第62話 実験(戦闘)
「実験……?」
サタンが提示した条件を耳にしたハーメルンが俺の隣で首を傾げた。
「そうだ、サタンの作った魔導具の性能を試す実験だな」
「お前ェがいねェ間にいろいろと傑作が生まれたからな。ホラ、これもその1つだ、試してみろ」
「なんだこれ」
サタンはそういうと俺に向かって白く、小さな薄い箱のようなものを投げてきた。
「そりゃァ、昔にお前ェに渡した魔力供給の魔導具の完成形だ。魔力結晶が埋め込んであるだろ? それを押し込めば自動的に魔力が補充されるようになってる。容量はお前ェに渡した試作型の数百倍程度だな」
よくみると渡された物体の丁度真ん中の少し上程度のところにボタンサイズの魔力結晶が埋め込まれていた。サタンに言われるがまま魔力結晶を人差指で押し込んでみると、すこし沈んだあとに俺の中に魔力が流れ込んできた、このままの速度で回復し続けるとあと数十秒ほどで俺の魔力が全快するだろう。
「また凄いモン作ったな」
「そうなのか?」
この魔導具の凄さが分からないのか、ハーメルンは頭上に「?」を浮かべながら再度首を傾げた。
「魔力結晶がその中に溜め込んだ魔力を微量だが少しずつ外に放出するのは知っているだろう」
「それは、まぁ……」
「その純度にも魔力結晶は本来、常に一定量しか魔力を供給しない、照明用の魔導具に魔力結晶が使われるのはこの性質を利用しているからだな。だが、魔力結晶から放たれる一定量以上の魔力はどうしても取り出せなかったんだよ」
「そうなのか?魔力結晶を壊せば……」
「魔力結晶を壊すと、魔力が散ってマナになるだろ」
「……そうだったな」
「大体省略するが、本来一定量の魔力しか放出しない魔力結晶からその全てを好きなときに好きなだけ取り出せるようにしたのが、この魔力供給の魔導具ってわけだ」
「うむ……?」
分かりやすく説明したつもりだが、ハーメルンには上手く伝わらなかったようで、イマイチ理解できていないような顔をしている。
「つまりだな……魔力回復薬ってのがあるだろう? あれは魔力の回復を促進させる薬であって、魔力自体を回復させる薬じゃない、しかし魔導具だと瞬時に魔力が回復できる。まぁこの魔導具を大量に持ち歩けば事実上は魔力の枯渇を起こさなくなるって訳だ」
「ま、それは一点モノだがな」
俺の説明にサタンがそう付け加えた。聞くところによると、これは魔力結晶から自由に魔力を取り出す研究の過程で出来たものらしく、実験が終了した以上もう作ることはないのだという。
「俺は研究者であって職人じゃねェからな」
ということらしい。
そんなことを言っている間に俺の魔力は全快した。魔力供給の魔導具、名づけて“魔力タンク”は、サタンからもらった。使わないし、捨てようと思っていたところらしいから、どちらかというと処分という形になると思うが。
「それで、俺はどんな魔導具の実験体になればいいんだ?」
「これだ」
俺がそう聞くと、サタンはどこに持っていたのか鞘に収められたブロードソードを持ち出してきて、俺に手渡した。ズッシリとした独特の重量感を感じながら剣を鞘から抜いてみると、銀色の刃こぼれ一つない刃が現れ、その剣身には魔術式が刻み込まれていた。
「なんだこれは?」
「魔術が施された剣か?」
「そうだ、魔法剣や聖剣の類と似たようなモノだな」
サタンが言う魔法剣や聖剣というのは、俺が手に持つコレと同じで、その剣身になんらかの魔術式が刻まれた剣のことだ。それが槌や槍の場合は、魔法槌や聖槌、魔法槍や聖槍と呼ばれる。
基本的にはどっかの宗教が神から与えられたとか言っているのが聖剣、その他が魔法剣だ。とどのつまりどっちも魔法剣だな。
「なんでいまさらこんなモノ作ったんだ?」
「くはは!よく見てみろ、裏表で刻んである魔術式が違うだろ?」
「お、ホントだ……ってことは」
「そうだ、その魔法剣は4つの魔術式が刻まれている」
「4つ?」
「刃の裏表に1つずつ、鍔、柄の部分に1つずつで合計4つだ」
サタンから受けた詳しい説明をまとめると。
この魔法剣には、刃の部分に切れ味を高める【シャープ】と硬度を高める【ハード】を常時発動するように組み込まれていて、鍔の部分には相手を吹き飛ばす用に【ブラスト】、柄の部分には身体能力を高める【ストレングス】が魔力を通せば発動するように刻み込まれているらしい。
