第21話 異世界の宿屋は変な名前が多い
ユイレニア王国?コウクンの街?...やべぇ、全然知らないところじゃねぇかここ。どうすんだよ。
「...あの?大丈夫ですか?」
俺が考え込んでいると、受付嬢が不思議そうな表情で俺の顔を覗き込んでいた、今はフードをかぶってるから見え辛いとは思うが。
「あー、いえ、大丈夫です。ありがとうございました」
俺は礼を行ってギルドから出た。とりあえずここがティリス王国から見てどれくらいの位置にあるのか分からないと帰る方向すら分からんな。そもそもユイレニア王国ってなんだ、俺が知らない1000年の間に新しく出来た国なのだろう、ともかく情報が足りない、図書館のようなものはないだろうか...
「...取り敢えず今夜の宿でもとっておくか」
俺はひとまずその件をあとにして、今夜泊まる宿を探すことにする。とはいったものの、この街のことはあんまり詳しくないし、適当なところを選ぶと実は盗賊とグルでしたとかザラだったからな、警戒するに越したことはない。
ということで、俺はまた冒険者ギルドに戻ってきて、受付嬢にこの一帯で、信頼できる宿がないかどうか聞きにきている。
「それでしたら”割と満腹亭”などがいいと思いますよ」
「割と満腹亭...?」
「はい、ギルドを出て右に数百メートル進んだ場所にあるはずですよ」
「分かりました、重ね重ねありがとうございます」
俺は再度礼を告げてからギルドをあとにする。割と満腹亭か...すごい名前だな。
受付嬢に言われた通り、ギルドを出てから右に曲がって300メートルほどまっすぐ進むと、”割と満腹亭”と書かれた木の看板を掲げた店に到着した。ここで間違いないだろう。俺は店の入口の扉を押して中に入る、受付にいたのは人の良さそうな顔のおばさんで、俺に気がつくと屈託のない笑みを向けてくれた。
「いらっしゃい。食事かい?それとも宿泊かい?」
「宿泊のほうで」
「あいよ、1日100ジルで朝食と夕食付きだよ」
「じゃあ取り敢えず1日分お願いします」
1日100ジルなので銀貨1枚を渡す、銀貨は大体日本の50円玉を薄くしたような感じだ。それにしても1日100ジルか、割と高いな、まぁ受付オススメの宿だし、高級な宿だと一日で4桁もとるぼったくり価格の宿もあるくらいだしな。それによく見れば掃除も行き届いてるし、食事も多分大丈夫そうだしこれで1日100ジルなら安いだろう。
「はいよ、205号室の鍵だよ、出かけるときは私に預けるようにしておくれよ」
「分かりました」
俺はおばさんから鍵を受け取ると、食堂にもなっている1階の隅にある階段を上り2階に上がる、205号室は一番奥の部屋だった。
内装もやはり綺麗で、掃除もキチンとされていた。ベッドの布団もふかふかだ、そういえばお日様の匂いって確かd――それを思い出すのはやめておこう。
一応部屋を確認しに来たが、俺は持ち物は武器や万が一に備えての回復薬や少量の金以外はすべて”倉庫”にしまってあるからな、特に荷物を置くという必要がない。図書館を探しに街を歩き回るため、さっそく俺は1階に下りておばさんに鍵を渡す、ついでに図書館のことも聞いておこうか。
「図書館?そうさねぇ...私を行ったことがないから詳しいことは分からないんだけどね、街の中央に立ってる時計塔があるだろう?あの塔の近くに図書館があるってきいたことはあるねぇ」
「時計塔ですか...ありがとうございます」
「がんばっておいで...ふふ」
おばさんから有力な情報を仕入れることができた俺は中央の時計塔に向かうことにした、時計塔というのは鐘が付いている塔のことで大体どの街にも設置されている。
数分走って時計塔のふもと、おばさんの話ではこの周辺に図書館があるはずなんだが...それらしい建物は見つからない、とうかここの建物はみんな同じに見えて俺も道に迷いそうだ。最終的に道に迷った俺は近くをうろついていた健全そうな衛兵に道を尋ねることにした、もちらん【ハイド】をかけることを忘れてはいけない。
「図書館?あぁ、そこを右に曲がってすぐだよ」
「そこを右に...ありがとうございます」
「...あれ?俺誰かと話してたか?」
【ハイド】の効果で混乱している衛兵を尻目に、俺は図書館に向かう、ちなみに図書館でもこの格好のままでいくつもりなので【ハイド】は発動させたままだ。
