第25話 金欠は怖い
目が覚めるとそこは昨日と同じ天井。結局、昨日は夜遅くから街を離れる気にはなれず、しかもランクが一気にB-になり俺が若干動揺していたことも考慮して、昨日は”割と満腹亭”に再度泊まることにした。
ところで、昨日ギルドで受付嬢から受けた報告に戦慄を覚えていると、後ろから俺が助けた?あの女性パーティーの冒険者に声をかけられた。そのときは助けてもらったお礼とやらを伝えてくれただけだったのだが、その時の彼女の頬がほんのり赤く染まっていた事を俺は見逃しはしない、ついでに彼女の後ろの方の酒場でこちらを向きながらニヤニヤしている同じパーティーの女冒険者たちのことも見逃しはしない。
そうです、恋愛フラグです。立ちそうなんじゃなく立ったあとじゃないですかヤダー。
まぁその時は普通に別れたのだが、早急にここは離れたほうが良い気がしてきた。俺に知り合いが増える―向こうから一方的に知り合ってくるんだが―と俺の正体がバレたり、いろいろ面倒臭い奴が寄ってきたり、厄介事に巻き込まれたりとロクなことがない、ソースは俺。もうあの悪夢は繰り返したくない。
昨日と同じ部屋の窓から外を眺めると、酒に酔いつぶれた野郎どもが道で仲良く寝そべっていた、もうね...アホじゃないかと。強いか有名かは知らんがあんなのただの酔っ払いじゃねぇか。
俺は身支度を整えて一階に降りる、そのまま昨日は食べれなかった朝食を食べた。夕食も美味かったが朝食はサッパリしてて良いな、女になった影響かどうかは知らんが、あまり脂っこいモノは食べれないんだよな。
朝食を食べ終わると、俺はおばさんに部屋の鍵を渡す。
「今夜もまたウチに帰ってくるのかい?」
おばさんは屈託のない笑顔でそう言ってきた。昨日、この宿に泊まりに来た時も同じようなこと言ってたぞ。まぁその日出た客が同じ日にまた来るなんてことはそれほどないだろうが。
俺はおばさんの言葉を華麗に捌いて宿を後にする。出来ればもう戻ってきたくはない、この宿が嫌いというわけではないが、俺も一応やることがあるからな、しかもよく考えればあと8日しかない、初日はまぁ良いとして昨日がな、どこかへ行こうとしたらおっさんどもに囲まれて宴会だのなんだの...結局半日ほど無駄な時間を過ごしたからな。
どうやってもここからノクタスの街に8日以内に帰ることは不可能なのだが、1度決めたことを簡単には覆したくはない、ギリギリまでやるだけのことはやってからはっちゃけたい。俺は取り敢えず、冒険者ギルドに昨日の緊急依頼の報酬をもらいに行くことにした。なんでも俺への報酬の額がまだ決まっていなかったらしく、受付嬢から明日また来てくださいと言われていた。
そうこうしているうちに冒険者ギルドについた、扉を押し開けて中に入ると、内部の冒険者の視線が一気に俺に集まる。やめろ、気持ち悪い。
あるものは俺をみて値踏みするように見つめていたり、よく分からないが周りが見ているから見てるような感じのやつだったりだ。なぜか女冒険者からの視線が熱いのはつまりそういうことだろう、女性の間で噂が流れるのは相変わらず速いんだな。
俺は昨日と同じ受付嬢の列に並び、昨日の襲撃でかなりの数の冒険者が休んでいるのか、いつもならギルドが混むはずの朝方にもかかわらず、それほど待ち時間なく俺まで順番が回ってきた。
「あ!レイクさん!」
「ども」
俺を見てパァと表情を明るくさせる受付嬢、その受付嬢の表情を見て、酒場で酒を飲んでいる優男の数名が軽く舌打ちをする。
俺はそれを聞かなかったことにして、受付嬢に話しかける。
「報酬のことだが...大丈夫か?」
「はい!大変でしたよ~それでですね、レイクさんへの緊急依頼の報酬ですが...」
受付嬢がそういうと、関係ないはずの周囲の冒険者までもが緊張して聞いているようだった。いまギルドは静寂に包まれている、おい、喋れよ。
「えーいろいろと計算しました結果...16万8900ジル、金貨16枚と銀貨89枚になりました!」
「「「「「うおおおおおおおおおお!!??」」」」」
受付嬢が金額を告げると、その額の大きさにギルドにいた冒険者のほぼすべてが驚愕の声を上げる。そうしなかったのはラックスやそのパーティーメンバーなどの高ランクかつ俺の戦闘を見ていたやつらだ。
ラックスなんかは俺の方をみてニヤリと笑っている。
それにしても金貨16枚と銀貨89枚か、大体初期の報酬の約33倍か、Bランクの平均的な報酬が銀貨50枚前後、報酬の良い依頼だと金貨3枚いくかどうかだ、Aランクの依頼の報酬にも匹敵するほどの額だな、驚くのも無理はない。
しかし俺の報酬の額を聞いて大人しく見ているだけの奴らが全てというわけではない、俺の方を見て良からぬことを考えているやつもいるだろう。どうせならこんなに大勢の人がいる場所じゃなく、どこか個室で話せばと思いもしたが、個室に入るほどの報酬となるとそれはそれで寄ってくる奴もいるだろうし、避けられないか。
