第24話 vs悪魔
気が付けば、数十メートルも先にいたはずの悪魔が俺の目の前にいた。この距離をあの速さで移動したのか...ただ単に背中の羽根で飛んできた訳じゃなさそうだな...【ショートテレポート】か。【ショートテレポート】は比較的魔力消費が少ない転移魔法だ、だがそれでも魔力消費量が少ない訳ではない、これを使うには1000年前の一般的な魔法使いが数人いてやっと満足に使えるような魔法だ。悪魔という種族だから出来たことだろう。まぁ昔の俺ならこれくらい朝飯前なのだが。
俺が魔力を感知できる範囲を越えていたから悪魔の魔法の発動を読めなかったわけだが、俺は別段こういったことに慣れていないという訳ではない。昔はよくいきなり背後に現れた知り合いに首締められてたし。
俺は慌てず、なおかつ迅速に、身体全体を高濃度のオーラで纏う。いつもはノーマルオーラを使っているが、このときは高濃度にし過ぎてハイオーラになっていた。今の俺は全身が薄く発光している様な状態になっている。
悪魔はそんな俺を気にすることもなく、持っていた長剣を思い切り振りかぶって俺に当ててくる。俺も、剣にオーラを纏わせてその攻撃をさばこうとしたが、普通にミスってその衝撃で俺は後ろに吹っ飛ぶ。
「キャキャ!」
俺を吹き飛ばした悪魔は嬉しそうに笑いながら声を上げる。残念ながら俺へのダメージはゼロだ。
俺は空中で体勢を整えて難なく着地する。それを見た悪魔は悔しそうに顔を顰め、突進するように体勢を低くして、武器の長剣を構える。
それに応じて俺も長剣を真正面に構える。
悪魔は今度は【ショートテレポート】を使うことなく、2対の羽根で身体を浮かし、そのまま突っ込んでくる。なかなかの速度だが、速いわけではないな。
悪魔は俺に向かって長剣を横に薙ぎ払ってくる、俺はその長剣を避けて悪魔の腹を剣で切りつける。ハイオーラを纏ったことでいつもよりも鋭くなっている俺の剣は悪魔の腹を深く切り裂き、悪魔特有の青い体液が周囲に飛び散る。悪魔は痛みに悲鳴を上げ、怒りに目を見開く。
しかし、悪魔は追撃することなく後ろに飛び退き、俺と距離を取る。悪魔は自分の腹に手をあて、傷の深さを確かめる、悪魔が手を離すと、傷が瞬く間に閉じていき、あとに残ったのは青い体液だけになった。
自己再生か、相変わらず面倒な能力を持ってるな。悪魔は傷が治ったことを確認すると、俺に視線を移し、ニヤリと少し笑みを浮かべたあと、話し始めた。
「キキ...ナカナカやるじゃナイカ...キズをツケラレタのはヒサカタぶりだゾ」
「そうか、良かったな」
「キキ...キサマはフシギなニンゲンだな...キキキ、ワレを、マオウグンのカンブのワレにキズツケタコトをホコリにオモウガイイ」
おっといまこの悪魔から聞き捨てならない言葉を聞いたような気がするのだが。幹部?この悪魔がか?いや、弱すぎるだろう、これならいくら弱体化してるとはいえ下っ端の中でちょっとリーダーぶってるポジションが丁度いいだろう。
しかしコイツが本当に幹部クラスの悪魔なら相当弱いぞ、その魔王軍とやらは。ちなみに魔王は、その名のとおり、悪魔の王を指すことばだ。しかしまぁ、悪魔も予想通りかなり弱体化してるんだな、なんか安心した。
悪魔は気分が良さそうに俺を見て笑っている、俺はそんな悪魔を他所に剣を構える、もうなんか大人しくしてるのも飽きてきてストレスも溜まっていたところだ、ちょっとコイツに俺のストレス解消の手伝いをしてもらおう。
「「......」」
俺と悪魔との間に静寂が流れる。その静寂を破ったのは悪魔だった、悪魔は先ほどよりも大きく羽根を羽ばたかせて長剣を振りかぶりながら俺に突撃してくる。俺はそれを身体をすこし傾けるようにして避け、そのまま悪魔のスピードを利用して悪魔の胴体を切り裂く、しかし悪魔は咄嗟に【プロテクション】と呼ばれる、自身の身体の表面にバリアのようなものを作り出す防御魔法を使用し、致命傷を避ける。
また俺に腹を斬られた悪魔は振り返り、【フレイム】を使用する。手から燃え盛る炎の球をつくり出し、俺に向かって打ち出す。俺はその炎の球を縦に中央から真っ二つに切り裂く。
魔法を切り裂いたことに驚いた悪魔だが、俺はそんな悪魔の懐に瞬時に入りこみ、右肩から剣の刃を入れ、斜めに振り切る。
悪魔は俺に肩から斜めに切断され、真っ二つになる。
「ギキャ...キキキキィ....――」
まだ来るかと思ったが、悪魔は事切れたようで、その身体を灰のようなものにして崩れ去っていく。そしてその場に残ったのは赤色のゴルフボール大の丸い石だった。
門の方をみると、すでに戦闘は終わりかけているようで、俺が悪魔を倒してから数分もしないうちに残りの悪魔とも決着が付いた。自分たちを率いていた悪魔を失ったからか、魔物たちも逃げるようにしてもときた道を帰っていった。その魔物たちも初めと比べるとかなり数が減ってしまっている。
残ったのは始めの半分ほどの人数、しかし門の上の冒険者と兵士はかなりの数がやられていた。しかし、戦果としては上場なのだろう、それに他の門は俺がいたところに比べて襲撃してきた魔物の量も少なく、さらには全く何も起きなかった門もあったぐらいで比較的安全だったらしい。
一応は俺達側の勝利ということだろうな。
あの襲撃があった日の夜。いま街は祭りのような騒ぎになっている、未知なる敵が押し寄せ、俺がいた西門の一部が破壊されたが、その敵を打ち破り、被害もそれから見れば少なかったため、祝勝会というか、宴会が開かれている。
そしてその騒ぎの中心には、この街の衛兵の隊長、名高い冒険者と並んで、黒い外套を着た人物がいる。その黒い人物はいわずもがな俺だ。
やっちまった。
だってなんか楽しくなってきたから【ハイド】かけわすれてたんだもの、仕方ないじゃないか。今の俺は街を救った英雄のようなポジションにいる、数々の武勇伝を持つ衛兵隊長でも、Aランク冒険者である横のおっさんでもかなわなかった相手に俺一人で勝ったんだから仕方ないといえば仕方ないような気もするが...
