第26話 ギルドマスターは大体おっさん
俺を追いかけてきた3人の冒険者を屠った後、俺はもときた道を引き返して冒険者ギルドに戻っていた。
中では相変わらず冒険者が依頼も受けずに酒場で酒に溺れていた。受付には冒険者が並んでいなかったため、俺は先ほどとおなじ受付嬢のところにいく。
「あれ?レイクさん、どうしたんですか?」
「あぁ、ちょっとな...これを売却したいんだが」
俺はそういうと懐から例の赤い石を取り出す。そしてゴトという音を鳴らしながら受付に置いた。俺がこの石、魔力結晶を売れるかどうか確かめると、受付嬢の顔には汗が浮かんでいた。
「えっと...確認させてもらってもよろしいでしょうか?」
「もちろん」
俺が許可を出すと、受付嬢は魔力結晶を手に取り、マジマジと眺めてから再び受付に置いた。そのときの受付嬢の顔からは汗がダラダラと流れている。
「えっと...これ、魔石ですよね...?」
受付嬢がそういうと横にいた受付嬢二人も驚いたような声をあげた、そしてその声を聞いて酒場にいた冒険者全員が一斉にこちらを向いた。
魔石というのは魔力結晶のことだ、魔力結晶という名前もここ数百年のうちに変わったらしい、ということが学園の図書館の本に書いてあった。
「あぁ、そうだが...なにか問題でも?」
「い、いえ...大丈夫です」
「で、それは売れるの?」
「は、はい!ちょ、ちょっと待ってくださいね...!」
受付嬢はそういうと魔力結晶を大事そうに持ってから受付の奥へと消えていった。そして流れる静寂、視線は俺に集まっている。他人に見つめられるっていうのはあんまり好きじゃないんだけど、まぁ仕方ない。
しばらくすると、上の方から慌てた様な大声が聞こえてきた、その次にドスドスとなにかが階段を下りてくるような音。
「お、お待たせしましたぁ!」
俺がその方向を向いていると現れたのはあいも変わらず受付嬢、しかしその後ろには筋骨隆々の髭を生やしたおっさんが立っていた。
「おぉ、お前がレイクっつう冒険者か!?」
おぉ、なんとも暑苦しそうなおっさんを連れてくるじゃないか。
周囲の冒険者はこのおっさんを見て驚いた表情を見せている、ま、このおっさんの正体については大方察しが付くがな。
「おっと自己紹介がまだだったな、儂はボルボ、このギルドの支部長をやってるモンだ」
やっぱりか、昔から筋骨隆々の髭の生やした熱いおっさんは大体ギルドマスターだったからな、たまに女性のギルドマスターがいたが。
若干引き気味の俺だが、そんなことはお構いなしにおっさんは俺に向かって大声で話す。
「これをどこで手に入れた!?」
「昨日の襲撃で倒した謎の生物から」
まぁ正確に言えば、魔力結晶はどの魔物の体内にも存在するが、そこらへんの魔物の魔力結晶は小さすぎて見つけることがまず難しい、だが冥界の生物や強力な魔物は体内にそれなりの大きさの魔力結晶を生成する。この地上の魔物なら竜とかが持ってるな。
その他にも、たまに鉱山なんかから掘り出されたりする、おそらくいまの時代の魔法武具に使われている魔力結晶はほとんどが鉱山から出たものだろう。だが山から取れる魔力結晶はかなり粗悪なものが多い、この魔力結晶を決して高純度というわけではないが、山から取れるものに比べればかなりの品質に見えるだろう。
俺が正直に答えるとおっさんは少し考えるような仕草をしてから売値についての話しを切り出してきた。
「ぬぅ...まぁそれは置いておくとしようか、兎に角、この魔石の買値だがな、これくらいでどうだ?」
おっさんはそういうと俺に1つの袋を渡してきた、中身をみると金貨が5枚ほど入っている。
「あぁ、じゃあこれで」
「交渉成立だな」
俺が袋を受け取ると、おっさんは魔力結晶を持って「じゃあな」と手を振りながら奥へと消えていった。なかなか勢いのあるおっさんだな。
おっさんが去ったあと、俺もギルドを出ようか考えていると、受付嬢が話しかけてきた。
「そうだ、レイクさんって、いつもは迷宮に潜ってるんですか?」
「迷宮?」
迷宮とは、所謂ダンジョンのことだ。どうやって出来るのかは良く分かっていないのだが、迷宮の奥にあるコアのような魔力結晶が本体だとかなんとか。それはともかく、迷宮は外から魔物を連れ込んだり、内部で魔物を作ったりするのだが、内部で死んだ冒険者の武器防具がたまになにか特殊な能力を持って配置されていることが多々ある。某RPGのように迷宮内に宝箱のような木箱が設置してあり、その中に、魔力を帯びた武具が入っていたりする、当然ミミックの場合もあるが。それ以外にも、迷宮が新しく武器や防具を生成したり、メリットとデメリットが高い位置でバランスがとれている。
結論から言うと迷宮はすごく美味しい場所という意味だ。
「あれ?知らないんですか?このコウクンの街は迷宮都市として有名なんですよ、あの襲撃も迷宮から出てきたモンスターによるものですし」
迷宮都市というのは、迷宮の近くにある街のことだ。迷宮の近くに街を建てると、たまに迷宮から襲撃を喰らうのだが、わざわざ危険を冒してまで迷宮の近くに都市を構えるのは、迷宮を潜るために集まってくる冒険者でわりと賑わうからだ、そのほかにもいろいろと経済効果とか迷宮の退治とかいろいろあるらしいのだが、俺はあまりそういうことに詳しくないのでよく知らない。
なるほど、そうなのか、迷宮都市か、へぇ...
