第20話 見知らぬ土地で
俺は取り敢えずぐるりとあたりを見渡してみた。
後ろには小さな土の崖、前と左右には奥の方までずっと緑色だった。ただ、森といっても”魔の森”とは少し感じが違った、それに気づいたのはつい先程だが一番大きな違いは地面だった、”魔の森”の地面はそのまま土むき出しの茶色だが、ここの森はコケで緑一色になっている、後ろの小さい崖も大半がコケで覆われており、先程俺がクリムゾンウルフ(故)に投げられてぶつかったところはコケが剥がれて茶色の土がむき出しになっている。
見渡す限り緑だった、目には良さそうだがコケは滑りそうだな、気を付けないと。
あたりを見渡していると、俺が纏っていたローブが目に入った。クリムゾンウルフは俺を投げるときにローブを咥えていたのだろうか、背中の半分ほどから下がズタボロになってしまい、ローブの下に着ている服が見えてしまっていた。
「うへぇ、マジかよ...まぁただの布で作ったモンだったし仕方ないか」
俺はそう割り切ると、ローブを脱ぎ捨てて”倉庫”にしまい、これまた黒色の外套を”倉庫”から取り出して、身につけた。ちなみにこれもローブを買った同じ時期に商店街で買ったものだ、実をいうとあと数着ほど予備がある、ただの布で作られた服やローブや外套は脆いからな、ノクタスの街では魔物から攻撃という攻撃を受けたことがなかったから無事だったものの、先程のように少しなにかをされただけですぐに破けたりしてしまう、単純にそうなってから買い直すのが面倒なだけだ。
お察しの通り”倉庫”の中には、やれ魔物の皮で作っただの、高硬度の金属で作っただのといった防具が存在するが、武器ならともかく防具の場合はそれらはほぼ全て、昔の俺の身体に合うように作ってあるため、いまの俺にはなにせ大きすぎた。外套やローブもたくさんあったが、袖から手がでないわ丈が長すぎてつまずいて転ぶわ散々だった。そういえば短剣を落としたんだっけな、流石に魔法だけで戦えるほど今の俺の魔力は多くないし、素手で戦えるほど強くもない、”倉庫”にはいまの時代に作られた武器も少し入ってはいるが出し惜しみしてる場合じゃないな、ここは思い切って1000年前に作られた武器を使うか。
「むぅ...手足が短いからな...ショートソードでいいか」
そう言いながら”倉庫”から鞘に入った剣を取り出す、刃渡りが70センチほどの小ぶりの両刃の剣、所謂ショートソードだ。先程もいったように今の俺は小さい、身長だけではなく手足も短い。オーラを使えば刃渡りの長い重量のある武器も使えないこともないのだが、今の俺はずっとオーラで身体能力を強化できるわけでもないし、身体にあってない武器を使うのは危険だ。このショートソードは、それなりの強度を持ちながらも、鉄よりも軽い金属を使っており、筋力の無いいまの俺でもさほど負担をかけずに装備することができる。
”倉庫”から取り出したショートソードを、鞘から引き抜くと、あの独特の金属音と共に、一切のくもりもない綺麗な刀身が現れた、まぁこれまだ使ったことないからな。いや、これはある鍛冶屋から譲り受けたものなんだが、その時はすでにこれよりもはるかに良い武器を持っていたし、昔の俺ではこの剣はすこし短かかったからな。そういうわけだ、決して忘れていたわけではないぞ、決してな。
俺は取り敢えず、外套を着た上から鞘のベルトを肩からかけた、うん、そんなに重くないしこれなら数時間くらい歩いても苦にはならないだろう。
装備を整えた俺は、取り敢えずその場で古代風魔法の1つ【エコーロケーション】を使う、この魔法は自分の周囲の地形や生物の位置を知ることのできる魔法だ、俗に言う反響定位というやつだ、風魔法なのに音なのか?ということを思うかもしれないが、風魔法は”風”を操る魔法が多いだけで、本質は大気を操る魔法だからな、音も一応風魔法の一部ということになっている。
