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第29話 情熱の赤き竜

 俺の狙いは竜の魔力の枯渇だ。魔力が枯渇すればあの竜の尋常じゃない治癒速度も無くなる、その為にはあの竜の身体に無数の傷を作る必要がある。

 ブレスを使ってくれればさらに魔力の減りが早くなるのだが、それを狙うのは少しリスクが大きい気がする、あの竜もブレスばかり使ってくる訳じゃないしな。


 俺が竜に再び付けた複数の傷はすで完治している、竜は俺の方を睨みながら唸り声を上げていた。


「グゥ...ちょこまかとすばしっこい奴だ...!」


 竜の口から炎の塊が漏れる。竜が口を開けると同時に無数の炎が放たれた。

 流石は炎の竜として名高い赤竜の炎だ、俺と竜の間には少し距離があるが、それでも肌がピリピリとその熱気を感じ取っている。

 だが、口を開いたのは間違いだったな、ブレスならまだしも、その程度の炎なら雪華の能力でなんとかなる。

 俺は雪華に魔力を注ぎ、能力を発動させながら竜に向かって走り出す。走りながら俺は雪華の能力で俺の周囲の空気を冷やす、俺は竜の放つ炎を避けながら竜の口の目前まで飛ぶ。

 自分が広範囲に放った炎に視界を遮られていたのか、自分の目の前に現れた俺を見て竜が驚愕の声を上げる。


「なに!?」


 驚く竜を他所に、俺は雪華を竜の口に突っ込むと、雪華の能力で氷を生成する。雪華の切っ先から花が開いたように鋭い氷が伸びる、流石に貫通はしなかったが、その氷は半分ほどは竜の炎で溶け、もう半分は竜の口内を切り裂いた。

 俺は竜の鼻先を蹴って再び距離を取る、流石にあの爪で切り裂かれたらどうしようもないからな。口の中をズタズタにされた竜は炎を出すのをやめ、口から血と水を流しながらうめき声を上げる。その目にはもう俺に対する殺意しかない、最初の余裕はどこに行ったのか。

 竜は俺を憎々しげに睨みつけた。


「おのれぇ!」


 竜は次は己の肉体のみで勝負を仕掛けてきた、竜は巨体だが、それに似合わず足が速い、俺との距離を詰めるとその強靭な爪が付いた右前足を俺に振り下ろしてきた。俺はそれを横に飛んでよける、竜の爪はそのまま迷宮の地面を抉り取っている、流石にアレを受けたらひとたまりも無さそうだな。

 俺は振り下ろされたその竜の腕を切りつけてみたものの、鱗に傷が付いただけだった。俺はそれを確認すると竜と距離をとる。

 俺が距離を取ると、待ってましたと言わんばかりに竜が今度は左の前足を振り下ろしてくる。俺はそれをギリギリで避け、竜の爪の付け根から雪華の刃を入れる、俺が雪華を振るう速度と竜が腕を振り下ろす速度

 が合わさり、今度は竜の腕の爪の付け根から60センチほどが裂け、血が飛び散る。

 そのあとは、竜がブレスや炎と行った遠距離攻撃を使うことはなく、接近戦闘が続いた。竜の身体も順調に傷ついていたが、俺も無傷というわけではなかった、竜の爪を避け損ねた訳ではないが、少し爪を避けるときに距離が近いと、爪に触れてもいないのに傷がつくのだ。所謂かまいたちというものだろう。

 大体竜との戦闘が始まってから10分が経った、あと5分。竜の方も少しバテてきた様だ、俺のほうもそろそろ限界が近い。

 自分の危機を察したのか、竜は自分の尻尾をなぎ払い、俺に距離をとらせた。竜の口からは炎が漏れる。決めにかかってくるか。

 竜が炎を吐き出すために口を開けるとその炎が弾けた。その炎は俺を攻撃する為のものではなく、俺の視界を遮り、行動を妨げるためのものだ。しかし、その炎が俺に到達する前に、その炎の中から一筋の光りが伸びた、竜のブレスだ。

