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にくひめ  作者: 枝津切悠
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いつも通りの朝・通学路

 私こと高山龍介の朝は妹に起こされて始ま──らない。

 まぁそのくらいは大目に見てやろうではないか、神よ。

 それにこれは、俺に妹がいないからこそ萌えるシチュであって、『お兄ちゃん、朝だよ! 早く起きないとペロペロしちゃうよ!』なんて言う俺の脳内妹が実際に居たら、間違いなく兄妹揃って病院にぶち込まれるだろう。

 まぁそんな訳で朝は普通だ。幼なじみも起こしに来ないし、迎えに来たりもしない。

 至って普通の朝。顔を洗って朝食を食べ、家を出る。

 だが今日の俺は超絶ご機嫌なのさ。

 なぜかって?ふっ……愚問だな……。

 それは……それは今日が月曜日だからさッ!

 二日ぶりに俺の肉嫁達に会える事を考えただけで、龍介の龍介はおギンギンになってしまう。朝の生理現象も通常の三割増といった所だ。

 なので俺はルンルン気分で朝の通学路を歩く。

 ふぅ……なんて清々しい朝なのだろう。

 道に佇む小鳥達も俺の事を『この鬼畜野郎が!』と褒め讃えてくれてるかのようだ。

 ふふっ、ありがとう小鳥達! 今日の昼食は唐揚げにするよ!

 さて──しばらく通学路を歩いていると、見覚えのある後ろ姿が。

 うーむ、あの二次元から飛び出して来たみたいなシルエットは……。

 うん、間違いない! 金髪ツインテールで白ハイニーソの絶対領域でしかもツンデレという超絶テンプレキャラな俺の幼なじみ! 肉河原紗姫の姿だ!

「おはよう紗姫っ!」

 走りよって後ろから声をかけると、紗姫はツインテールを揺らしながら振りかえる。もうそのツインテで俺の事をぶってくれ。

「ああ、龍介か。おはよ」

 なんとも興味の無さそうな──というかどうでもよさそうなテンションの低さで、朝の挨拶に応える紗姫。

 まぁ無視されないだけマシである。

 し、しかし──紗姫ちゃんってば相変わらず……。

「ぐっ……ぐはぁ! 可愛い……可愛過ぎるぜ紗姫! キラキラ輝く金髪にツインテール! 大きな猫目に抱き心地の良さそうな柔らかボディ! ミニスカートと白ハイニーソが生み出す神々の楽園、絶対領域! ギャルゲーの要素全部盛りかこの欲張りさんめ! だがそれでこそ俺の肉嫁! グッジョブッ!」

「口を閉じろこの豚野郎がッ!」

 紗姫の右ストレートが俺の頬に改心の一撃。

 当然俺は──

「ありがとうございますッ!」

 感謝の礼を述べる。当然だろ?

