序章13
彼は白い螺旋階段の一階下の段に着地し、身軽な動きで降りていきました。
火の神が頭上を振り仰いだとき、夜の獣が階段を駆け下りてくるのが見えました。
このままではいずれ夜の獣に追いつかれてしまうと考え、火の神は階段から思い切り飛び降りました。
火の神の耳の隣をごうごうと風がうねりを立てて通り過ぎていきます。
先まで立っていたところがみるみる頭上に遠ざかり、地上の景色が眼下に迫ってきます。
あわや地面にぶつかるところで、火の神は白い階段の縁を両手でつかみました。
軽い身のこなしで体をひねり、白い階段の上に両足で飛び降りました。
かなり高い場所から落ちたにも関わらず、火の神は怪我一つ負いませんでした。
それは大地の女神にもらった力でした。
風の神にもらった機転と、大地の女神にもらった頑強さで、無事に夜の獣から逃げることができたのです。
火の神がちらと頭上を見上げると、夜の獣の姿は影も形もありませんでした。
火の神は地上の地面を通り抜け、地下への階段をどんどん下りていきました。
少しずつ地上を照らす太陽の光が届かなくなり、辺りは夕暮れのように暗くなっていきます。
螺旋階段の足下がおぼつかなくなったので、火の神は手のひらに赤く燃えさかる炎を生み出しました。
火の神は炎の明かりを頼りに、暗く広がる死の国へとどんどん降りていきました。
死の国にたどり着いた火の神は、月の神の姿を探して歩き回りました。
月の神ならば、水の女神の居所を知っていると思ったのです。
青い月の照らす道を進み、木々の白く光る林を通り抜けました。
やがて光も届かないほどの暗闇に、死者の群れが延々と長い列を作って歩いているところに出会いました。
火の神は死者の列の隣を通り、岩だらけの荒野を先へ先へと歩き続けます。
やがて暗闇が途切れ、辺りが朝焼けの淡い光に包み込まれます。
死者の列の先頭にたどり着く頃、地平線の彼方に石で出来た巨大な門が見えてきました。
火の神はその門の前にいる三人の死の国の神々に話しかけます。
「この道を、水の女神が通らなかったか?」
「通ったような気がするな」
右の門の前にいる白い頭巾をかぶった神が答えます。
「通らなかったような気がするわ」
左の門の前にいる黒い頭巾をかぶった女神が答えます。