昔の俺は迷宮に入っては良い武器を集めていた。”倉庫”の中にもそうやって集めた武器防具がゴロゴロと転がっている。
すまん、クレア、アンジェさん、ついでに院長とか孤児院のみんな。
俺、8日以内には帰れないと思う。
「kwsk」
俺は受付嬢の方を向いてそう言った。
それから俺は受付嬢、いまさらだが名前はミンクというらしい、から迷宮についての説明を受けた。
それによれば、迷宮はF~A、S、SS、SSSの全部で9段階に分かれており、それぞれ、自身のランクと同等かそれ以下のクラスの迷宮にしか入れないらしい。例えばCクラスの迷宮なら、最低C-ランクの冒険者からしか入ることができないといった感じだ。
コウクンの街の周辺には、E、C、Bクラスの迷宮が存在しており、数ヶ月に1回程度の割合で、街のすぐそばにあるCクラスの迷宮から襲撃されるらしい。まぁ、Cクラスの迷宮といっても、迷宮内の魔物が全てCクラスというわけではなく、上の階層なら、FクラスやEクラスの冒険者が相手をするような魔物しかいないらしいし、襲撃してくるのもそのような魔物ばかりだという。そういうこともあって今回の襲撃は異例だったようだが。
とにかく、俺はつい昨日ランクがB-になったため、ここ周辺では最高クラスのBクラスの迷宮に潜ることができるわけだ。あぁ、胸の高鳴りを感じる。
とりあえず迷宮の中で俺に似合う武器を掘り当てたい、あわよくばお土産でも持って帰りたい。
取り敢えず俺は受付嬢のミンクさんに迷宮の場所を聞いた。Bクラスの迷宮、通称”アラクの迷宮”は、俺が転移してきた森、”アラクの森”の中にあるらしい。まぁ道が整備されていて迷うこともないし、迷宮が近辺の魔物を吸い寄せているため、あまり魔物も出現せず比較的安全だとかなんとか。ということは俺がクリムゾンウルフと出会ったのはある意味幸運だったという訳か。嬉しくないな。
そして迷宮に行くならと教えられたのが”アイテムバッグ”と呼ばれるもので、ようするにかの青狸が装備する四次元空間と繋がるポケットと同じようなもので、俺がこの世界にきたときに持っていたポーチとも同じような感じのものだ。なんでも古代の遺跡やらなんやらで、このアイテムバッグを作るための魔法道具が見つかったらしく、それを使って、いま世界中の高ランク冒険者の間で流通しているとかなんとか。
なぜこのアイテムバッグが作れるのかは全くといっていいほど分かっていないらしいが、残念ながら俺は知っている、というか昔は必需品だったんだけどな。これは空間魔法で内部の空間を広くしてあるだけだ、その魔法道具は昔よく使われていたものだな。多分。
ちなみに空間魔法で広げた空間に入れたものは重量もかなり軽くなるため、かなり便利な代物だ。まぁ空間魔法で広げられる大きさも無限というわけではないし、万が一バッグやらポーチが壊れて、掛けられている空間魔法が解けた暁には内容物が飛び散るという欠点がある。それでも便利だからみんな使ってたけどな。
ちなみに俺の持っているあのポーチは無限にはいる、そう、無限に。なんでも入った、だからあの中にもいっぱい余計なものが入っているとおもう、今度気が向いたら”倉庫”から出して中身を調べてみるか。
まぁその話しは置いといて、今ではそのアイテムバックとやらを持つのが一流の冒険者としての一種のステータスらしい、俺も、さすがにあの小さいポーチにデカイ魔物の死体を入れることはできないし、昔はそのせいもあってか異空間生成魔法を作ってからは、”倉庫”に全部送ってたからな、流石にこの外套のなかから魔物の毛皮をドサドサ出すわけにもいかないので、俺はギルド推奨の道具屋でアイテムバッグを購入することにした。
価格は大体金貨数枚が一般的らしいが、すこし良いものになると金貨数十枚ほど持っていっかれるらしい、”良いもの”というのはアイテムバッグの素材のことだ。一番低ランクのものでもそこそこ良い素材らしいが、良いものになってくるとそれこそ防具に使われるような素材が使われているらしく、そんじょそこらの武器じゃ、武器の方が壊れるらしい。まぁ、俺はどうせアイテムバッグに物を入れたあとは”倉庫”にしまうだろうからあまり考えなくていいだろう。
こんにちは!僕ですよ!
なんか最近自分でも何言ってるかよく分からないことがあるんですけど大丈夫ですかね、大丈夫だよね。
次回は一週間以内、早ければ2、3日後に更新できるかな?
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