 最初のブレスのように全力ではないため、あまり持続性はなかったが、それでも迷宮の地面を抉るほどであり、威力は十分だった。

 ブレスが終わり、自分の前方の視界に先ほどまで戦っていた相手がいないのを見て、竜はほくそ笑んだ。

 さて、ここで問題だ、何故俺はいまの状況を事細かに説明できるのか、答えは簡単、それが見える場所にいるからだ。一応言っておくが俺が死んで幽霊になって傍から見てるとかそういうんじゃない。単純に俺は見えるんだ、なぜなら俺は竜の頭上にいるのだから。

 竜はまだ前方を見てほくそ笑んでいるため、頭上の俺には気づいていない、これが昔の竜ならこうはいかないんだろうけどなぁ。

 俺は落下する速度を雪華に乗せて、竜の背中に雪華を突き刺す。


「笑うにはまだ早いぜ、赤竜!」

「ゼラァァァァァァァ!!!!」


 突然の痛みに竜が悲鳴をあげたが俺をそれに構うことなく、俺の残りの全魔力を雪華に注ぎ込み、竜の体内に氷の刃を作り出す。俺が刺した場所は丁度竜の心臓の真上、少しのズレはあるだろうが、それを補うように氷の刃を作ったから大丈夫だろう。体内から作られた氷が竜の鱗を突き破る、いや、突き破るというよりも弾けとんだというほうがあっているかも知れないが。

 心臓を貫かれた竜は、それまで聞いたことのない声を上げ、力なくその巨体を地面に落とし、最後にその長い首が地面に倒れた。傷はもう治らない、魔力は最後のブレスを放った時点でほぼ枯渇状態、残った魔力ではいまの傷には焼け石に水だろう。

 しかし俺も無事ではない、竜の魔力は枯渇したが、俺の魔力も空だ、竜が倒れた衝撃で俺も地面に投げ出されたが、受身を取る気力もなかった、目眩が酷い、頭痛もする、なるほど、魔力がなくなるとこうなるのか、確かに戦闘中に魔力が無くなると死ぬな、これは。

 それでもまだ倒れるわけにはいかない、俺は雪華を地面に突き立てて杖がわりにしながら、フラフラしながらも辛うじて立ち上がる、そんな俺に、まだ息絶えてなかったのか、目の前の竜から声がかかる。


「クハハ...もうよい、我はじきに死ぬ、完敗だ...」


 俺はその言葉を聞いて力が抜けたのか、再び地面に倒れこむ、竜が嘘を吐くなんてことは俺の経験上考えられないが、いつの時代もイレギュラーは存在する、俺は油断せずに竜との会話を始めた。


「...まだ死んでなかったか」

「そう構えずとも...もう我にはお前を殺すほどの力は残っておらんというのに...」

「...これは俺の癖みたいなものだ、気にしないでくれ」

「そうか」


 竜はどこか嬉しそうな声色で話している。恐らく自分が倒されたことが嬉しいのだろう、よくあることだ、そういった強者は常に、自分より強者が出てきて自分を倒していくのを夢見ている。圧倒的な力ほどつまらないものはない、ただ単なる戦闘狂という可能性もあるのだが。


「...そこまで俺に殺されたのは嬉しいか?」

「クハハ...お見通しか、なに、我も好きでここにいる訳ではないからな」


 迷宮のボスには2種類ある、1つは迷宮が1から作ったボス、もう1つは触媒になるもの用意し受肉させるボス。どちらも強く、迷宮の命令に従順だが決定的な違いがある。前者は迷宮自らがボスを動かし、後者は触媒が受肉されたときに出来る1つの独立した自我がその肉体を動かす。もっといえば、迷宮は本能のようなものがあるが、一切学ばないため、進歩がない、一方、後者は自我があるため、戦えば戦うほど強くなっていく、今回俺がこの竜に勝てたのはまだ、こいつが戦いなれておらず、さらにはまだ竜としての能力を扱いきれていなかったからだ。竜の治癒速度は速いが、その速さと引き換えに大量の魔力を消費する、普通の竜はすこし傷が付いたくらいではその能力を使わない、この竜はその能力の制御ができていなかったからこそ魔力が枯渇してしまったんだ。