俺はとりあえず報酬の金貨銀貨が入った袋を懐にしまう、俺は依頼を受けることなく冒険者ギルドをあとにした。
そして案の定俺の後方数メートルの場所に数人の気配、俺の高額の報酬狙いだろう、冒険者の収入は一般市民に比べれば段違いに高い気がするが、低ランクだと普通に生活することすら敵わないし、D、Cランク程になってくると一つの依頼で一般市民の1ヶ月分の収入を超えるなんてザラだが、そもそも普通の冒険者は最近の俺のように毎日毎日依頼を受けるわけではない、せいぜい一週間に1回か2回程度だろう。
加えてD、Cランクの依頼は討伐依頼が多く、報酬も良いため討伐依頼を受ける冒険者が大多数なのだが、魔物と戦えば装備が傷付き、壊れる可能性もある。整備にはもちろん金がかかるし、壊れた場合は新調するにもさらに金が要る。冒険者は割と金欠が多いんだよなぁ。
そして目の前には大量の金を持った小さい黒い変な奴、見るからに弱そう。もちろん俺の戦闘風景を見ていたやつは襲おうとは思わないだろうが、あの場所にいたのが冒険者の全てというわけではない。俺をつけている冒険者はおそらく俺のことを知らない冒険者だろう、いや、もしかしたら聞いて知っているのかも知れないが、噂だのなんだので信じてない奴らなのだろう。
俺は進行方向を変えて裏通りに入る、その際にチラッと後ろの奴らを見てみたが、いかにも弱そうな優男の集団だった。弱そうだが、顔だけは厳つい様な雰囲気を醸し出している、イケメンなら様になったんだろうが残念ながら違った、南無。
俺が裏通りに入ったことで後ろの奴らは慌てて追いかけてくる。俺は裏通りの奥に進んでから後ろの奴らを待ち構える。
少し待つと、息を少し切らした冒険者集団が俺を見つけてニヤリと笑った。総員3名、全員男、俺の背中に悪寒が走る。
「お、おい!有り金を全部置いていけば命だけは助けてやるぜ!」
リーダーと思われる染めるのに失敗したような汚い金髪の男が俺にそう叫びかける。声が震えている、こういったことをするのに慣れてないのだろう。有り金が欲しければいきなり切りつけてきて殺してでも奪い取ればいいものを。中途半端な悪人だな。
俺はその提案を鼻で笑い飛ばした。
「ハッ!俺の持ってる金欲しけりゃ力づくで奪って見せろ」
「なっ!?」
俺がそう言うと向こうは顔を真っ赤にして怒り狂ったように声を荒あげた。
「畜生!舐めやがって!」
「殺っちまおうぜ!」
「野郎!ぶっ殺してやる!」
顔を真っ赤にした冒険者たちは各々の武器を構えた、右から順に、両手剣、片手剣、槍か。すげぇ、こいつらがパーティー組んでるとしたらすごいアンバランス!
全員接近武器じゃないか、もうすこし考えて武器選べよ。
冒険者は俺との間合いをジリジリと詰めてくるが、お生憎様、俺は自分を狙う人間に情けをかけるほど甘甘じゃあないんだ。
「雨風よ荒れろ、走るのは一筋の光、【ボルト】」
【ボルト】は雷魔法の一つだ、雷魔法は風魔法と水魔法の派生魔法で、魔法の速度が早く、威力も高く、広範囲の的を一気に殲滅するのに向いている。俺が呪文を唱えおわると、俺の構えた右手から一筋の光が走る、光は途中に3つにわかれ、それぞれ3人の男の頭に直撃する。光が当たると、3人は痙攣を起こし地面に伏す、その身体からは煙が上り、人肉が焼けた臭い匂いがした。倒れた男たちはピクピクと痙攣を続けている。
俺が放った光りは当然稲妻だ、威力は大体落雷の半分程度、これで初級魔法だから恐ろしいことだ。これで死ぬことはあまりないだろうが、それでも普通の人間なら確実に気絶はする。
俺は続けて【アルフレイム】を使い、3つの炎球を作り出し、3人の男の身体に1つずつぶつけてその身体を燃やす、完全に燃やし尽くすこともできるが、そこまですると周りにも燃え移りそうなので表面を黒焦げにする程度にしておく、【アルフレイム】の炎が消えた跡には、皮膚が溶け、装備品が溶け、誰なのか判別できそうにない3つの死体だけが残った。
良し、これで大丈夫だな。
「あ、そういえばこれどうしようか...」
死体を無視して俺が思い出したのは、悪魔の身体から出てきたあの赤色のゴルフボール大の丸い石、魔力結晶だ。あの色からしてあまり純度は高くないだろうし”倉庫”には俺が作った高純度の魔力結晶が余るほど残っているからな、正直いらん、あれは悪魔から出たものだし、俺が狙われることもないだろうから売るか。
俺はもときた道を引き返し、冒険者ギルドを目指した。
サブタイのセンスッ...!
はいみなさん!僕ですよ!頑張って書き溜めようとしてるんですがなかなか作業が進まずに他の小説読んでます∂。<~☆
次回の更新は2日後、17日の18時になる予定です!多分ね!
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