図書館は俺がさっき素通りした大きな教会のような建物だった、絶対にこれ教会だと思ってたんだけどなぁ。俺は図書館の扉を開けて中に入る、入ったすぐ目の前には受付があった。
「図書館をご利用の方ですか?当館のご利用の場合は銀貨5枚の入場料が必要となりますがよろしいでしょうか」
図書館を使うのに5日分の宿代並の金がいるのか...まぁこの世界じゃ活版印刷機とかないし、文字を移すような魔法もないから基本的には全て写本なんだよな、しかもそのせいで一冊一冊の値段が高いのなんの、そう思えば学園の図書館はあれは異常だな、金かけ過ぎだろ。
取り敢えず入らないことには始まらないので、受付に銀貨5枚を支払って図書館の中に入る。内部はやはり学園の図書館が大きすぎるせいか少し手狭に感じてしまう広さだが、かなりの数の本がある。
俺をその中で地理に関する本を探す。地図も貴重で、しかも地図を奪われることに戦いでも不利になるため、こういった場所には置かれていないし、本にも一切書いてない。しかし、周辺の国の名前や位置くらいは載っているだろうと思い、そういった本を探しているのだが、なかなか見つからない。というか地理の本自体をまだ目にしていない、もしかしたらないのかも知れないな...
根気よく探し続けて数十分、ようやく見つけた本には、ユイレニア王国周辺の地形図と国の名前、国境線などが描いてあった。その中に俺の知っている国の名前を発見する。
「カウロ王国...」
カウロ王国、これも1000年前にはなかった国だが、学園での地理の授業で習った気がする。確か、ティリス王国の右下の隣国の隣国だった気がするんだが、合ってるかどうかは知らない。
というかどっちにしろ遠い、今の俺が全力で移動したとしてもカウロ王国まで4日はかかる、ちなみにコウクンの街はユイレニア王国の中心から少し下にズレた位置に存在する。そこからカウロの国境までが約4日、それも俺が死ぬ気で頑張ればの話だ、普通に行けば一週間は持っていかれる。かといって馬車で移動すればさらに時間がかかるからな、さてどうしたものか...
もうこの際10日以内に帰るのは諦めてゆっくりとティリスまで帰るか?いやでもそれだと帰る頃には年が変わってそうだしな、ちなみに帰らないという選択肢はない。
そうだな、取り敢えず今日のところはこの割と満腹亭で休んで明日からカウロ王国を目指して北西に進むか、明日から本気だす。
目的地も分かったので俺は図書館を後にする、やることもやったしこうなれば暇だ、日の入りまではあと1、2時間か、依頼を受けようにも微妙な時間だな。
「街の観光でもするか、暇だし」
あまりにもやることがないので、日が落ちるまでの間、俺はブラブラとコウクンの街を観光することにした。図書館を探し回っていて気がつかなかったが、ここの街は割と白い建物が多い、ノクタスの街はどちらかというと、茶色っぽいレンガ製の家や、木造建築が多いような気がする。それから見てみればコウクンの街は、木造建築はあるが、それよりも白っぽいレンガのようなもので建てられたものが比較的多く、白い建物ばかりのこの街はどことなく神聖な雰囲気を醸し出している。
暇つぶしにと始めた観光だったがこれがなかなか新鮮で、楽しかった。気がつけばあたりは暗くなり始めている、そろそろ宿に戻るか、夕食も出るだろうし。
その後、割と満腹亭の食事を食べたのだが、これがやはりというか予想通りかなり美味しかった、まぁおっちゃんには少し敵わないような気がするが。夕食時の割と満腹亭1階の食堂は大盛況であり、俺が帰ってきたときにはもうすでにほとんど席が埋まっている状態だった。夕食を食べ終わった俺は、少しだけ魔力とオーラのトレーニングをしたあと、ゆっくりと夢の世界へ誘われていった。
ちょっと話の構成が以前に増して雑になってきました、どうなるんでしょうか。プロットとか作ったほうがいいのかなぁ?
さて、次回はいつも通りの一週間以内です、もう大きな行事もありませんし、ストックを書き溜めれたらなと思います!
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