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第56話 上げて落とすタイプの人

冥界とは何か、端的に言えば地上、正確には現界と呼ばれる世界と同じ位置にあるもう一つの世界だ。この世界はさらにいくつかの世界で分けられる、上から順に神界、天界、そして現界と冥界。

なんといっても冥界の一番と特徴は、現界では瘴気と呼ばれるほどの、その濃すぎるマナだろうか。一度瘴気を吸えば、身体がそのマナに耐え切れず、最後には衰弱死する。

そんな、現界の生物にとっては地獄とも呼べるその世界に、俺は再び連れ込まれた。




ポイ、と表現するには些か強すぎる。まるでプロの野球選手が投げた剛速球のような速度で俺は投げ出される。

ぐるぐると視界が回るなか、俺は冷静に無詠唱術を使って魔法を使用した。

直後に俺の両手からプシューというような音とともに風が噴出される。俺が使った魔法は下位風魔法【スラスト】、風を噴出するだけの殺傷力の極めて低い魔法だ、しかしこの魔法は他の魔法にはないある特徴を持っている。

いくらこの世界には魔法という摩訶不思議技術があるとしても、基本的な物理法則は地球とほぼ同じだ、慣性の法則もその一つだ。実は魔法が発動して相手に向かって飛んで行く時、魔法と使用者が触れていなくても魔力の関係で慣性の法則が働いているのだが、アラン語の魔法ではその反動の無効化が標準で付いている、アイスキャンディー買ったら木の棒が残るぐらいナチュラルに標準装備されている。

おそらくは遥か昔の時代で発見されたのだろうが、そのせいもあってか、魔法を使ってその副作用が反動という形で帰ってくる魔法は非常に少ない。そんな中で、あえてその反動の無効化を無効化させた魔法が【スラスト】という魔法だ。

そして、【スラスト】は上手く使えば【フライ】とは違った形で飛行することも可能になるが、それよりもこの魔法はその特性から、空中(・・)で受身を取るときによく使われる。


俺はまず、放り投げられた為に回転している自分の身体を【スラスト】を使って止め、進行方向と同じ方向に続けて出力を上げた【スラスト】をしようして速度を落とす。

速度が落ちたあとはそのまま難なく地面に足を着けた。俺を投げたイヴィルハンドの方をみると、すでに魔法は役割を終えてキラキラと魔力に戻りながら消滅していくところだった。


「……そういえば……俺、瘴気吸ってもなんともないな……」


冥界の瘴気を吸えば死ぬ……んだが、以前の俺は別になんともなかった……いや、でも大丈夫だったのはアレ(・・)があったからで……もしかして失ってないのか……?う~む、謎は深まるばかりだな。

俺は一息ついたところで、ぐるりと辺りを見回して見る。

どうやら洞窟に放り込まれたらしい、土よりも赤っぽい岩が多いゴツゴツした感じの洞窟だ。木が所々に生えているが、木と呼んでいいのか分からないほど可哀想な風貌をしている、カッサカサじゃないか、保湿クリーム塗ってやろうか?


俺が久しぶりの冥界――しかも懸念していた瘴気の心配がない――でテンションが上がっているなか、洞窟の奥のほうから、「クケケケケ」というような、いかにも悪魔というような笑い声が聞こえてきた。


「クケケケ!クケッ、クケケ!イヒヒ―!つ・か・ま・え・た・ぞぉー!イヒヒヒー!クケケケケケ!」


狂ったように笑い叫びながら歩いて登場したのは、全身が赤い、ちょっと大きくなったゴブリンみたいな生物だった。頭には左右に1本ずつ10センチほどの角が生えている。

悪魔、でいいんだよな?いや、悪魔だよな……多分。おそらくあの言動からしてイヴィルハンドを使ったのはあいつだろうか、強そうに見えないがそう言う奴に限って強いのが冥界という場所だ、ただの小鳥が意味不明なほど強かったりするからな、油断は出来ない。


「イヒヒー!お前、アリスだなぁ!そうだろぉ?うん、そのハズだぁ。おれは間違えてないぞぉ!!クケケケ!」


その悪魔は何がツボにはまったのかずっと狂うように腹を抱えて笑っている。洞窟の中なので、その笑い声は俺の頭に響き、洞窟全体も震えているようだった。


「俺に何か用かよ」


俺はそいつに分かりきっていることを聞いた。すると向こうはその意図を汲んだようで、ニタァと気色悪い笑みを浮かべ、まだまだ笑いながらも説明を始めた。


「イヒッ!おれの(あるじ↑)からお前を排除するように言われたんだぁ、だからおれはお前を殺すんだぞぉ!アヒェエヘヘ!!」

「へぇ、あっそう……じゃあお前は俺の敵か」

「そうだぞぉ!クケケケケケケ!」


そいつは笑いながらもそう言った。ていうかこいつの「主」のイントネーション可笑しくないか?

