第11話 すごい楽しい
俺はまず人気の無い裏路地に入って、認識阻害魔法【ハイド】を自身にかける。この魔法はその名の通り、周囲の人間の俺への認識を阻害するものだ。【ハイド】を使うと周囲の人々は俺を記憶することができなくなる。簡単に言えば俺の顔に常時モヤがかかっていると思えばいい、厳密には全然違うが。
なぜこんなことをするかというと、ナンパされている少女を助けるのは簡単なんだが、俺は目立ちたくないし、少女に顔を覚えられてもろもろのフラグが立つのは勘弁願いたいんだ。
学校で出くわして「あのときの!」とかいうラブコメっぽい展開とかは別にいらない。今は女だし、将来大変そう。
【ハイド】をかけた俺は再びあの少女とナイフをチラチラさせているナンパの男2人に近づく、素手でもいけるがここは場の空気を読んで、先程購入した短剣をベルトに装備しておく。
今にも泣きそうな少女に、ナンパの2人のうちの1人が手を伸ばした。俺はナンパ男の手が少女に触れる前に、横から自分の身体に引き寄せた。
「やぁ、アンナ。こんなところにいたのかい?心配したよ、さぁ、いこうか」
俺はできるかぎり格好良い感じの声を出し、イケメンっぽく微笑んだ。大丈夫、全部忘れるからいいんだ。
俺が考えた作戦はこうだ。まず俺が少女に知り合いのフリをして話しかける、男2人は「チッ、男連れかよ...」と言いながら去る、少女に礼も言わせずに颯爽とその場から立ち去る、【ハイド】の効果で俺の正体はバレない。オーケーオーケー、完璧だ。
しかし、俺はミスをしていた。
「あの...だれですか...?」
少女が乗ってこなかった場合のことを全く考えていなかった。
まぁいきなり自分のことをアンナとかいう良く分からんやつが出てきてもそういう反応になるのはしょうがないとは思うが...分かるだろ、JK。
少女の一言のおかげで、キョトンとしていたナンパ2人は、状況を理解したようで、額に青筋を立てて俺を睨んできた、どうしよう、全然怖くねぇ。少女はまた顔が青くなっているが。
「おうおうおう!何者だテメェ!」
「正義の味方気取りか?身の程をわきまえろよガキが!」
やっべ、雑魚臭半端ねぇ。
もうちょっと強面の野郎がやってるならまだしも、なんかもう...可哀想になってくるね、こいつらの顔。
しっかしまぁ、こいつらの反応がちょっと楽しい、少女は震えているが俺は全く怖くないのでもうちょっと煽ってみたくなってきた。
「くく...お前らその顔でよくあんなことできたな」
「なっ!!ナメてんじゃねぇぞコラ!」
「ガキが!大人ナメてると痛い目に合うってことを教えてやるよ!!」
「くさい脅し文句だ」
「うるせぇ!」
「あぁもう我慢ならねぇ!ぶっ殺してやる!」
俺に煽られて顔を真っ赤にしながらナンパ2人は激怒した。うわこれすごい楽しい。
ナンパ2人は、少女を脅していたナイフを持ち直して俺に向けてくる。構え方がド素人だ、どうせロクに使ったこともないのだろう。
俺はそんなことを重いながら腰の短剣を鞘から抜き、構える。
「ケッ!脅しのつもりか?構えがなっちゃいないぜ!」
「素人がランクCの冒険者に敵うと思ってんのか?」
やっべ超楽しい、ランクCってなんだ、雑魚じゃねぇか。
俺のナイフの構えが素人?一応、その道の達人を感服させたこともあるんだがな。コイツらは知る由もないだろう。
そして遂に、しびれを切らした2人のうちの一人が俺に斬りかかってきた。上から下へ、単純に振り下ろすだけ、さっきの突き出すような構えはなんだったんだ、刺突をしてくるんじゃないのかよ。
俺は振り下ろされてくるナイフを当然のように短剣の腹で受け流し、そのまま男の腹に蹴りを一発入れる。唸りを上げながら腹を抑える男の顔に続けて後ろ回し蹴りを入れる、最後の蹴りは若干オーラを纏いながら放ったため、男は横に飛んだ。
「なっ!?」
吹っ飛んで、地面とキスしてる男と俺を交互に見ながら狼狽えるもうひとりのナンパ。
自分たちよりも弱いと思っていた俺に呆気なく片割れが負けたため、信じられないというような顔をしている。
