第31話 赤竜の帝王
人の行き交う音で目が覚める。数日ぶりに柔らかいベッドで寝たせいか、いつもよりも起きるのが遅かった、しかし快眠だったな、身体がベッドから離れようとしない。
とはいえ、ゆっくりしている暇はあまりないので、まだ怠い身体を起こして身支度を整える。
俺は迷宮のいたのはてっきり3日ほどだと思っていたのだが、外では5日経っていたらしい、そして今日で6日目、あと2日、ギリギリだ、だが俺は一応はその期間内に帰ることができる手段を思いついた、俺の予想が正しければだが。
まぁその考えというのは、パーシオンの肉体の触媒になったあの竜玉を元の持ち主に返して、そのままその竜にノクタスの街の孤児院まで送ってもらおうという考えなんだが、普通の竜ならまだしも多分そいつは俺の知り合いだから大丈夫だろう
といってもその竜のいる場所が分からないのでは何もできない、取り敢えずギルドに行って情報を集めたい、近くに竜がいるならそれなりに認知されているハズだし。俺はそう考えて遅めの朝食を摂った後、”割と満腹亭”を出た、今日はここには帰ってこない、だろう、と思う、多分。
ギルドに付くと、朝方ではないのにそれなりの数の冒険者が居た。俺は何事かと思っていると、ギルドの依頼掲示板に大きな紙が張り出されているのを発見した。俺はそれを見てニヤリと笑みを浮かべる。
張り出されていた依頼の内容は、赤竜の捕獲だった。なんでも今日の明け方、近くの街の複数の冒険者のパーティが捕獲隊を組んで国の依頼を受けて赤竜の捕獲作戦を実行したらしい、赤竜を捕獲してどうするのかは明かされていないらしく、ギルド内では、竜の肉を食べるだの、鱗や革を剥ぎ取って装備を作るだの言っていたが恐らく違う、それだけなら生死問わずで依頼を出せばいいからな、わざわざ討伐よりも難易度が高い捕獲を依頼として出しているということは十中八九、その赤竜を国で飼おうとでも思っているのだろう。
まぁこの世界には、竜騎兵、ドラゴンライダーとも呼ばれる兵がいるのだが、そいつらは名前の通りドラゴンに乗って戦っている。そのドラゴンを竜にすれば当然のことに戦力が上がる、それが狙いだろう。ドラゴンは人間が飼い慣らしたといえばまだ聞こえはいいが、実際は奴隷にも使われる隷属契約と呼ばれるものを無理やり契約して、無理やりドラゴンを従わせているに過ぎない。竜にそれが効くと思っているのも滑稽だが。
それは兎も角、これによると、冒険者の討伐隊は赤竜を負傷させたもののアラクの森に逃げ込まれたらしい、そこで、アラクの森に近いこのコウクンの街の冒険者に赤竜の捜索&捕獲の支援の依頼が舞い込んできたらしい、報酬は、赤竜発見で金貨50枚、捕獲で金貨200枚と下級勲爵士の授与、勲爵士はようするに一代限りの貴族だ、地球ではナイトとかそういうのがあった気がする。
報酬の量もそうだが。下級とはいえ勲爵士を与えるということは一代だけだがそいつが貴族になるということだ、そこまでして赤竜を捕まえるということはどうやらこの国は本気らしい。
まぁ俺は依頼を受けないからどうでもいいが、赤竜の場所が大体だがわかったからそれで良しとするか。アラクの森にいるなら、移動しながら【エコーロケーション】を使って探せばいい、他の冒険者に見つかると面倒なことになるから探すなら早めに探したほうがいいな、冒険者と出くわしたら...いや、それはそのときに考えるか。
俺はその依頼を受けることなくギルドから出ることにして、南門に向かう。
南門から出てすこし歩くと、アラクの森に入るのだが、俺はさらに少し歩いたあと、整備された道を外れて道のない森の中に入る、左右どちらにいるかは運だが、俺からみて右側よりも左側のほうが森が続いているため、俺は左側に外れる。
