言い返せねぇ!!!」
サタンの言い分では、どれだけ急いでも、あと1時間はかかるそうなので、それまで俺は城の客室で休憩することにした。
「うぅ……あと1時間でアリスが帰ってしまうぅ……」
俺を膝に乗せてさらには髪を撫でて頬ずりしながらハーメルンはそういった。俺は机の上に置いてある淹れたての紅茶――のようなもの――を口に含んだ。
うん、おいしい。
「別に今生の別れって訳でもないだろうが……それに現界に来るっていう手もあるだろう?」
「行っていいのか!?」
「別に来るなと言った覚えはないが……ただし、現界に来て武器を振り回すのはやめろよ」
「わ、分かっているぞ!」
本当かよ……ちょっと慣れてきたからかもしれないがハーメルンからレティス臭がするんだが……大丈夫だろうな……
「あっ、そういえばバハムートどうなってんだろ」
「バハムート?竜神のことか?」
「あぁ」
実験中に運良くバハムートの力を使えたが……ということはあいつの言っていた封印が解けたのか?俺の中にはまだバハムートの力しか感じられないから恐らくはアイツだけなんだろうけど……
「ちょっと召喚してみるか」
「この部屋に入るのか?」
「多分人化してるだろうし、大丈夫だろう」
俺はハーメルンの膝から降りて、部屋の窓付近の、家具が置かれていない少し空間のある場所で、バハムートを呼ぶことにした。何年ぶりだろうか……俺の体感では数年だが……あいつらにとっては1000年ぶりなんだろうか。
『【リコール】、バハムート』
俺が魔法を詠唱すると、部屋の床に幾何学模様、俗に召喚陣と呼ばれるものが浮かび上がり、“バハムート”という意味を持っているのであろう意味不明な文字が浮かび上がる。
ちなみに【リコール】は、“眷属契約”を交わしている契約相手のみを引き寄せるためだけの召喚魔法だ。
召喚陣が発光し始め、召喚陣が上下に別れて、2つになった陣の一つはゆっくりと上昇していく。そしてその陣の間から現れたのは。
「遅いぞアリス!もう少し早く呼んでくれないか!……ぐす」
ビバ、褐色肌の銀髪ロリっ娘、しかも涙目のオプション付き。
「あれ……なんか小さくね?」
アカン、今回アカン……どうもみなさん作者です。
話が全然進まない、なら1話5000文字くらいにすれば……とかも思うのですが……キリが良かったんだよぉ……あそこで切れちゃうんだもの、あと数話かかるかな。
ちなみに次章は日常章(半笑)をお届けする予定です!
次回更新は3日後……くらいかな?
次回でどこまで進むのか……出来れば終わりたいんだよなぁ。それでは!