序章8
「ここにいる神や女神のいずれかが地上と死の国へ降りて、水の女神を探せばいいのだ。神や女神ならば水の女神の気配がわかるだろうし、来た道をたどり天上に連れ戻すことも可能なはずだ」
太陽の女神の提案に、三人は黙り込みました。
いくら神でも地上や死の国に降りる勇気のある者は、今までほとんどいませんでした。
地上や地下に追いやられた神や女神は、決まって何らかの罰を受けた者ばかりで、自分から赴こうという者などいなかったのです。天上にいる限り神々は年老いることもなく、生き物のような死も存在しなかったのです。
「ぼくが行く」
火の神が名乗りを上げます。
「ぼくが地上や死の国に降りて、水の女神を探してくる」
風の神は驚いて彼の横顔を見、大地の女神は両手で口を覆います。
太陽の女神は真剣な顔つきで火の神を見つめています。
「本当に地上や死の国に行くのか? 下手をすれば、二度と天上に戻れないかもしれないのだぞ? それでも水の女神を探しに行くというのだな?」
一度地上や地下に追いやられた神や女神で、再び天上に戻れたものなど今までにいなかったのです。
しかし火の神は恐れた様子を見せず、力強くうなずきます。
「はい。たとえどんな困難が待ち受けていようと、ぼくは諦めたりしません。必ず水の女神を探し当て、二人で一緒に天上に戻ってきます」
太陽の女神は火の神をじっと見つめていましたが、やがて視線をそらし力なく微笑みました。
「わたしにも、その決意があれば、月の神の苦しみをわかってやることが出来たのかもしれない。しかしもう、遅すぎたな」
一筋のちぎれ雲が日の光を遮るように、太陽の女神の顔に暗い影が落ちます。
太陽の女神は暗い考えを振り払うように軽く頭を振り、火の神の肩に優しく手を置きます。
「お前が道に迷ったとき、
太陽の光が暗い道を照らしてくれるように。
お前が苦境に陥ったとき、
それに立ち向かう勇気を与えてくれるように。
たとえお前が闇夜にいても、
必ず朝日が差し込むように。
お前の頭上に太陽の祝福を与えよう」
太陽の女神は歌うように祈りの言葉を唱え、火の神に自分の力の一部を分け与えます。
火の神は自分の体の中に小さな光が灯ったようでした。