そこからはオーラを纏って移動スピードを速くしてからときどき【エコーロケーション】を使って赤竜の捜索していく。たまに魔物と出会うが全部スルーした、君たちと遊んでいる暇はないのだよ。魔物以外にもちらほらと人間のような存在も見て取れた、それぞれ4、5人の冒険者のパーティだった、それなりの数の冒険者が捜索しているらしい。たまに魔物に食べられて無残な姿になった冒険者も発見した、南無。
捜索を始めてはや2時間、日も真上に登ってきた。かなり森の奥に入ってきたのか、冒険者もあまり見なくなった。そして遂に発見する。【エコーロケーション】を使うと、2、3メートルほどの翼を生やした生物を感知した、この姿は赤竜だ、しかし思っていたのよりも大分小さい、同じ赤竜だったパーシオンが5、6メートルほどあったからな、この大きさからするとこの赤竜はまだ子どもだろう。俺は自分の心の奥底である感情が暴れているのに気づいたが、いまはそんなことをしている場合ではないので、必死で落ち着かせながらも、赤竜の幼竜の元へ向かう。
見つけたその赤竜は酷い状態だった。身体のあちこちに傷を作り、背中から生えた翼が折れてしまっている。魔力は枯渇はしていないようだが、翼は治っていないところをみると残った魔力も少ないらしい。竜は俺を見つけると、怒ったような、恐れているような目を向けながらも必死でグルルルと唸り声を上げて威嚇してくる。俺は取り敢えず周囲に冒険者がいないことを確認するため、【エコーロケーション】を使った、すると運悪く、すぐ近くまで冒険者のパーティーが接近しており、しかもこちらに向かっているようだった。俺は威嚇する竜を無視して近づき、ヒシッと抱きついたあと、俺と竜に【ハイド】をかけたあと、姿を消す独自魔法【インビジブル】を使う、俺と竜の姿が透明になり、竜が狼狽える。【インビジブル】だけでなく【ハイド】も使ったのは、保険だ。
「すこし大人しくしていろ」
俺がそう声をかけると、竜も大人しく従ってくれた。
しかし【ハイド】と【インビジブル】の併用はキツイ。【ハイド】も今回は竜の巨体分、消費する魔力が増えているし、【インブジブル】も少々燃費が悪い、願わくば早々に冒険者に立ち去ってもらいたいのだが。
そう考えていると、俺の視線の先の木々の間から、複数の冒険者のパーティーが顔を出した。見たことない顔だな、もしかするとこいつらが捕獲隊とかいう冒険者の集団か。抱きついている竜も震えているようだ、抱きつく俺の力も若干だが強くなる。
冒険者の一人が透明になった俺たちのほうを見て声を上げる。
「あっれぇ?おかしいな、ここらへんに落ちたはずなんだけど...」
「本当にここに落ちたんだよな?」
「まぁ、アンタの言うことだからこんなことだろうだとは思ってたけどサ」
「お前らひどくね!?」
冒険者はその場で少し話しをしたあと、また違う方向に歩きだした。しばらくして、【エコーロケーション】の範囲外にまで冒険者が去ったのを確認してから、俺は【ハイド】と【インビジブル】を解いた。竜は俺の方を向いて不思議そうな顔をしている。
「済まないが、”人化”を使ってはくれないか?」
「...」
「警戒するのも無理はないが...いまの俺ではお前の身体を癒すほどの魔力は持ち合わせていないんだ」
「...」
俺は赤竜の幼竜に”人化”を使ってくれと頼んだのだが、赤竜の幼竜は警戒して”人化”を使ってくれなかった。しかししばらく説得を続けていると、やっと承諾してくれたらしく、その傷ついた竜の身体がみるみるうちに小さくなっていき、最終的には俺よりもさらに小さい、人間の10歳くらいの赤髪の少女になった。その少女も当然ながらボロボロで地面に座り込んでおり、腕の骨が折れていた、おそらくは翼が折れていた分が腕の骨に回ってきたのだろう。俺は少女に【キュアー】をかけて傷を治す、腕の骨を治すときは痛みで顔を顰め、涙目になっていた。