「殴られて礼を言うな! 気持ち悪いッ!」

「ふっ……美少女に殴られる事を我々の業界ではご褒美というのさ」

「そんな業界滅んでしまえッ! てか誰が肉嫁よっ! 完全に鬼畜な香りしかしないじゃない、この変態野郎っ!」

「ありがとうございます」

「罵られても礼を言うの!? どうやったらあんたを傷つける事が出来るのよッ!」

「いやいや、私にとって『変態』は褒め言葉ですよ? ですが私は変態であり紳士──なので私の事は変態紳士とお呼び下さい」

「本当に気持ち悪いわねぇ……もはや既存の『気持ち悪い』ではあんたの気持ち悪さを表現出来ない気持ち悪さよ……」

「ハハハ! それ程でも☆」

「褒めてないッ!」

 紗姫はなんだかんだでちゃんとツッコミを入れてくれるから、会話が超楽しいのだ。

 もうずっとお話ししていたい。お金払うからずっと話してくれないかな。

「ふふふ。まぁまぁ落ち着けよ、紗姫。それに『肉嫁』って愛称もあながち的外れでも無いだろ?紗姫の苗字の肉河原から肉を取って──」

「ボラーレヴィーアァァッ!」

「ぐはぁぁぁぁ!」

 紗姫の全身全霊を込めた右ストレートが俺の顔面にジャストミート。

 俺の体は突風で飛ばされた空き缶の如く、盛大に吹き飛んだ。

「ぐ……ぐはぁ……あ……ありがとうございます……朝っぱらからジョジョネタとはさすが紗姫だぜ……」

 例えどんな目にあおうが、ご褒美はご褒美。

 ちゃんとお礼を言わないと、天国のじいさんに怒られてしまう。

「う、うるさいっ! てか苗字の事は言わないでよ! 気にしてるんだから!」

「い、いや別に俺『にくがわら』なんて言ってない……」

「ジャスティスッ!」

「ぐはぁッ!」

 ゴミの様に地面に転がっている俺に対してトドメの一撃。

 うぅ……まだ朝なのにもうお腹いっぱいだぜ……ご馳走様です紗姫さん。

「私の苗字は『にくがわら』じゃなくて『ししがわら』!肉河原紗姫よッ!」

 『何を言っているんだコイツは』というツッコミが聞こえてきそうだが──実はそうなのだ。

 この金髪ツインテール美少女の苗字、『肉河原』という苗字の読みは『にくがわら』ではなく『ししがわら』なのだ。

『いや読めない読めない』というツッコミが聞こえてきそうだが、こればっかりは仕方がない。そういう仕様だと思って頂く他に道はないのだ。

 いやまぁ気持ちは分かる……。

『どうせなら獅子河原だろ……』とかは俺も子どものときに思っていたが……まぁ他人の家の事情だ。深くはツッコミ辛い。

 それに紗姫の家はかなり──いや凄く特殊だからな……。

 きっと『肉河原』という変わった苗字には事情があるに違いない──筈だ。

 さてさて、紗姫の苗字についてのフォローはこの辺にしておいてだな──

「う……うぅ……い、いや……だから俺『にくがわら』なんて言ってないってば……。紗姫が嫌がる事を俺が言う訳ないだろ? 思い出してみろよ……俺は『肉河原から肉を取って』としか言ってないぞ……」

「え?……えっと──あっ……ほ、本当だ……言ってない……」

 怪訝そうな顔をするも、素直に自分の間違いを認める紗姫。文字にすると大変分かり難いが、俺はちゃんと『ししがわら』と発音していたのだ。

「だ、だろ?」

「う、うん……」

 そしてモジモジと小さく頷く紗姫。

 うむ、可愛い。実に可愛らしい。

「ははは……分かってくれれば良いんだよ……間違いは誰にでもあるしな……」

「で、でもよりにもよって『肉』を取るなッ! 『肉』を取って愛称が『肉嫁』ってどうゆう事なのよッ!」

「じゃあ肉河原の『肉』と紗姫の『姫』を取って『肉姫』は?」

「親から貰った大事な名前になんて事してんのよッ! 『肉姫』なんて呼んだら、あんたを肉塊にしてやるッ! てかいい加減『肉』から離れろッ!」

「ほう……つまり『肉離れ』をしろと……」

「誰が上手い事を言えとッ!?本気で肉と肉を離ればなれにしてやろうかッ!」

「そ、それは勘弁して下さい……」

 恐ろしい事をサラっと言う子だなぁ……。

 紗姫なら実行可能な所がさらに恐ろしい。

 しかし──

「と、ところで紗姫よ……」

「あぁ!? 何よっ!」

「いや……『肉』から離れろと言うが、お前は俺から離れた方がいいぞ? このアングルはスカートの中身が見えそうだ」

「え?」

 俺と紗姫の現在の状況説明──

 紗姫にぶん殴られて情けなくも地面に伏している俺。

 そしてそんな伏している俺を見下ろしている紗姫。

 もうスカートがヒラヒラヒラヒラ大変危なっかしいのである。

 状況説明終わり。

「きゃっ……きゃあ!」

 状況を把握した紗姫は急に可愛い声を出して、スカートを押さえながら後ろに飛び退く。

 はい、可愛い。その仕草、超可愛い。

「……見た?」

「見てないです」

 本当に見てません。俺は確かに変態だが、あくまで紳士だ。なので完全に見える前に注意はしたぞ。

 ほんのちょっとだけ──いやマジでほんのちょっとだけチラッとピンクの布地は見えた気がしたけど、あれくらいなら見えた内に入らない筈だ。うん、ノーカンノーカン。

 でもチラッとでも見えたなんて言ったら、この場で肉塊に変えられそうだから言わない。言える訳がない。

「……そう。もし見てたらあんたをこの場で肉塊に変えてたわ」

「…………」

 ほらね……。

「い、いやでもこれは不可抗力だろ……お前が勘違いで俺を吹き飛ばした上にトドメを刺したから、俺はこうして地面に転がってるんだぞ?」

「うっ……」

「お前が勘違いで俺を吹き飛ばした上にトドメを刺したから、俺はこうして地面に転がってるんだぞ?」

「こ、こいつ同じ事二回言いやがった!」

 如何なるときにも、ボケにはちゃんとツッコミを入れてくれる紗姫ちゃん。紗姫は意外とノリが良いのだ。

「ぐっ……わ、悪かったわよ……」

ぷいっとそっぽを向いてはいるが、紗姫はきちんと謝ってきた。

少し素直じゃない所もあるが、基本的には真っすぐな良い子なのだ。

「ほ、ほら! いつまでもゴミのように転がってないで早く学校行くわよ! さぁっ、早く立ちない」

 そう言って紗姫は腰を屈め、ゴミのように転がる俺に手を差し伸べてくれた。

「…………」

 はぁ……まったく……だからお前はモテモテなんだよ……。

 只でさえこんな冗談みたいなビジュアルなのに、三次元では実現不可能と言われているツンデレまで使いこなすのだ。

 可愛い子だらけの我が高校でも、間違いなくナンバーワンの人気者であろう。

「くっ……このツンデレめ……」

 そんな紗姫に文句を言いながら、俺は紗姫の手を取る。

 プニプニしていて柔らかい。

「だ、誰がツンデレよ! 別にデレてないでしょ!?」

「大丈夫だ。別にデレなくてもツンデレは成立するからな」

「ど、どういう事?」

「ツンデレの定義は大分曖昧になってきてるからな……もう面倒だから俺は『普段はツンツンしてるけど根は優しい良い子』みたいなキャラはツンデレでいいと思うぜ。今のお前みたいに──倒れてる人間に手を差し伸べてくれたりな☆」

