序章9
太陽の女神は火の神の肩に置いたまま、そっと微笑みます
「もし水の女神を探す途中に月の神の妨害を受けても、この祝福がきっとお前を助けてくれるだろう」
気が付けば広間は静まり返り、他の神々の姿はどこかに消えていました。
火の神は広間の中央にある大樹のそばまで歩いてきて、張り出した黒い枝やその緑の葉を見上げました。
世界を支える原初の大樹は、創世の時代からそこにあるように、太い幹を天に向かって真っ直ぐに伸ばしていました。
近い未来、その大樹が月の神の予言の通りに枯れるなど、火の神にはとても想像が出来ません。長い時を生まれてから変わらぬ姿で生きてきた火の神にとって、生き物のような死は実感が沸かなかったのです。
火の神は広間に残った風の神と大地の女神を振り返ります。
「もしもぼくが予言にある滅びの時までに、水の女神を連れて天上に戻れなかったら、風の神と大地の女神、太陽の女神はぼくを見捨てて逃げてくれ」
大地の女神は両手で口を覆い、小さな悲鳴を上げました。
「何を言っているの? 二人を置いて逃げるなんて、そんなことできないわ。わたし達四人、いつも一緒だったじゃない。風の神とわたしだけ逃げて、あなた達二人が助からないなんて、そんな悲しいこと想像させないで」
大地の女神は涙ぐみながら答えます。
「大地の女神」
風の神は大地の女神の肩に手を置き、首を横に振りました。
「大地の女神、気持ちはわかるが、それは事実だ。もし仮に月の神の予言が本当で、二人が滅びの時に間に合わなければ、最悪の事態も考えなければならない。もしもの時はおれ達二人だけでも、生き残る術を考えなければならない」
「風の神、そんな」
大地の女神は涙をぽとりぽとりと床に落とし、ついには泣き崩れてしまいました。
「まあ、あまり考えたくない事態だが」
風の神は声を立てて笑い、肩をすくめました。
太陽の女神はその三人の様子を黙って見守っていました。
火の神がいよいよ死の国へ続く階段を降りて行こうという時になって、大地の女神が火の神を呼び止めます。
「火の神、待って」