 そんなことを考えていると、今度は真剣そうな声で竜が頼んできた。


「...最後に、頼みたいことがある」

「...なんだ」

「我が死んだら、この身体が消え去り、触媒となったモノが残ると思うのだが、それを持ち主に返してやって欲しい」

「...そいつはまだ生きてんのか?」

「あぁ、我の中に宿る力と同じ力を近くに感じるのだ、間違いないだろう」


 こいつ(竜の身体)の触媒になるものとなると、同じ竜の身体の一部ということになるが...触媒になるようなものなどそう簡単に落ちているものではない、竜の身体で触媒になるものと言えば―――


「...その触媒はなんだ」

「竜玉だ」


 やっぱりか。竜玉というのは、竜が体内にもつ魔力結晶の通称だ。普通の魔力結晶に比べて、すこし変わった外見をしているため、普通の魔力結晶と区別されることが多い。しかし竜玉というのは竜にとって第二の心臓のようなものだ、竜玉が無くなると竜は魔力を生成、もとい回復できなくなる、つまり弱ったら、魔力が枯渇したらゲームオーバーなのだ、しかもそれが数百年も続いてなお生きていける竜、そんな竜がいるとすればそれは...


「頼めるか...?」


 俺の思考を遮って、竜がそう訪ねてきた。


「...あぁ、大丈夫だ、任せておけ」


 俺はそれも二つ返事で答える。


「そうか...おぉ、忘れていた、お前、名はなんというのだ」

「...アリスだ。アリス・エステリア、お前を殺した人間の名だ、覚えておけ」

「クハハ...そうかアリスか、うむ、覚えておこう、忘れてなるものか」

「...お前の名は...ないのか」

「あぁ、我はここで生まれたからな」

「...そうか、なら俺が名づけ親になってもいいか?」

「なんだと...?」

「...自分の殺した相手()の名前を知らないというのはダメだろう」

「そう、か...そういうことなら、お前が我に名をつけてくれ」

「...なら、パーシオン、お前の名はパーシオンだ」

「パーシオン...クハハ、最後の最後に名ができるとは、生きた甲斐があった」

「...そうか、そりゃ良かった」

「...そろそろ限界の様だ、さらばだ、アリス」

「...あぁ、また来世にでも会おうぜ、パーシオン」


 竜は嬉しそうな笑い声を上げたあと、静かに息を引き取った。竜の身体が淡く光り、その光りと共にその身体はゆっくりと朽ちていった。あとに残ったのは人の頭よりも大きい丸く、表面の方は白く透き通り、中心が燃えるように赤い石だった。

 パーシオンはpassion、英語で情熱という意味の単語から取った名前だ、情熱の赤というくらいだからな、安直な名前だったが喜んで貰えて良かった。それにしても、いつの時代も、強者が去ったあとは静かなものだ。

 パーシオンとはギリギリで会話していたが、俺もかなり限界だ。俺は空中に飛んだときにあとの事を想定して”倉庫”から取り出しておいた回復薬を懐から取り出す、ビンは割れていないようで安心した。取り出しておいた回復薬は1000年前のもので、かなりの上物だ。俺はビンの蓋を開けると鉛のように重いその腕で、特に傷が深い場所に雑に垂らし、そのあとで塗りたくっていく、塗るときに鋭い痛みが走り声が漏れるが我慢して塗っていく。全部の傷を治すほどの余裕はないが、これで出血死は免れるだろう。

 俺は重い瞼を閉じ、深い眠りについた。

2章も終わりが近づいてまいりました、どうもみなさん!僕です!

春休みになりました、3年生はつらいです。


次回は一週間以内、頑張って近いうちに更新したいとは思っているのですが、思い通りに進みません...


それでは、お気に入り登録または評価のほどよろしくお願いします!

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