第57話 ビッグサイズ(いろんな意味で)
悪魔を倒したあともしばらくはゼクトオーラの反動のせいで胸を抑えていたが、数分もするとマシになってきたのでひとまずはここから移動することにする。
風が吹いていないため、積もっている悪魔の亡骸である灰に埋もれている魔力結晶は取り敢えず“倉庫”にでも放りこんでおくことにしようか。
とはいえ、毎回毎回ゼクトオーラを使うたびに何かしらの障害が出るのは早く何とかしないといけないな。さっきだって、身体に負担がかからないギリギリのラインでだと、そのほとんどを機動力に回したとはいえ相手に致命傷すら与えられなかったしな。
俺はそんなことを考えながら、“倉庫”から一本の鞘と、いつもの黒装備を取り出す。
雪華を“倉庫”から取り出したときに毎回鞘に収まっていないのは、単に鞘から抜くのが面倒だからだ。神速の抜刀術とかはない、あったとしても使いづらすぎて絶対に使わない自信すらある。まぁそんなこともあってか、いつもは“倉庫”の中で鞘に収まっている状態の雪華を、本体だけ持ってきて、戻すときは鞘の中に収まるように直接戻すようにしている。
今回は悠長に“倉庫”から出している暇もない可能性があるため、鞘も出して腰に差して置くことにする。なにげに雪華を鞘に入れた状態で身に付けるのは久しぶりだな、昔はいつも市販の剣をぶら下げてたし、それ以外は素手だったし、そういえば武器使うこと自体が少なかったな……どうなってんだよ、俺のことなんだが。
冥界では力の出し惜しみしても意味がないし、それで地上ほど面倒なことが起きるわけではないので、顔も隠さず、髪色も変えずにそのままで行く。着替えたのは学院の制服が悪目立ちするとかではなく、単にボロボロになったからだ。弁償しろよ、まったく……
出口を探して少し洞窟内部を歩いたのが、全体がほんのり明るい為、特に照明は必要にならなかった。薄暗くて少し湿気もあるせいか至るところで怪しげなキノコが生えていたが。
しかし魔物の数が少なかった、さすがにRPGみたいにポンポン魔物が出てきたりはしないのだが、これだけ歩いて魔物の影すら見つからない、代わりにいつのものなのか……魔物の骨は点在していたが。
それに出口も一向に見つからない、というか上に上がっている気配がしない、魔法で削ってもいいんだが、あまり深いと地表に出る前に俺の魔力が枯渇するし……仕方ない、魔力を感知する魔物がいたら厄介だと思って使わなかったが【エコーロケーション】を使うか。
【エコーロケーション】を使ってみると、使って良かったなと俺は溜め息をついた。複雑すぎるだろう、どこの巨大迷路だよこれ、しかも【エコーロケーション】の範囲外にまで続いてやがる……クソ、あいつは一体どこに連れてきたんだよ。
さらにしばらく歩き、たまに【エコーロケーション】を使ってみたのだが、いつまでたっても迷路が終わらない。というか同じような場所がいくつかある、というか……ここ俺が始めにいた場所だし、一周してきたのか?【エコーロケーション】を使ってみた限りではきちんと真っ直ぐに歩いていた筈だが……いや、もしかして――
俺は思い立つと、すぐさま地面に【エコーロケーション】専用の増幅魔術式を描く。すこし場所をとるが、運良く開けた場所で、地面も土ではなく岩だったせいかいつもよりも素早く完成させる。
ちなみに今回も、魔力を節約するために呪文を全て唱える。
「風よ走れ、見聞の使者よ我に忠誠を誓え、対価は我が力、我が知るのはこの世の姿なり、【エコーロケーション】」
まるで水面に一滴の水を落としたときのように、波紋――風だが――が広がる。その波紋はどんどんと距離を伸ばしていき、最終的に――
「……やっぱりか」
俺の所まで戻ってきた、正確には俺の遥か先にもう一人俺がいるような感じだが……おそらくこの洞窟はどこかで空間がつながってループしているのだろう。
もしかしてあの悪魔が作ったのか?いや、一時の間だけ空間をつなげるなら兎も角、1時間以上も発動させ続けるなんて事可能なのか?周囲のマナを吸収する魔術式を使えばとも思ったが、あの魔術式もそれほどの時間は持続できない筈だ。
時代が変わって魔術式の効率が良くなったかもしれないが……おそらく、この洞窟は迷宮なのだろう。
何層に分かれているタイプではなく、1つしか層がないが迷路のようになっている迷宮か……こっちのほうが迷宮っぽいな。
となればどこかに迷宮のコアか、ボスが存在している筈だ、それを倒せば……おそらくここから出られるだろう、というかボスいるのか?さっき迷宮のほとんどを【エコーロケーション】で調べてみたが俺以外だれもいなかったぞ?
「―――」
「―――!」
「……なんだ?」
ふと洞窟の奥の方から、唸り声のようなものと、叫び声のようなものが聞こえてきた。叫び声はともかく、唸り声か……魔物の可能性が高いな、俺が未だに魔物にあってない以上、そいつがボスである可能性は十分にあるし、一応行ってみるか。
「もう!ちょっとこの洞窟の素材を取りに来ただけなのになんでこんなことになるのよ!」
「グルルルルルラァ!!」
「ああもうしつこい!【メギドフレイム】!」
「グルル!」
「って効いてないし!どうすりゃいいのよ!」
視線の先では3つの頭を持つビッグサイズの犬とやけに露出度の高い服をきた赤っぽい髪の悪魔が戦っている。露出度の高い悪魔はおそらくサキュバスだろう、淫夢を見せて他生物の雄から精を搾り取ることで有名な淫乱悪魔(偏見)だ、対してあの犬っころは……言うまでもないがケルベロスだな、しかも身体に赤い線が入ってるな、レッドケルベロス……亜種か。
ケルベロスは3つの犬の頭をもったウルフ系の魔物の最上位種の一角であり体長は4メートル程、3つの口からは上位炎魔法である【メギドフレイム】と同等の炎を吐き出すことができる。さらにその亜種であるレッドケルベロスは、通常のケルベロスの身体に赤い線が走ったように真っ赤な毛が生えている個体で、最上位炎魔法【ヘルフレイム】と同等の炎を吐く。
加えてその強靭な筋肉と爪から放たれる斬撃は鉄をも軽く引き裂き、牙は魔法銀――凄く硬い――をも砕くほどと言われている、簡単にいえば、すごく強い、俺が戦ったあの悪魔よりも遥かに強い。
「こ、こっちこないでよ!わたしは美味しくないわよ!」
「グルルルルアァ!」
「ひいいいい!!」
……というかあのサキュバス、俺の知り合いとすごく似てるんだよなぁ。
ボンッ、キュッ、ボンッという分かり易いグラマラスな体型に黒髪が多いサキュバスでは珍しい赤髪、そしてあの独特のコメディ感あふれる口調。
そしてなにより――
「グルルル!(わぁい!遊んでー!)」
「ひいいいい!こっち来ないでってばぁぁぁ!」
あの相手の心情を全く読めない鈍感さ……間違いない、レティスだ。
どうもみなさん!作者の僕ですよ!
今回はちょっと文字数が少ないですね……まぁ前まではちょっと多かったので良しとしましょうか!
コメディというかギャグっぽい感じのキャラ入れればどうなるかなぁと思いたった結果がこれだよ!すごいほんわかした話になったかなと思っています!
次回更新は一週間以内、さて……期末考査がんばるか……
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