「これは一応城の兵士たちに同じ様なものを支給しようと考えているんだが……」
「ほぉ、お前がそんなことをするなんて珍し――」
「面倒過ぎて無かったことにした」
「そんなことだろうと思った」
「フン、これ作れるの俺しかいねェんだよ。何千本を作ってられねェよ」
「まぁ、それもそうだな」
これと同じようなものを手作業で数千本か……気が遠くなるな……さすがに俺もやりたくない。まぁこの魔法剣が完成したときにはここの城の兵隊長にも譲ように進言しておこう。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
場所は変わって、ここは城の地下にある実験場。床、壁、天井が全て魔術で強化されており、いまの俺レベルなら、ゼクトオーラを使わなければ何をやっても壊せないほどの強度を持っている。
俺の装備はサタンから渡された魔術で強化された軽鎧と、さきほどの魔法剣、それと魔力が少ないので魔力を満タンまで補充させた旧バージョンの魔力供給の魔導具だ。
「アリス、大丈夫なのか?」
ハーメルンはそう言いながら心配そうな顔をした。
相手は一応は“魔王”級だし、こっちは力の大半失ってるし、まぁその心配も分かる気がするが。
「大丈夫だよ、あいつもそこまで手加減が下手なわけじゃないし」
死にはしない……と思う、多分。
ハーメルンはそれでも納得いかないようでソワソワとしている。
「じゃあ、ちょっと離れたところですぐに治癒魔法が仕えるように待機しててくれよ、いざというときは頼む」
「……私が出るという選択肢はないのか?」
「この魔法剣を使いこなすには繊細な魔力操作の技術が必要になってくるらしいからな、お前にそんな細かいことできないだろう?」
「むぅ……」
「じゃあ、武器も構えてろ」
「それなら……でも、無理はするなよ」
「分かってるよ、母親かお前は」
渋々ながら納得したハーメルンを置いて俺は実験場の中心辺りに移動した。
俺が出てきたのを見たのか、反対側の扉が開いて全身を鎧で覆ったサタンが出てきた。
「いや何だそれ」
「魔導鎧だ」
「いや、何だそれ」
「全身に【ストレングス】と【ハード】の魔術式を組み込んだ鎧だ、あとは効率の強化とか、遠距離攻撃用の術式も組み込んであるな」
なんだそれ、凄い強そうじゃん。
「まぁ実験だからな、これとそっちの魔法剣の性能が見れれりゃァそれで良いし」
「ホントだろうな」
「ああ」
全然信用ならんな。
昔はいつも熱くなって性能の限界に挑戦しようとする癖があったし。
「それじゃァ始めるぞ」
「……あぁ!」
流石に“魔王”級というべきか、手を抜いているのだとは思うのだがレイドオーラを全開にして身体能力を強化して、魔法剣の【ストレングス】も発動させているのも関わらず、サタンの攻撃を捌くのがやっとの状態だ。あのゴツゴツよした鎧が高速で動き回る姿はなかなかに面白いものがあるが。
「どうした!攻撃してこねェと鎧の性能が分からんのだが!」
「ならちょっとはスピードを緩めろよ!」
そういいながらもやっとの思いで、サタンの攻撃の間を縫って脇腹辺りに一撃を入れる。
「ふむ……こんなものか……」
「この魔法剣、性能負けしてんじゃねぇの」
「馬鹿言え、そっちにも刃こぼれ一つないだろう、あまり性能に差はねェぞ」
そう言ってもサタンの着ている魔導鎧には傷一つついていない、魔法剣にも刃こぼれ一つないから相打ちといえばそうなのかもしれないが……
「そら、ドンドンいくぞ!」
「分かってるよ!」
実験という名の戦闘が始まってはや数十分、俺にも段々と疲労が溜まってきたところだ。
戦闘の内容はほとんど打ち合い、とは言ってもこちらにはほとんど入っていないが、入ったとしても俺の身につけている軽鎧がほとんどの衝撃を吸収してほとんどダメージにもなっていない。魔法剣もいまだに刃こぼれなし、サタンの鎧も同様だ。
「もうそろそろ良いんじゃないのか!?」
「あァ!?まだに決まってるだろうがァ、この鎧の性能がこんなモンじゃァねェ!!」
あ、もしかして俺地雷踏んだ?