【エコーロケーション】を使った結果、周囲100メートルには特に危険そうな生物はいなかった、まぁこの魔法、地形や生物を区別せずに輪郭だけ分かるからな、もし土のなかに人間が埋まっててたりしてもそれは分からん。まぁそれはともかくとして、周囲にはクリムゾンウルフのような大型の生物はおらず、小さな小動物たちが多数いるだけだった。
ひとまず周囲の安全を確認した俺は、敵の気配を逃さないように気をつけながらも素早く移動を開始した、おっとコケで滑りそうになった、気を付けないと。
歩き始めて数時間が経っただろうか、今俺は周りが見渡せる場所にいる。ときたま【エコーロケーション】を使って周囲の地形を確認していたら、切り立った崖の下にたどり着いた、いま俺がいるのはその崖の上だ、登るは案外キツかった。
まぁそんなわけで森を一望できる場所からあたりを見渡している、そして右前方で森が終わっていた、ここからかなり離れているが、全速力で飛ばせばなんとか今日中には着くであろう距離だ、幸いすぐ近くに街らしき影もあり、森の中を突っ切っている白い線のようなものも発見した。おそらくは石などで整備された道なのだろう、商人や軍の場所が通るのだろうか、まぁ俺もあのクリムゾンウルフ以降は、【エコーロケーション】を使っていたこともあって魔物に遭遇してはいないだ、どちらにしてもあまり魔物のような影は見なかったな、ここら一帯はわりと安全なのだろうか。
取り敢えず俺は先程登ってきた崖を降りることにした、登ってくるときは流石に飛んで登ることはできなかった為、ロッククライミングしてきたのだが、降りるならばいちいちそんなことはしなくていいだろう。俺はいつもよりも多めにオーラを纏って身体能力を強化する、足はさらに多めだ。そのまま準備運動を済ませ、俺は崖の先から数メートル後ろに下がり、クラウチングスタートの体勢をとった。
そして、コケがめくれ上がり、土が後ろに飛ぶほどの勢いで足を蹴り出し、走り出す。そして崖の先で思いっきりジャンプした。その衝撃が強すぎたせいか、俺が飛んだあとで崖の先のほうの地面に亀裂が入ったらしく、ガラガラと音を立てて崩れてしまった。
下には緑の森が広がっている、かなり強く飛んだため未だに落下はしていない、崖の高さはおおよそ10メートル、高さ10メートルの位置から走り幅跳びをするという貴重な体験ができたな。そんなことを考えていると俺の身体が落下し始める。俺はそのまま着地をする体勢に入り、森の木々の間を抜けてコケの生えた地面に着地する、オーラで身体能力を強化していたおかげで怪我もなく外套も無事だったが、俺が着地した周囲の地面は、衝撃でコケがめくれ上がってしまった。
俺は身体に纏っていたオーラを霧散させて、通常の身体能力に戻す、と同時にまるで無重力の宇宙から地球に帰ってきたかのごとく身体が重く感じた。昔はたいしたことは無かったはずなのに、この身体になってからは毎回これだけは慣れそうもない。辛い。
後ろを見ると、少し崩れた崖の先が木々の間からチラチラと見え隠れしている、数100メートルは飛んだだろうか。取り敢えずあの崖の上からみた白い線を目指すことにした。
歩いて数十分ほど、俺は石が敷き詰められある程度整備された道に出た、予想通りだな。あとは街が右に見えたため、この道を右に行けばいずれは森を抜けて街につくはずだ。
俺は再度オーラを身体に纏って身体能力を強化させる、今回も足には他の部位よりも多めにオーラを纏わせてある。そして俺はそのまま自分に【ハイド】を使った、【ハイド】を使った理由としては目立って面倒な事件に巻き込まれないようにするための保険だ。
俺は道の石を踏み抜かない程度に足に力を込めて蹴り出す、俺が走り始めて順調に速度が上がって行くにつれて、周りの景色は次々と変わっていく、まぁずっと木なんだが。たまに休憩を挟んで、魔力とオーラを回復させつつ、俺は強烈な速度で街に向かって走った。
