第12話 大掃除
いつも通り、目をパチパチしながら俺は起きる。
昨日、一昨日と学校に行って今日は何故か休み。1週間7日で、2日行って、1日休んで2日行く、そしてまた2日休み、こんな感じだ。毎週水曜日にもう一日休みがあると思えばいいだろう。
兎に角今日は休みだ。
いつも通りに朝を迎えて、朝食を食べたあと、孤児院の子供たちのほとんどが街に出かけていった。院長とアンジェさんを除けば、残っているのはかなり幼い子と俺のみ、心にくる。
アレだ、バイトがあるんだったな。くそぅ俺も働きたいでござる。
しかしそうはいってもアンジェさんからは逃げられない、どこへ言っても根回しがされている、アンジェさんの行動力が恐ろしい。
そして暇、俺は暇だ。早朝にもトレーニングしたのだが、今からもう一回するか?いや、倒れるな、確実に。倒れなくても明日がヤバイことになりそうなのでやめておこう、何事もやりすぎは良くない。
そもそもアンジェさんは俺が朝、1人でトレーニングをしていることを知らない、院長に許可は貰っているが、アンジェさんがそのことを知ったら俺の朝のトレーニングは封印されてしまうだろう、あの人は俺に対して過保護すぎる気がする、大体俺のせいだが。
俺は特にやることもないので孤児院の中をひたすらにウロウロして回った。ここにきて数週間は経った気がするが今始めて行ったところもあった。けっこう埃っぽかった、やはりここまで大きな建物になると掃除が大変そうだな...掃除が...掃除?
「...これだ」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「孤児院の掃除...ですか?」
「はい、ダメでしょうか」
この孤児院はかなり自由だが、こんなところでも孤児院は孤児院、いずれ孤児たちはここを出ていかなければならない、そのため、ここでは身の回りのことは、できるかぎり自分たちですることになっている。
掃除は当番制、だが当番じゃない者がしてはいけない訳ではないだろう。
何故俺が掃除を思いついたのか、それにはいろいろとあるが、一番大きいのはやはり暇つぶしだろうか。いや、暇つぶしに掃除と言う奴もいるだろうが本当に暇なんだ、街に出ても別段面白い場所はないし、孤児院に居てもやることないし。
しかも俺働いてないからニートみたいに思えてきて嫌なんだよな、掃除をすればその分くらいは取り戻せるのではなかろうか、と思ったわけだ。
もちろんこれだけじゃない、身体を鍛えるという理由もある。掃除で身体が鍛えられるのかはよく知らんが、身体を動かすんだ、身体を鍛えているのと同義だろう。
アンジェさんには2つ目を美化したものを理由として言っておいた。
「ええ、良いですよ。あ、掃除道具の場所は分かりますよね?」
「はい、大丈夫です」
ふふふ、掃除しまくってやるぜぇ...
「張り切りすぎて倒れないようにしてくださいよ?」
「......」
「...返事はどうしたんですか?」
「...はい」
釘を刺されてしまった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
俺の装備は家政婦がよく付けていそうな三角巾に質素なエプロン、そして手には雑巾。水が入ったバケツが足元に置いてある、別に大きくもなんともないバケツだ。オーラを纏っていない俺の筋力では、かなり重く感じられた。
ちなみにオーラを使うと身体を鍛えるもなにもなくなってしまうので今回はなるべく使わないようにする。仕方がないときは躊躇なく使う、仕方がないんだ。
まずは雑巾で床でも拭くか、孤児院には子供たちや院長、アンジェさんが住む宿舎と、食堂や浴場がある本館と大きな建造物が2つある。取り敢えず、バイトに行ってたり、遊びに行ってたりで宿舎の方には多分誰もいないと思うので、思いっきり廊下を水拭きさせてもらおうか。
俺は乾いた雑巾を水の張ったバケツに突っ込む、その後、十分に水を吸った雑巾を絞る作業で問題発生。
絞れねぇ。
力が無さすぎて思いっきりやっても雑巾はビチャビチャだ、これでは雑巾がけができない。
「...まぁ、緊急事態ということで...」
さっそくオーラに頼る俺、だって仕方ないじゃないか、絞れないんだからさ。
オーラを手に纏わせて雑巾を絞ると今度はキュッといい感じに絞り上げることができた。さすがオーラ先輩、マジリスペクトッス。雑巾は絞ったのでオーラは散らせておく。
いい感じに湿った雑巾を床に置き、両端に手を置き、クラウチングスタートをするように構える。
そして一気に加速、廊下の全長は70メートルほど、俺はテンポよく足音を鳴らしながら廊下を滑っていく。
そして廊下の端に着いた時、俺の息は絶え絶えだった。さすがに全力でやりすぎたか、脚が痛い、筋肉痛になりそう。
それからはゆっくりと焦らずに自分のペースで雑巾がけをしていくことにした。
宿舎は3階建てで、1階から3階まで雑巾がけをしたのだが、俺の身体能力のおかげで、かなりの時間がかかってしまった。廊下を拭いただけなのに1時間以上とか...