「なッ……」

 顔を真っ赤にして照れる紗姫。

 うんうん、やはり良い子だ。

「な、なにを……ば、馬鹿な事言ってないで早く立ちなさいよ! もし遅刻なんてしたらあんたの眼球握りつぶすからね!」

「が、眼球を!? 怖っ! 怖いよ紗姫さんっ!」

 俺は紗姫の手を取って立ち上がると、再び学校へと歩き出す。

 あぁ……やはり紗姫と二人で歩く通学路は良い……。

 二日ぶりのこの至福の時……もう毎日学校があればいいにのなぁ。

 朝からご褒美多めだし、目に優しいピンク色の光景も見れたし……今日は良い事ありそうだな。

 ──あ、でも少し注意しとくか。

「なぁ紗姫」

 俺は隣で歩く紗姫に話しかける。

「ん? なに?」

 紗姫は俺より背が低いので(当然と言えば当然だが)、俺を見上げる形で返事をする。

 もう紗姫から見上げられるというだけで興奮するのだが……今はその興奮を押さえておこうじゃないか。お互いの為にね。

「いや……なんつーか……さっきのは少し無防備過ぎるぜ? 俺だから良かったけど、他の男子だったらパンツ見られまくってたぞ? 凝視されてたぞ? 夜のお供にされてたぞ? 女の子なんだから、ちょっとは気をつけろよ」

「うっ……わ、分かってるわよそんな事……龍介だったから少し油断してただけよ……」

「ん? 俺だったら油断するのか? なんで?」

「なっっ……なんでって……そっ……それは……」

「?」

 何故か動揺する紗姫。

 うーむ……こいつは昔からよく分からん事で動揺するからなぁ……。

 お父さん(?)は紗姫ちゃんが社会に出た時が心配だよ……。

「んん?どうかしたか?」

「ど、どうもしてない!あんたとは小さい時からの腐れ縁だから感覚が麻痺してるのよッ!べ、別に深い意味は無いっ!」

「はぁ……」

 なにをそんなに怒っているのだろうか……変な奴だな。

 だけど──小さい時からの腐れ縁ねぇ……。

「はぁ……」

「な、なによ……なに溜め息なんて吐いてんのよ……」

「いやぁ……そうだよなぁ……俺と紗姫は小さい時からの幼なじみなんだよなぁ……今更だけど」

「それは本当に今更だけど……それがどうしたのよ」

「いやそれなのにだよ? それなのに何で紗姫は俺の事を起こしにこないし、迎えにも来てくれないのかなぁ……普通幼なじみだったら迎えに来るだろ? ギャルゲーだったら」

「ギャルゲーだったらだろッ!? ギャルゲーと現実を混合するなッ!」

 至極真っ当な意見を言う紗姫。正論すぎて取り付く島も無いが……でもギャルゲーから飛び出してきたみたいなビジュアルの紗姫には言われたくないなぁ……。

「くそっ……これだから現実は……紗姫が迎えに来ないなら俺はギャルゲーの世界に逃げるぞ! ジョジョーーーッ!」

「知るかッ! 迎えに行くなんてそんな恥ずかしい──じゃなくって……め、面倒な事嫌に決まってるでしょ!」

「ん? なんだ恥ずかしいのか? 恥ずかしいのか紗姫ちゃん? 紗姫ちゃん恥ずかしいの? 迎えに来るのが恥ずかしかったの紗姫ちゃん?」

「うっ、うるさいわねぇッ! どんだけ揚げ足取るのよあんたッ! いい加減にしないと口に拳をねじ込むわよ!?」

 俺の執拗な攻めについに耐えきれなくなった紗姫は、顔を真っ赤にして怒る。

 非常に可愛いのだが、握りしめている拳が俺に向かってくる前に謝るとしよう。

「ははは、ごめんごめんっ♪ 恥ずかしがる紗姫ちゃんを攻めずにはいられなかったんだ、許してくれよ」

「くっ……コイツ腹立つ……もう一発殴っとこうかしら……」

「やめてっ! いや~、でも恥ずかしがる事なんてないんだぞ紗姫? 小さい頃は毎日迎えに来てたじゃ──」

「さぁっ!とっとと学校行きましょうッ!龍介の視力が永遠に失われる前にねッ!」

 俺の台詞をぶった切った紗姫は、ひとりでスタスタと歩き出した。

 ……不吉な言葉を残して。

「えっ?ほ、本当に握り潰すの?遅刻したら俺の眼球本当に握り潰す気なの?ねぇ!?ねぇってば紗姫ちゃん!ちょっ……ちょっと待ってッ!置いてかないでーーーーーーッッ!!」

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