通常は、竜が”人化”を使うと魔力で衣服のようなものが生成されるのだが、少女は真っ裸だった、俺が思っていたよりも魔力が枯渇していたらしい。俺は”倉庫”から布を取り出し、少女の身体を隠した。
「俺の名はアリス、お前の名前はあるか?」
「...リィエン」
俺は目線を合わせてから名前を聞くと、消えそうな声で少女がそう呟いた。本当の名前かどうかは知らないが、まぁ良いだろう。
しかし、ここからが本題だ。俺の予想が正しければこいつはあの竜の子どもだ、恐らく巣にいるだろうから会いに行けばいいのだが、それがどこか分からん、洞窟なのか、山の上なのか。俺は無理を承知でリィエンに頼んで見ることにした。
「リィエン、お前たちの家を教えてくれないか?」
「...どうして...?」
「会いたい竜がいる、恐らくはお前たちの親か...その親だとは思うんだが」
「...」
「...やっぱダメか?」
「...いいよ、アリスは私を助けてくれた...良い人だもん」
「...そうか」
コイツを助けたのが俺で良かった。ただ単に捕獲するだけのやつらもいるが、人間にはわざと怪我を治療して、信頼を得てから行動に移す下衆もいるからな、この子はまだそういった人間の黒い部分には触れていないらしい。
俺は布に包まれた少女の身体を所謂お姫様抱っこという形で抱きかかえて移動することにした。リィエンは自分の巣の場所はある程度わかっているらしく、その方向を逐一俺に教え続けてくれた。
その通りに進んでいくと、地面から苔がなくなり、周囲もだんだんと木々が減っていった。ついた先は岩山、この山はかつて火山だとかなんとかで、いまはその火口がぽっかりと空いているらしく、そこに暮らしているらしい。岩山はかなり急で、崖といっても遜色はないほどのモノだった。流石にこの岩山をリィエンを抱えた状態で登るのは今の俺では困難なため、俺の背中にリィエンが抱きつく形になった。
前にアラクの森に飛ばされてきたときにも崖は登ったが、この崖はそう簡単にはいかないようだ。突起が少なく、手足を引っ掛ける場所が少ないため、俺は指の先に爪のようにオーラを纏わせて、その爪を突き刺しながら登っていった。
登り始めて数十分、背中のリィエンは下をみてはしゃいでいる。そんなこんなで俺は頂上までたどり着いた、すこし先には大きな穴が見える。
俺は背中のリィエンを再度お姫様抱っこしてからその穴に飛び込む、リィエンはそれでまたはしゃいでいた。このままだと流石に俺の足がポッキリ折れて、膝から骨が飛び出すという大惨事になりかけないので、古代風魔法の【フライ】を使う。この魔法は風を纏って空中に浮く魔法だが、俺はその魔法を使って落下の衝撃を無くした。
穴の中には数匹の赤竜のその竜たちの倍以上の大きさを誇る巨大な赤竜がいた、その巨大な赤竜は元気がないのか、グッタリしている。いきなり空から降ってきた人間に驚いているのか、俺が抱えている”人化”したリィエンに驚いているのか、俺とリィエンを見比べながら数匹の赤竜たちは狼狽えていた。
そんな中、俺は巨大な赤竜に話しかける。
「よお、随分弱ってるみたいだな、セーゼルヴェージュ」
赤竜帝セーゼルヴェージュ
赤竜の固有種であり、俺の1000年前の知り合いでもある竜だ。
なんで予約投稿できてないんですか!?予約投稿はしっかりした筈なんですけどねぇ...
多分次回で2章が終了になると思います!
次回更新は一週間以内、がんばって近日中にあげたいと思います!
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