「がっはっは!さぁもっと飲め!お前は今回の立役者だぞ!」
「ははは!ラックス!レイクが嫌そうな顔してるぞ!はははは!」
笑いながら俺の背中を叩く冒険者のおっさん、名前はラックス。苗字がないのは国が違うからだと思ってくれればいい。そして俺の背中を叩くのは止めてくれ、オーラを纏っていなかったら確実に背骨が逝ってる威力なんだぞ。
これまた笑いながら、ラックスを止める美形のおっさんはこの街の衛兵隊長のビリアード。笑ってないで本気で止めろ。
(なぜこうなったし...)
面倒くせぇ...しかもこいつら2人とも出来上がってるじゃねぇか、いま襲撃があったらどうするんだ。これ、いまの俺は一応男としてこの場にいるわけだが、これ女だったらそうとう危険な雰囲気だぞ。酒が入って酔っ払ったおっさんに絡まれる少女(12)、薄い本が出来そうだな、少女役が俺じゃなきゃ買ってるぞ。
おっさんは俺に酒を勧めてくるのだが、俺の身体はまだ12歳だから飲むわけにもいかない、この世界の成人は基本的に15歳だが、俺は20歳になるまで飲まないの決めているんだ。
正直おっさん2人がウザくなってきた俺は、風に当たってくると言い残して、おっさん2人から離れることにした。
おっさんと別れた俺は、お祭り騒ぎの中央から少し離れた場所に来ていた、というかギルドに来ていた。ギルドの中の酒場には昨日のような騒ぎになっておらず、昼間にみたあの女性パーティーがいたくらいだ。俺は取り敢えず、受付に向かう。
「あ、レイクさんですね」
「あぁ、それで?用件はなんだ」
俺は昼間の戦いのことで冒険者ギルドに呼び出されていた。あの程度ならまだ国が動くほどのモノじゃないはずなんだが、それでも何らかの面倒事に巻き込まれている可能性が高いか。
しかし、俺の予想に反して、特に面倒事というわけではなかったようだ。
「今日の緊急依頼の功績を踏まえまして、レイクさんのランクアップが決定されました!」
受付嬢はなぜか興奮したようすで俺に話している。
「ランクアップ?DからD+、いや...C-あたりにでもなったのか?」
俺が自分の推測を言ったが、受付嬢は首を横に振ったあと、さらに興奮したようすで話しを続けた。
「なんとですね、レイクさんのランクが...DからB-にランクアップしたんですよ!」
「はぁ!?」
驚きを隠せないでいる俺を他所に受付嬢は「こんなこと初めてですよー!」と腕をブンブンさせながらしゃべり続けている。
その後、落ち着きを取り戻した受付嬢にギルドカードを渡し、受け取った俺のギルドカードはこういった感じになっていた。
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レイク・ドレヴィア 男
ランク:B-
受諾依頼
なし
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おいおい...いきなりDからB-だと...?一気に5段階か?ヤバすぎだろこれ、臭すぎるんですけど。
聞けば、西門での俺の功績は凄まじいものらしく、まず魔物の討伐数が他の冒険者や兵士の約数十倍、それに加えて敵の頭、主戦力である謎の生命体の1体を単独撃破。悪魔は単独撃破じゃないと思うのだが、ラックスやビリアードたちは、自分たちではダメージを与えられなかったとか吐かして、すべて俺の功績にしやがった、とんだありがた迷惑だな。
というわけで、前代未聞のDからB-への5段階のランクアップ、このことはもうすでにかなり話題になっているらしい。
ヤバイ、すごい面倒臭い、これじゃあ1000年前の二の舞じゃねえか。いや、まだ顔を隠して声も変えている分マシかもしれないな...
これ以上有名にならないように気を付けないと。
強い(確信)
最近誤字がひどいですね、誤字報告をしてくださる方には感謝しております!
次回更新はいつも通りです!ストックが出来る日は来るのか!?
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