序章10
大地の女神は火の神に走り寄り、その両手をそっと包みます。目尻にはうっすらと涙が浮かび、頬には涙の跡が残っています。
「あなたが困難に出会ったとき、
何ものにも屈せぬ意志の強さ、頑強さを送ります。
苦難があなたの心を壊さないように、
苦痛があなたの体を壊さないように、
つらいとき、苦しいとき、
野に咲く花々があなたの心を慰め、癒してくれるように、
あなたに大地の祝福を与えます」
大地の女神は美しい声で朗々と語り、ゆっくりと手を放しました。
大地の女神が火の神から離れると、今度は風の神が前に進み出ました。
風の神は火の神に片手を差し出し、固い握手を交わしました。
「おれはお前に賢さと身軽さを送ろう。
どんな苦境に遭ってもそれを乗り切る機転と、
風のような素早さをお前に送ろう」
風の神は手を放し、火の神の肩を何度も叩きました。
「頑張れよ」
「わたし達、天上からいつもあなた達を見守っているから」
大地の女神は火の神の手を別れを惜しむように握りしめました。
「ほら、それじゃあ火の神がいつまでたっても出発できないだろう? 火の神をあまり困らせるなよ」
風の神はわざと軽い口調で話し、肩をすくめます。
「また会えるわよね? 絶対よ。絶対に水の女神と一緒に無事な姿を見せてね」
「じゃあな。少しの間お別れだな。なあに、おれ達天上の神にとっては死の国や地上の時間の流れなんて一瞬の瞬きにも等しい時間だ。すぐに会えるさ」
風の神は大地の女神と並んで、一緒に階段の上から火の神を見送ります。
すると今まで黙って二人の後ろに立っていた太陽の女神が、赤い衣をひるがえし歩み寄ります。
「くれぐれも用心するように。我々天上の神々が地上や死の国に降りたとき、どんな事態が起こるかわからん。何より前例が少ないし、死の国や地上から天上に戻ってきた神もほとんどいない。すべてを知っているのは、地下に住む月の神とその眷属だけだ。悔しいが、わたしの太陽の光も地下にある死の国までは届かない」
太陽の女神はその美しい顔を歪めます。
火の神はゆっくり首を横に振りました。