いや、それよりも……こいつの主っていうのは……やっぱりアイツ、なんだよなぁ。ちっ、殺したんじゃなかったのかよ……


「……」

「アヒェヒェヒェ!……ヒェッ!」


少し沈黙――向こうはずっと笑ってたが――のあと、先に動いたのは相手だった。

一瞬笑うの止めたと思ったら、どこに隠し持っていたのか、鉈のような武器を取り出し、地面を蹴って俺との距離を急速に詰めてきた。

相手は鉈を振り下ろしてきたが、俺も“倉庫”から久々に雪華を取り出し、オーラを纏ってその攻撃を受け止める。が、相手の力は俺の予想以上に強かったらしく、俺は力負けしてしまい、そのまま押し込まれて足場の硬い岩の表面が砕けた。

向こうはそこで一旦距離をとり、ニマニマと気色悪い笑みを顔にこびりつかせた。相手は鉈を器用に振り回しながらも俺の出方を伺っている、既にそこには先程まで狂ったようにバカ笑いしていた悪魔はどこにもいない、今も笑っているが、どちらかというと相手を追い詰めるような威圧感のある笑みだ。


相手は俺が仕掛けないと見ると、再び俺に接近して鉈で攻撃を加えてくる。一見出鱈目に振りましているようにみえて、的確に俺の隙をついてくる。右肩と左の脇腹には既に肉が抉られた傷がついてしまった、切れ味が悪いせいか剣のようにスパッとはいかない、鉈を使っているのは相手をジワジワと嬲る為だろう。


まぁ、この悪魔は大体『伯爵』級といったところだろうか。実は悪魔社会の中にも貴族階級というものが存在する、まぁ人間の糞面倒なものと違ってどれだけ力があるかで決まってくるのだが。

一番下から『騎士』『男爵』『子爵』『伯爵』『侯爵』『公爵』『大公』、そして『魔王』さらに各階級でも第何位やらとか細かくランク分けだれている。

基本的には『魔王』以外には階級を決める権利なんて持っていないが……大体の基準からすれば……こいつはそれぐらいなのだろう。


ちなみに俺はコウクンにいたときに攻めてきたあの悪魔は最下級の『騎士』級にも遠く及ばない、よく冥界で生きてこれたなといまでも思う。

『伯爵』級といえば、5人集まると、人材に乏しい人間の小国一つくらいなら簡単につぶせるぐらいの戦力だと思えば分かり易いだろう。

鉈を振り回しているだけであまり危機感を感じないだろうが、あの攻撃は俺じゃ無ければ確実に腕がもげるほどの威力を持っていた。しかもまだあいつは全力じゃないだろう、大方本番前の肩慣らしといったところなのだろう。


「クケケケ」


狂い笑うことはなくなったが、それでも笑うことはデフォルトなのか、常に笑い声を上げながらも俺に追撃を仕掛けてくる。

向こうが止めを刺すように鉈を大きく振りかぶり、俺を叩き潰そうとしたところで、俺はようやく反撃に移る。


「カッ!?」


鉈を振り上げた悪魔はその腕がまるで固まったかのように動かなくなったことを不信に思い、そちらの方を向いて驚愕の声を上げた。

それもその筈だろう、自分の肩から鉈の先までが分厚く硬い氷に覆われているんだからな。それは雪華の能力で凍らせたものだ、パーシオンと戦ったときよちも数倍ほど魔力量が増えたからな、使う魔力の量が増えれば当然雪華が作り出す氷の強度も比例して上昇する。