まぁそれは置いといて、取り敢えず宿舎の廊下の雑巾がけは終わった、ワックスがけもやりたいところだが、掃除機とかは無いだろうし、そもそもワックスがなかった。やるからにはピッカピカにしたかったんだがな。
床の次は窓を拭いていくことにする。さきほど使った雑巾は残念なほどに汚れてしまった、これでは窓は拭けないだろうが、汚れているならば綺麗にすればいいんだ、魔法で。
生活魔法の1つに【クリーン】というものがある、名前からわかると思うが単純に汚れを落とす魔法だ、主に衣服についた血や土を落とすときに使うもので、当然だが、この汚れた雑巾に使えば新品のように真っ白の状態に戻るはずなのだ、多分。
結局真っ白になった雑巾を使って窓を拭いていく。窓の上の方は手が届かなくて、魔法かオーラでも使おうかと思ったが、流石にここを人に見られると面倒くさそうなので、仕方なく足場を使うことにした。
表裏どちらも拭くのだが、外側を拭くときに、何度か落ちそうになった。というか落ちた、とっさにオーラを使って無事に着地したが。
その後も、ひたすらに掃除しまくって、やっとこさ宿舎の掃除が終わったところでノクタスの街の方から正午を知らせる鐘の音が聞こえてきた。そんなに時間が経ってたのか、掃除に没頭しすぎていたな。
俺は取り敢えずエプロンと三角巾を脱ぎ、雑巾やその他道具を片付けて食堂に向かう。おなかすいた。
食堂に行くとほんのりといい香りがして...こない、あれ?あれれぇ?いつもなら厨房に謎のおっちゃんがいるはずなんだが、いないな。
「おっちゃーん?」
「おう?あぁ、お前か」
俺がおっちゃんを呼ぶと厨房の奥から渋い感じのおっちゃんが出てきた、名前はホフ...なんとか、覚えようとは思ったのだが、みんなおっちゃんて呼ぶから俺も必然的にこの人=おっちゃんになってしまった訳ですよ、ええ。
おっちゃんは俺を見つけると分かったように頷いて、なにか作り始めた。これまでにいろいろな料理人を見てきたが、おっちゃんの腕はなかなかのモノだ。作った料理の味はもちろんのこと、作る速さが尋常じゃないくらい早い、こんなことを考えているあいだにも、着々と料理は出来上がってきている。
ちなみに、厨房にはコンロのようなものがあり、これは魔導具を使って火を出している。これくらいなら1000年前でもあったな。
俺も料理が出来ない訳ではないのだが、俺は冒険者として各地を旅をしていた頃は、その場で狩った獲物をその場で捌いて、そのまま調理して食べていた。だから出来ないわけではない。だがまぁしかし、俺が作るとなると、どこぞの狩人ゲームの「上手に焼けましたー♪」になってしまう。味は素材の味だ、ドラゴンの肉とか美味いぞ、鶏肉みたいで。
「ほら、出来たぞ」
「相変わらず美味しそうですね」
「はは、嬉しいねぇ」
おっちゃんが料理が載った皿をトレイに載せてカウンターに持ってきてくれた、流石、すごい美味そう。
俺はそれを持ってテーブルに座る、おっちゃんはまた厨房の奥に戻っていった。あの奥には何があるというのか。気になる。
そんなことを考えながら料理を口に運ぶ、そして美味い。学校の食堂もまぁまぁの味だが、こっちはやっぱりかなりの味だ、美味い。
美味しすぎる料理はすぐに無くなってしまった、今の俺すごい幸せ。
食べ終わった皿はそのままトレイに載せて、返却用のカウンターに戻しておく、自分で洗えという意見が飛んできそうだが、この厨房はおっちゃんと院長以外立ち入り禁止だ、入るとなにかしらの制裁をくらうとかなんとか、そこまでして皿洗いはしたくない。厨房の奥は気になるが。
「ごちそうさまでしたー」
俺はそう言い残して食堂をあとにした。
さて、宿舎の掃除が終わったわけだが、本館の掃除はする必要はないくらい綺麗だった。アンジェさんにもここは大丈夫だ、と言われたし、仕方がないから庭掃除でもすることにしよう。
この孤児院の庭は割と広い、日本の学校のグラウンドの半分ほどの大きさはありそうだ。
しかし庭掃除って何をすればいいのか、とりあえず雑草でも引っこ抜いておくか。
この世界にも軍手はある、というか発明されてた。昔は無かったからな、庭掃除大好きなやつが考えたのだろうか、戦闘用にガントレットとかグローヴとかあったしな、多分そうだろう。
雑草といえど、素手でやるとかなり疲れるのだが、軍手でやればスポスポ抜ける、この軍手、日本にあったヤツよりも高性能っぽいな。
見る見る内に俺の後ろには引っこ抜かれた雑草がたまっていく。ちなみに、花壇の花を間違って摘んだりとか、あえて植えているようなものも抜いていない、俺はそんなテンプレのフラグは作らない、むしろ花壇に生えていた余計な雑草を引き抜いて花が育ちやすくしたくらいだ。
そんなこんなしている内に鐘がなる、昼を食べてから2回目、5時か、そういえば周りが暗くなってきたな、そろそろみんなが帰ってくるだろうし片付けるか。
俺は取り敢えず雑草を一つに纏めて、雑草が積み重なっているところに追加で放り込んでおく、かなりの量があるが、これは誰が処理するのだろうか。
身につけていたものは後で洗濯するので自室に持って帰る、ちなみに洗濯は各自で行う、小さい子も年長者に手伝ってもらいながらもやっている。
今日一日は掃除しかしていなかったが、こういう日もいいかもしれない。ひと月に一日ほどこういう日を作ろうか。
その後、孤児院の宿舎が綺麗になっていることについてひと騒動あった、もちろん俺がやったとは言ってないがな、俺が聞かれたときは「妖精さんの仕業じゃね」と適当に言っておいた。
そして次の日、俺の身体が筋肉痛で悲鳴を上げていたのは言うまでもない。
4日以内なんてなかったんや\(^q^)/
はいどうも皆さん僕です!遅くなりました!いやぁ、なかなか進まないものですね、また1日1回の更新ペースに戻したいものですね!はい!!
さて次回はそろそろ設定やら人物紹介やらを突っ込みたいと思っています!なので早ければ明日、いや明後日...一週間以内にはあげます!
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