昔、エルフの里から出て最初に入った街での出来事を思い出す顔だ、あの街のギルドで威張り散らしてた審査官が俺の成績を見たときの顔とよく似ている。
まぁとりあえず、もう一人の男はしばらく特に何もしてこなかったので、そのまま距離を詰めて男の股間を思いっきり蹴っておいた。股間のアレを強打された男は手からナイフを落とし、泡を吹きながら青い顔をしてその場に倒れ込む。
なんかいろいろ面倒だったからやったんだが、なんか俺もちょっと痛くなってきた、今はないハズなんだけどな...。心も痛い。
「あの...」
そんな俺の後ろから声がかかる、振り向いてみれば困ったような顔をした件の少女が立っていた。ごめん、忘れてたわ君のこと。
さて、随分と予定が狂ってしまったがここから先は大丈夫だ、だって逃げるだけだもの。
「じゃ、そういうことで」
「あっ!ちょっと待ってくだ―――」
俺は少女にそう言い残して裏路地に入る、そのまま入り組んだ裏路地を進みながら【ハイド】の効果を切る、しばらくウネっていくと裏路地を抜け、商店街のどこかに出た。
そして前方には食べ物を食べながらキョロキョロする緑髪の少女、クレアがいた。
「あ、アリスだ!どこ行ってたの、迷子になったかと思って心配したんだよ?」
「そりゃこっちのセリフだ。しかもお前まだ食ってんのか...」
「まだまだ入るよ」
「マジかよ...」
クレアはまだまだ食い足りなさそうな顔で俺にそう言った。まだまだ、だと?こいつの胃は化物かなにかなの?俺ならとっくにリバースしそうな量食ってんだけど。
しかしクレアもこれ以上食べると金銭面がヤバイそうで今日はこのまま帰ることになった。
商店街からクレアと帰る途中で、先程の少女とその護衛らしき兵士を見かけた。どうやら自分を助けてくれた男性を探しているんだとか、まぁ俺なんですけど。
俺とクレアにも質問されたが、クレアはもとよりあのことを知らないが、俺も【ハイド】の効果がきちん効いてるようで少女は俺をチラッ見るとまたキョロキョロと探し始めた。
もし効いていなかったら果てしなく面倒なことになりそうだったが、効いているなら大丈夫だ。俺は「いえ、知らないです」と言い残してその場をあとにした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
あのまま孤児院へ帰り、夕食を食べてからの現在地は俺の自室。ちなみにクレアも一緒にいる。
商店街であれだけ食べていたにもかかわらず、孤児院での夕食も普通に食べていた。こういうときに食べる量は割と普通なんだがなぁ、あれか別腹とかいうやつか。
俺は今日買った短剣を手入れするためにベッドのしたから取り出すように見せかけて”倉庫”から数種類の砥石を取り出す。
「おわっ!?なにそれ!」
「あぁ、ちょっと今日コレを買ってな」
俺は鞘に収まった短剣をクレアに見せる。
「なんかアリスの声聞くの久しぶりな気がする」
「なんだ?今日ずっと喋ってただろうが」
「だってアリスずっと低い声出してるし...2人っきりの時じゃないとその声じゃないし...」
「あぁ、なるほど」
俺は学校の中だけでなく、街中をウロウロするときも、孤児院にいるときでさえ基本的に、少し声を低くしている。ちょっと喉をクッとすると低くなるのであまり苦にはならないが。
今となってはなぜこんなことになっているのか、俺もよく分からないが、せっかくここまで来たんだ、このままバレずにどこまで行けるか試してみたい気もある、それに男の格好をしていれば様々なメリットがあるしな、その分デメリットもあるが。
その後、個人浴場でまたもクレアが突撃してくるという事件があったがそれは置いておこう。
こうして長かった、いや長すぎた俺の学校生活2日目が終わりを告げた。
皆様!お久しぶりです!遅くなりました!僕ですよ!
あとであとでと言ってるうちにやって来た週末、なぜか一文字も進んでいない11話、なぜこうなったし。
さて次回はまたも一週間以内、しかし今回は4日以内に上げたいところですね。
それでは!お気入り登録または評価よろしくお願いします!!