第39話 ネーミングセンス・ゼロ
「アリス……どうしたの?」
「ひめ……さ、ま?」
「?」
自分が無意識の内に紡いだ言葉に気付いてハッと我に返る。そして自分の両の頬を叩いて冷静になる、姫様は死んだ、もういない。今、俺の前にいるのはクレアだ。
そう自分に言い聞かせるとと、少し俺の頭も冷えてきて冷静に考えることができるようになった。
しかし冷静になってよく考えると……なんだこれ、訳が分からないのだが……確かにクレアの魔力は純粋な人間のモノだった、確かに魔力量がいまの時代の平均よりも多いがそれは人間の固有種と考えれば特に問題はなかった……
だが、いまのクレアからは逆に人間の魔力を一切感じない……感じるのは、森の守護者と呼ばれる森の精霊を始め炎の精霊、水の精霊、風の精霊、土の精霊、さらには滅多に表舞台には出てこない闇の精霊と光の精霊の魔力まで感じる、さらには複数の妖精の魔力まで。しかも容姿のほうも割りと重要だ、クレアはエルフの容姿をしているが、その髪の色が鮮やかな緑色なんだ、通常のエルフの髪の色はどちらかというと青っぽい緑色だ、緑色かと言われればそうじゃないくらいの青緑なんだ。人間には普通に緑色の髪を持っているやつがいるが、エルフの持つ緑色の髪は”ハイエルフ”の証でもある。そしてその魔力が宿る緑の瞳はエルフが持つ”心の色”を読む魔眼だ。
どうなってやがる、いまのクレアは完全にエルフ……いや、エルフとも言えないな、全体的に見ればエルフの魔力が半分を占めてはいるが、残りの魔力がヤバイ。いまのクレアは言うならば妖精霊とでも言えばいいのか。
俺が考え込んでいると、クレアは自分の耳に違和感を覚えたのか、フニフニの触っている、そして何か理解したかのようにこちらを向いて叫んだ。
「アリス!私の耳が尖ってる!」
「落ち着け、見りゃ分かる」
取り敢えず、俺のゼクトオーラがクレアにかけられていた封印を破壊したということでいい……のか?
いやしかし確かにあの感触は封印を破壊したものだった、実際クレアもこんなになっているわけだし。クレア自身が驚いているということは、恐らくクレアが生まれて間もない頃にかけられたモノなのだろう、しかも俺が気付かないほどの封印……かなりの実力者だな。しかもクレアの魔力量がそんなに増えてないことを考えると、まだ封印が残っているのだろう。さすがにあれだけの精霊と妖精の魔力を持っていてこの程度の魔力量な訳が無い。
ちなみに今のクレアの魔力は俺の数十倍、封印が解ける前は5倍くらいだったからな、これでもかなり増えてるんだが……まだ少ない。どれくらいかと言われれば俺もよく分からないが……いまの【ステータス】で見ればいまのクレアでも一千万くらいは軽く超えるんじゃないか?知らんけど。
兎に角、まずはここから出ようか、すっかり忘れていたがアインたちも気になるし、死んでなきゃいいんだけどなぁ……
俺は衣服が破れてしまっているクレアに”倉庫”から取り出した布を巻きつけてる。クレアは突然布を巻きつけられたためフゴフゴ言ってジタバタしている。
俺はいったんゼクトオーラを引っ込める。と同時に全身が鉛のように重くなる、いつもよりも重症で俺は地面に手を着いた、そして毎度お馴染みの吐血。なんなのこれ、俺の身体弱すぎないか、おそらくゼクトオーラを使ったことによる反動なのだろうが……あれ本気じゃないだぞ?ちょっと小指でチョンしたくらいの出力だぞ、これ本気で使えばその瞬間に俺身体爆発四散するんじゃないのか……おお怖い怖い。
取り敢えず【キュアー】をかけて立ち上がる、クレアはまだジタバタしてる。その間に俺は部屋の土壁に右手を着いて魔法を唱える。
『【ディグ】』
すると右手に触れていた土壁の土がゴゴゴと響く音を鳴らしながら形を変え始めた。独自土魔法の【ディグ】は単純に言えば土木作業をするための魔法だ、坑道を掘ったり溝を掘ったり堀を掘ったり、割りと便利な魔法だ、しかしこの【ディグ】は純粋な土しかを自由に変形させることができない魔法だ。
【ディグ】によって土はどんどんとその形を変えて、なにもなかった土壁に、上へ登るための階段が形成されていく。行き先は勿論俺がアインたちに向かうように指示したあの部屋、ゴゴゴと音を鳴らしているため気付かれるだろうが、まぁなるようになるだろ。
俺は布をとることを諦めて静かになったクレアの布を一端剥ぎ取り、こんどはきちんと顔が布から出るように巻きつけた。ついでに、姿を変える魔法もかけて、封印が解けるまえのクレアの姿に戻す。これでひとまずは大丈夫だろう。
クレアは土壁がどんどん形を変えていることに驚いていたが、俺が適当に説明すると頷いて俺の後ろに付いて一緒に階段を上り始めた。
ちなみに下で寝ている長耳たちは、クレアに気づかれないように始末しておいた。長耳の長は生きているとこれから面倒なことを持ってきそうだし、俺の殺気に当てられた長耳も死んでいるとは限らないし、念のためだ、方法は伏せておこう。