俺はその隙を逃さずに相手の側頭部に雪華を一撃を叩きこむ。しかし、その寸前で瞬時に氷を砕かれ、腕の所々に凍傷を負いながらも鉈で受け止められた。流石に踏ん張りきることは出来なかったのか少しだけ横に足を滑らせたが、その距離も僅かに数10センチだけだった。


「クケケ……イイねぇ!おれに一撃入れるやつなんてェ久しぶりだぁ!イヒヒー!お前ぇ、なかなかやるじゃあねぇか!」

「そりゃどう、もっ!」


今度は俺から攻撃を仕掛ける。雪華に魔力を流して俺の身体能力を強化して、その上からさらにオーラによって強化された俺の身体能力はいつもの比じゃない。悪魔は突然先程とは似てもつかない速度で動く俺を一瞬だけ見失った。

その一瞬のうちに俺は悪魔の背後に周りこみ、音速を軽く越える速さで雪華を振り下ろす。


「キキ……!」


が、届かない。

悪魔はこの攻撃を読んでいたのか後ろを振り返るまでもなく鉈で俺の斬撃を受け止めた。そのまま力で押し切ろうとも思ったがビクともしない、くそ……今のままの俺の力ではどうあがいても勝てそうにないな……

そんな事を考えている間にも、相手は追撃を繰り出してくる。

首の左側と右足の腱を狙った斬撃を雪華で受け流したあと、次はメラメラと燃える炎が俺の目の前に迫った。


「ぐっ!」


咄嗟に雪華の能力で氷の盾を作りだすことができたが、それでも少し遅く炎を浴びたせいか俺の服は所々が焼けて灰になってしまい、両腕には軽い火傷を負うハメになってしまった。

特に行動に支障をきたす程の怪我ではないため、治療はせずに悪魔との距離をとる。


相手は凍傷も既に完治し無傷、こっちはところどころに火傷をおって、右肩と左の脇腹には傷がある。

……手を抜いている場合じゃないな。

ここが冥界である以上俺も気は抜けない、そのため魔力とオーラを空にする訳にはいかないので常に余力を残しつつ戦っていたが、このまま行くと死んでしまいそうな気がする。クレアが待ってる以上死ぬ訳にも行かないし……こうなれば一気にケリを付けるしかないか。


「クケケケ!もっと楽しませてくれよぉ!イヒヒヒヒン!」


悪魔はそう笑いながら悠長に歩いて俺の所まで向かって来ている様子だった。

そうかい、なら……その願い通りに思う存分楽しませてやるよ、感謝しろよ糞悪魔。


嫌な気分になるが仕方ない。

俺の身体からドスの聞いた赤黒いオーラが立ち上る、そして次の瞬間には、俺は悪魔の背中を切り刻んでいた。


「ガっ!?!?」

「遅い!」


どうやら相手側も準備をしていたらしく、背中はズタボロになっていたが致命傷にはなっていない、オーラは悪魔にとっての弱点の一つであり、オーラでつけられた傷は通常よりも遥かに自己治癒の速度が遅くなる。

俺は追撃を放つが今度はしっかりと受け止められてしまう、悪魔の方をみると、その身体の周囲にオーラとよく似たような黒い霧がうっすらと見えた、“上魔力(エーテル)”、なるほど、ソレを出せるくらいの実力はあるということか。


「だが……弱いな」


俺は一瞬だけオーラの出力を引き上げ、悪魔の身体を防御のために構えていた鉈と共に斜めに切り裂いた。そしてすぐさま俺はゼクトオーラを引っこめた、引っ込めると同時に胸の辺りがズキンと痛み出し、俺が胸を抑えながら地面に膝を着いた。

ふと悪魔の方をみるとズルゥ……と身体が二つに離れるところだった。体液はあまり出ておらず、しばらく経つと、悪魔の身体はサラサラと灰のようなものに変わって消えていき、そのあとには魔力結晶だけがその場に残っていた。

どうもみなさん!作者の僕です!

先日、遂に!100万PV達成しましたやったぜふぅうぅ!

いや~遂に100万超えましたよ……結構前の話のあとがきで、100万PV目標とか言ってたと思いますが、その時は無理だと思っていたのに出来てた……感無量、涙ダバァ、これからも頑張ります!


次回更新は一週間以内、みんな大好き期末考査のお時間です、ちょっと更新が遅くなるかもしれないです。


よろしければお気に入り登録か評価のほうもよろしくお願いします!

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