サタンは先ほどまでとは違い、鎧からあふれるほどの魔力を放出させる、鎧はミシミシと嫌な音を立て始めるが、まだまだ壊れそうな雰囲気はない。
「ちょっと待て!お前――」
「フハハハハハハ!!まだだ、まだ行けるぞぉぉぉ!」
テンションがハイになったのか、サタンにはすでに俺の言葉が耳に届いていない。クソッ……治ってないじゃないか。
俺は先ほどまでとは段違いの威力が込められたサタンの金属の鎧の拳を魔法剣で受け流そうとするが。
「ぐっ……!!!」
案の定受け止めきれずに実験場の端まで吹き飛ばされた。ある程度は受け流せたのか壁に激突するほどは飛ばされなかったが、それでも受け流せなかった分の衝撃が身体中を走って全身の骨がギシギシと軋み、いまは痺れとなって残っている。
「アリスっ!」
そんな俺を見たのか、待機していたハーメルンが俺のほうに近づこうとしたが……
「実験の邪魔だ!!」
「ぐっ!!……貴様ぁぁぁ!!」
サタンは実験の邪魔をされたと怒り、ハーメルンも道を拒まれたことで火が付いたようだ。魔王同士の戦いか……勘弁してもらいたいのだが……
「いや……この際“女帝”の攻撃に耐えられるのか試してみるのも悪くないか……」
「私の前で独り言とはいい度胸だ!」
ハーメルンはウィップソードを振るい、サタンの鎧の胴に強烈な一撃を入れ、サタンがその衝撃で実験場の壁まで吹っ飛んだ。
「ふはははは!温いぞ“女帝”!貴様の攻撃はこんなモノではないだろう!」
「ちっ、クソ!」
魔王同士で戦いを始めれば俺はただじゃすまない、ハーメルンはそれのせいで本気を出せずにいるだろう。もしハーメルンが本気で先ほどの攻撃を行えば、サタンの鎧が壊れる代わりに俺の身体もそれの余波でズタボロになるだろうからな。
「全力も出せないようなら引っ込んでろ!」
「ぐっ!」
今度は逆にハーメルンが、サタンに吹き飛ばされて訓練場の入口の扉付近まで吹き飛ばされた。
「さァてアリス、続きだ!」
叫びながらサタンが攻撃を繰り出してくる。先ほどまでとは違い、ほとんどが受けきれないため、必然と攻撃が俺に当たってくる。
「どうした!きちんと俺の道具を使え!」
うるせぇな、こちとらお前のお陰で声を出す暇すらねぇんだよ。そういってる内にも胸の辺りをサタンの拳が掠って、軽鎧が粉々になった。
……おいおい、マジかよ。
「フン、やはり強度が足りなかったか……まぁお前ェ防具なしでも大丈夫だろ!」
あいつ……今の俺が大分弱体化してるのを忘れてないか? いまの俺は紙装甲なんだが……!
あの軽鎧を吹き飛ばすほどの威力だ、俺がくらえばレイドオーラを纏っているといっても無事じゃ済まないだろう。
「フハハハハハ!どうだ!この鎧にはこんな機能もあるんだぞ!!」
そういいながらサタンは鎧に包まれた両手から魔法のようなものを打ち出した。
「俺の魔力を圧縮して打ち出した魔力弾だ!!」
ご丁寧に説明どうも。
俺は魔力ならと、身体を纏っているオーラの一部を魔法剣に纏わせて、サタンの放った魔力弾に対応しようとしたが。
「なっ!」
魔力弾に耐え切れなかったのか、それとも先ほどからの猛攻のせいで消耗していたのかは知らないが。遂に魔法剣の刃が粉々に砕け散った。
なんとか弾道を逸らせはしたが、その後ろから、もう1つの魔力弾が迫ってきていた。
やばい、どうする? 【倉庫】から雪華を……いや、間に合わない!
もう目と鼻の先、ちょうど腕を伸ばせば届く距離だ。駄目かもしんない……
そう思った時だった―――
〈――アリス!!〉
聞き覚えのある声だった。
そして、魔力弾が俺に触れて、爆発した。
どうも作者です!お腹が空きながらこの話を書いたせいなのかちょっとおかしい部分があるかもしれませんがまた直しておきます(すぐに直すとは言っていない)
次回更新は、3……4日ぐらいだと思います!
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