しばらくクレアと話をしながら階段を上っていくと、あるところで土壁の先が開けた場所につながり、明かりが舞い込んできた。ちなみに階段を上っていくときは俺が光魔法で照明用に光球を作っていた、クレアの瞳はキラキラと輝いていたな、かわいい。
階段からその部屋に出ると血と汗の生臭い匂いに鼻を刺した。視界に入ったのはあちこちに切り傷を作ったアインとリューク、ジェニーはすこし汚れてはいるが見たところ外傷はないし、下のほうも無事らしい。かなり怯えてはいるが、まあ魔力がほとんどないわけだし仕方ないか。
アインたち3人のほかに、部屋の中にはそこらじゅうに盗賊らしき男が血を流して倒れている、生き残っているのは頭っぽい大男とひョろっこい優男2人、それと子分っぽいのが一人か。どうやらアインとリュークはそれなりに腕がたつらしい、たった二人で女一人を守りながらこの数を相手にしてあの程度の傷か……なかなかやるじゃないか。
しかしそれなりいいときに出てきたようだな、しかしせっかくあそこまで数を減らしたんだ、ここで手を貸すのは無粋だろう。
「危ない!」
と、思ってたら斧が飛んできた。ジェニーはそれをみて悲鳴のような叫び声を上げた。俺はクレアに斧が当たらないことを確認してからスッと横に避ける、俺を通り過ぎた斧はそのまま俺たちが登ってきた階段の上部の土をすこしだけ削ってそのまま下のほうまで落ちていった。
しかし何故俺に向かって斧を投げたのか、斧を投げたやつは頭だったのだが、その隙にアインとリュークは素早く残りの盗賊に近づいて一気にカタを着けた。頭もそれなりの大男だったが、さすがに素手でどうにかなるわけもなく、あっけなく終わりを告げた。ジェニーのほうをむいてアインが笑うと、ジェニーは駆け寄って力いっぱいその身体を抱きしめて泣き出した。
「取り敢えず……帰らないか?」
クレアとジェニーが落ち着いた頃合を見計らって俺はそう提案した。
「ここは一応”魔の森”だろ?洞窟から出ると危なくないか?それにこんな時間に街の門が開いているとは思えないぞ。ジェニーやクレアも疲れている、今夜はここで休むべきじゃないか?」
そう言って反論してきたのはリュークだった、どうやらアインも同意見らしい。ごもっとも、でも俺は帰りたい。
リューク、お前地面で寝ると次の日どうなるか知らないだろ、いやお前なんか頑丈そうだから割りと平気かも知れないな……とにかく俺は孤児院のベッドで安らかに眠りたいんだ。女子陣(俺除く)もなんか嫌そうな顔をしていた。
女子陣の応援もあり、リュークとアインをなんとか説得することに成功した俺たちは洞窟の入口付近まで戻ってきた。
辺りは既に真っ暗で、梟の鳴き声のようなものが聞こえてきて、ガサガサと草木が音を立てていた。後ろから小さい悲鳴が聞こえた、この声はジェニーだな。クレアはなんか俺に引っ付いてニコニコしてます、なにこの娘……不気味。
俺は来た時と同じようにアインとリュークにロープを巻きつけた。流石にクレアとジェニーにそんな事をするわけには行かないので、俺に左右から抱きつかせた。女の子の甘い香りはしない、むしろ汗臭いです、当たり前ですけど。なんか2人の胸の辺りのフニフニが俺の腕に当たってるけど別に嬉しくはない、敗北感は感じた。ジェニーはともかくクレアって俺と同い年だよな?
そのあとはバトルオーラを纏って森を飛びながら帰った。あまり早く移動するとジェニーが粗相をしそうだったので気持ち遅め。ノクタスの街の南門に着いたときにはジェニーはなんかぷるぷるしていた。
「大丈夫か?」
「だだっだだだだ大丈夫よ!?」
どうやら大丈夫じゃないらしい、顔凄い赤いし。
いや、まさか……
「え、なに?ちょっと漏れたの?」
「~っ!?!?!?」
俺がジェニーに小さな声でそう聞くと、いっそう顔を真っ赤にして俺の肩を持って揺さぶってきた。何か言いたそうにしているが口がパクパクと動くだけで言葉は出てこないようだ。
つーか図星かよ……
街の門は案の定閉まっていたが、駐屯の兵士はいつもいる、それに今回は院長が手配してくれたのか、すぐに兵士が駆けつけてきてくれた。ちなみに【ハイド】を使っていたから面倒事には繋がらないようにしてある。
そうして俺たちは兵士に連れられて、男2人と女1人はこっぴどく叱られ、その後孤児院に帰ってはアンジェさんにまたこっぴどく叱られた。
こうしてクレアとジェニーの誘拐事件は無事に解決したのだった。
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皆様!本当に有難うございます!そしてこれからもよろしくお願いします!
次回も安定の一週間以内!目標は3日以内ですかね~。
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