序章2
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「月の神、あなたなのか?」
太陽の女神が尋ねると、地の底から響いてくるような恐ろしい声が広間に木霊します。
「久しいな、太陽の女神。この度は天上のすべての神々を集めて盛大な祝宴を催すと聞いて、こうして地下の死の国より足を運んだと言うことだ」
その声を聞いて、広間にいた神々はぞっとしました。
荒野を吹きすさぶ木枯らしよりも荒々しく、真冬の雪原をわたる風よりも冷たく、その声は神々の耳に届いたのです。
「位ある月の神が、どうしてそのような姿に」
青い頭巾の下からのぞく白い骨がかたかたと鳴ります。
「なあに、夜の闇を支配するうちに、生き物の腐臭を浴びて、自然とこのような姿になっただけのこと。闇の底に沈む死の国の支配者にはふさわしい姿とは思わんか? なあ太陽の女神よ」
太陽の女神は月の神を見据えたまま、何も言いませんでした。その伏せたまつげの下には、哀れみとも悲しみとも取れない感情が浮かんでいました。
月の神は青い衣をひるがえし、広間をぐるりと見回しました。
「このような盛大な祝宴に手みやげの一つも無しでは寂しかろう。どれ、ここは一つわたしが神々の行く末を予言してやろう」
月の神の青い衣が蛇のようにうねり、足下からウジ虫やムカデ、ひる等が這い出てきます。その気味悪い虫達と同じように、月の神の口から出てきたのは身の毛もよだつ呪いの言葉でした。
「いずれ近い未来。世界を支える大樹は枯れ、天上は滅びるだろう。しかもただ滅びるのではない。月に太陽を食われ、昼と夜は混じり合い、闇に飲まれて天上は滅びるのだ」
月の神はくっくと笑いました。
笑うたびに頬の肉がそげ落ち、床の虫達がそれにたかります。
神々はあまりの恐ろしさに血の気が凍る思いでした。神々は太陽の女神の言葉を待ちましたが、太陽の女神は沈痛な表情で口を閉ざしたままでした。
「ところで」
月の神はおびえている神々を見回します。
「先ほどおもしろい趣向に興じていたそうだが」
月の神は青い衣をずるりずるりと引きずって、遠巻きに眺める神々に近づいていきます。
おびえている女神の細腕をつかみ、強引に引き寄せました。
それは先に発言した若く美しい水の女神でした。
「お前は先ほど、生き物を慈しみ、育むことが出来ると言ったな。ならばこのうじ虫どもも慈しんでみろ。育んでみろ」
月の神が水の女神の顔の前で拳を開くと、指の隙間からうじ虫が這い出てきます。




