序章1
数年前に小説大賞に応募した作品。最初はライトノベルのつもりで書いていたけれど、友人に指摘されてどうやらそうではないことに気付く。御伽噺? 児童文学? この小説がどんな分類に入るのか、もし親切な方がいれば教えてください。
序章
気の遠くなるような昔のことです。
太陽の女神は天上の神々を集めて、祝宴を開くことにしました。
神々の宴は世界を支える大樹の宮殿で行われ、あらゆる山海の珍味、美酒が広間のテーブルに並べられました。広間の中央には大樹の緑の葉が風にそよぎ、美しく芳しい花々が無数に咲き誇っています。
舞や技芸の神や女神たちはこぞって自分の技を披露し、神々の拍手喝采を浴びています。
祝宴も半ばに差しかかり、酒の入った神々はどの神が一番優れているか決めることにしました。
もちろん天地を統べる太陽の女神が一番優れているのですが、彼女には及ばないものの、神々は自分の特技を披露したくてたまらなかったのです。
太陽の女神は世界を支える大樹の玉座で、神々の賑やかな様子を笑顔で見守っていました。
「ぼくの炎はどんなものでも焼き尽くし、灰にすることが出来る」
年若く勇敢な火の神が言います。
「わたしの水は生き物を慈しみ、育むことが出来ます」
若く美しい水の女神が言います。
「おれの作った武具は、他の誰の作った武具よりも優れている」
「あたしの舞は、天上のどの女神の舞よりも美しいわ」
口々に自分の優れたところを言い合う神々ですが、誰が一番かはなかなか決まりません。皆それぞれに優れたところを持っており、お互いに譲らなかったのです。
そこへ一人のみすぼらしい神が入ってきました。
広間にいた神々は一斉に目を見張りました。その神はぼろぼろの青い衣を着て、体中からはものが腐ったようなひどい臭いがしています。
足下にはうじ虫がわき、裾からのぞく手足は肉がそげ落ち、白い骨が見えています。
ほとんどの神は鼻を押さえ、顔を背けましたが、太陽の女神だけは違いました。
太陽の女神は新しく広間に入ってきた神を食い入るよう見つめています。
「月の神」
その一言に、広間にいた神々は、みすぼらしい青い衣の神を一斉に見つめます。
というのも、月の神は太陽の女神の次に地位の高い神だったのです。
太陽の女神は赤い裾をひるがえし神々の間をすりぬけ、青い衣をまとった月の神の前に進み出ます。