その甲斐あってか数時間後、俺はあの森を抜け、そしてあの街らしき影に到着した。街はノクタスの街と同じように、周囲を壁で囲ってあり、その壁にいくつかの門があるようだった。
今の俺の格好は、黒ローブではなくなったが、それが黒の外套になっただけで、その外套も頭から被っているためさほど怪しさは変わらなかった。そういうわけで俺はオーラは霧散させたものの【ハイド】は解除せずにそのまま街の門を潜り抜ける、見たところ厳重な警備はなさそうだが、流石に怪しいものには声をかけるだろうし、俺はノクタスの街の東門でのこともあり、【ハイド】をかけたままスルーすることになった。【ハイド】は、俺を記憶に残りにくくする認識阻害魔法の一つだが、認識阻害魔法というだけあって、少々強くかけると見た目の認識すらズラすことができる。俺は外套を着ているためそれほど強力ではないが、怪しさを半減させるくらいはできる筈だ。
俺は何事もなく門を通り抜け、徐々に【ハイド】を解除していく、流石にいきなりは怪しまれるかもしれないからな。俺はそのまま街の街道を歩いて冒険者ギルドの建物を探す。
冒険者ギルドは、冒険者ギルド協会に加盟した国の街ほぼ全てにあり、その加盟国のギルドでは同一のギルドカードが使われている、まぁ街や国を移動するたびにギルドカードを作ってたら面倒なこと極まりないからな。
俺はギルドに立ち寄って現在地を聞くつもりだ、あの転移魔術の魔術式の大きさからしてティリス王国の隣国あたりだと思うのだが、もしそうでなかったときのことも考えておかないといけないな。
そんなことを考えていると、周囲から浮いている、かなり大きな建物が視界に入った、あれが冒険者ギルドだろう、大きな建物はおおかた冒険者ギルドだ。ここのギルドは扉がついて無かった、代わりにのれんのようなものがあったが。
内装はそれほどかわりない、半分ほどが受付や依頼の貼ってある掲示板で、もう半分が酒場。酒場にはノクタスの街よりも大勢の客がいた、筋骨隆々のおっさんや、狩人っぽい優男、気の強そうな女性をちらほらと見て取れた、昔の冒険者ギルドを思い出す、もしかしてノクタスの街だけがあんな感じなのか?
とりあえずは酒場を無視して受付に向かう。おっと声が高いままだったな、危ない危ない。
「すいません」
「えっ....あっはい、なんでしょうか...?」
受付嬢は俺の身長の低さに不思議そうな顔をした。まぁ今の俺の身長は140半ばだからな、ちなみに昔は180センチは軽く超えていた、それでも周りには190センチを超えるやつも多かったし、2メートルを超えるなんて大男も存在したからそれほど高いというわけではなかったが。
「現在地を知りたいんだが...あぁ、俺はこういう者だ」
俺を見て不思議そうな顔をしていたが、ギルドカードを見て我に返ったのか、すぐさま俺の問に答えてくれた
「えっ!?...えーと、現在地...ですね!はい!こちらはユイレニア王国コウクンの街になります!」
...どこだよ。
どうやら俺は見知らぬ土地に飛ばされてしまったようだ、10日以内に帰れるかな...
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実はこの話を高機能執筆フォームで書いてたんだけど、なんかそのままウィンドウを消すのが怖くなって一度全部コピーしようと思って全選択したもの、手元が狂って貼り付けを押してしまいまして、残ったのはなぜかコピーしていた「軟派」の単語。そのまま焦ってウインドウを消してしまったせいで、ある程度書いてあったほうも「軟派」だけになってしまいまして、もうね、心にきましたね。
まぁそのおかげか、もう一度書き直したらいい感じの文章になりまして、結果オーライですね!
無駄話が長くなりました!次回は一週間以内、でももうすぐテスト期間も終わるのでなるべく早く次をあげたいと思います!
それではまた次回!お気に入り登録または評価よろしくおねがいします!