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序章6

「一体、どうしたと言うんだ」

 火の神が尋ねると、水の女神はゆっくりと振り返りました。

 もう少しで火の神はあっと声を上げ、腕を放してしまうところでした。

「こんなに醜くなったわたしなど、死の国に落ちてしまえばいいのです」

 しわだらけの水の女神の顔は半分肉が腐り、ただれ落ちています。

 今の水の女神には、以前のような若く美しい容姿はどこにもありませんでした。

「このような姿では天上の神々の前にいることなど出来ません。だから地下にある死の国へ行こうと思ったのです」

 火の神は水の女神のあまりの醜さに思わず顔を背けました。

「しかし太陽の女神様なら、元の姿に戻る方法をご存じかもしれない。そうすれば、今までのように天上で暮らすことが出来る。姿が醜くなったからといって、死の国に落ちる必要はない。君はぼくの片割れだろう? 君がいなくなったら、ぼくはどうすれば良いと言うんだ」

 火の神は顔を背けたまま、苦しげにつぶやきます。

 水の女神はふふふっと冷たく笑いました。

「月の神の予言さえ変えられないような無力な太陽の女神に、わたしの姿が戻せるとでも言うの? それこそ、滑稽だわ」

 火の神はぞっとしました。

 そこで初めて、水の女神が姿だけでなく心まで変わってしまったことに、火の神は気が付いたのです。

 もう火の神が知っている以前の水の女神の面影はどこにもありません。

 火の神は怒りと悲しみのあまり、水の女神の腕を強く握りしめました。その腕を通して、火の神の炎が水の女神の体に燃え移ります。

 水の女神はぎゃっ、と叫び、腕を振りほどこうともがきます。

 死の国の闇に心奪われた水の女神に、天上の火の神の炎は熱すぎたのです。

 水の女神が暴れた拍子に火の神は木の幹に背中をぶつけ、握っていた手を放してしまいました。

 水の女神は足を滑らせ白い階段を踏み外して、宙に投げ出されました。

 火の神はすかさず手を伸ばしましたが、水の女神の腕をつかむことはできませんでした。虚しく空をつかみ、水の女神は悲鳴を上げて落ちていってしまいました。

 火の神は水の女神が落ちた先、青い虚空を呆然と見下ろしています。

 世界を支える大樹の黒い幹にへばりつくように、白い螺旋階段はどこまでもどこまでも続いていました。


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