思考&トラップ
邪魔者を蹴散らしたところで、大通りを歩き出した。人は普段に比べ、かなり多いが、道が大きい分割と楽に進める。
このくそ寒い中、大声を出してチラシを配る青年に、ミニスカサンタの携帯姐さん。それと、やっぱりカップル達。
何が嬉しいのか、身を寄せ合って笑っている。
俺はなんでクリスチャンでもないのに、人々が祝うのかが疑問だ。まあ、日本人に有りがちな傾向なんだろうな。それに俺もクリスマスパーティーに誘われた身。人のことはとやかく言えない。
他にも疑問はある。こっちの方が重要だ。サンタは何でも欲しいものをくれるというのに、どうして人は平和を願わないんだ?あれだけ平和を願い、欲しているにも関わらず、こういった時には誰もがその願いを忘れて、サンタにそんなことを願う奴は誰もいない。人は眼前の欲望に目がくらみ、後の待つ苦痛を知らず生きている。
まあ、それも当然のことだな。誰もが他人なんてどうでもいいはずだ。口でなんと言おうとも自分が一番大事。その証拠に戦争は終わってねぇ。平和は訪れない。人は自分のために争い、自然を消し飛ばす。醜いかもしれないが、それが道理ってもんだ。
だけど、俺はそれは間違ったことじゃないと思う。批判する人もいるが、自分のためだけに生きることのどこが悪い。自分のために生きることは、最も大切なはずだろ。
そんなくだらない事を考え始めていた。いつもこの季節になると、考えてしまう。答えなんてどこにもない。見えそうで、見えない。そんなものだ。
思考していたせいか、前方が不注意になっていた。視線を元に戻したときには、もう遅かった。目の前には、本日二組目の「バカップル」様ご一行がいた。しかも、先程と同じ、一つのマフラーを二人で使っている。違うといえば、マフラーがやや長いってところだけだ。
カップルの方が先にこちらの存在に気付いたらしく、組んでいた腕を放し、二手に分かれた。
(なにっ!なんでこんなことしてんだ、こいつ等!)
二人に挟まれることになった男の道は、ただ一つ。真ん中を通り抜けるしかない。長いマフラーがピンと張り、棒のようになっていた。
(くそっ)
咄嗟に体を仰け反らせてかわす。
その姿は、あの弾丸をかわすことで有名なマロリックスのような感じだった。カッコイイ。
……最後の言葉は無視しよう。
見事に危機を脱出した男は、後ろを振り返り、カップルを見た。二人は、またより添い、楽しそうに歩いている。
(一体なんだったんだ)
突然のトラップに困惑したが、すぐに切り替える。
腕時計を見ると、予定の時間が迫ってきていることを知った。
(さっさと行くか)
男は目的地まで急いだ。