私のつむちゃん
私は、かたつむりを育てている。
出会いは、祖父のお墓参りに行った帰りに、無人販売で母が「葉っぱ付きの大根、珍しいね!」と買ったことだった。
家でよく見てみると葉っぱの部分に。
「かたつむりがついてるよ!」
と、母が気付き、ふーんと私は、思った。
かたつむりと言えば、絵本の中に出てくるぐらいで現実世界で見かけたのは小学生の時以来だった。
出会うこともあるんだなと思った。
翌日、私は、「あのかたつむりはどうしたの?」と、聞いてみると。
「大根葉っぱについたままゴミ袋に捨てたよ!動いてない!」
と、言われたので慌てて大根葉っぱを袋から出すと、殻に入ったまま何も動いていない、大根葉っぱにくっついたままのかたつむりを見つけた。
母は、「害虫だから捨てなさい!」と言っていたけど、私は、「このままはダメだよ!」と伝えてかたつむりを調べ始めたのだった。
そこから『つむちゃん』と呼び、私が育てるんだ!と心に決めたことで、あたたかい気持ちになったことを覚えている。
私は、虫が苦手だ。
ゴキブリなんて見た日にはすぐ逃げる。
だから、育てられるか不安だった。
急いで空になった味噌カップを綺麗に洗って、ネットで調べたヒタヒタのキッチンペーパーを下にひき、キャベツやきゅうり(皮や表面を切ったもの)を入れて、様子を見ていたらすぐひょこっと顔を出してくれたのだ。
「出てきたよ!」
「おっ、生きてたね!」
亡くなっていたら嫌だよ!と思いながら自分がその日に、何もしないで母に任せたせいなので何も言えず、ただただ、つむちゃんを見守っていた。
触覚はでていても、大根葉っぱからなかなか移動してくれなかったので、そのまま味噌カップに入ってもらいたまねぎネットをかぶして、様子を見た。
後から知ったけど、かたつむりは、たまねぎが嫌いなのだ。
ネギ、しそ、柑橘類なども食べられないと書いてあった。
つむちゃんは、翌日も大根葉っぱに絡まっていたので、その日は強制的に移動してもらうことになった。
移動させる時は、大変だった。
可哀想だけど、割り箸で殻を持ち上げて、つむちゃんの筋肉が緩んだタイミングで足をヒラヒラさせたつむちゃんを羽ばたかせて、味噌カップに着地させた。
つむちゃんは、身の危険を感じて、脱出しようとしてかたつむりとは思えないスピードで、味噌カップの壁をダッシュして触覚を長く伸ばした。
私は、つむちゃんがどこかに行くと思い「つむちゃんが…」と泣いていたら母が乾いたキッチンペーパーを持ってきて味噌カップの上に被せたらつむちゃんは、安心したのか体が小さくなったのだ。
「ほら、大丈夫よ。つむちゃんは、大根葉っぱが好きなんだね。じゃあ、無人販売で買った大根葉っぱ、これ水につけてさ、伸びるの待ってみようよ。まだ食べられるよ!」
と、母はケロッと明るい声で後ろで話をしていた。
母は、色々言いながらもなんだかんだ手伝ってくれていた。
私がつむちゃんを移動させたくて苦戦している時も、「今!」「取っても大丈夫よ!」「びって剥がさんね!」
思いきることが大事なのかもしれないと感じたけど、つむちゃんが何とか自分から地面から離れる時まで私は、そのタイミングを待ってみた。
時間はかかったけど、つむちゃんは元気に動いているから良かったのだと思う。
母もつむちゃんを好きにはなっていなくても、興味があるんだと感じて嬉しくなった私は、つむちゃんを私が容器をお風呂場で洗う時に、移動させた後は、母に「ちょっとつむちゃん見てて!」と叫び、「逃げないが!!」が、いつものやり取りになっていた。
ある日、母が「ちょっとふって息を吹きかけたらさ、殻に入ったよ!」と言っていた時があったので、「何してんの!」と、言い合いになってしまった。
つむちゃんは、風は体が乾燥するから嫌なのだ。
「ちょっとふっが一番いけないの!」と伝えたのだが、母の笑顔には「それは無理です。」と、書いてあったので母がいない場所で出来る限り、エサを変えるしかないと思ったのだった。
最初の頃は、私は、つむちゃんが容器を洗いに行っている間にいなくなってしまうことが怖くて、母に見てもらっていた。
時には、つむちゃんの頭に白いプラスチックトレイを被せて「暗かったら大丈夫よ。」と母は、言っていたものの、私がはずすと片方の触覚を出して『うん?何だ?』とつむちゃんの心の声が聞こえてきたことがあった。
可哀想だけど、母のおかげで何だかどんどんつむちゃんが、人間に驚かなくなって強くなっていることに気付きはじめたのだった。
途中、「つむちゃんに塩かけてみよっか!」と目を輝かせていた日のことを私は、覚えている。
風と言えば、私もつむちゃんにとんでもないことをしてしまった日があった。
何だか部屋の匂いが気になりドアを開けっぱなしにしてしまったのだ。
その日は丁度、台風が来る前日で強い風がふいていた。
そんなことに気付かない私は「涼しい!」と、涼みながら、容器の中でつむちゃんがどんな状態になっているかも知らずに、匂いがなくなったことを感じた時にドアを閉めた。
つむちゃんはその時に、命の危機を感じていたのだ。
その日はたまねぎネットではなく、隙間のあるプラスチックの蓋をつけていたこともあって、一瞬でつむちゃんは、乾燥してしまい、私が気付いた時には、殻の中に入って膜をしっかり張っていたのだ。
調べたところ、それはエピフラムと呼ばれているらしい。
私の想像では、つむちゃんが命の危機を感じた時に『◯×◯×△!(エピフラムとは言えてない、自分が覚えられなかった)』と唱え、魔法で体を守っているのだと思った。
それから、霧吹きでつむちゃんに呼びかけて時間をかけて膜がやぶれて、気付いたらキャベツを食べていたので安心した出来事があったのだ。
最長で1日半、つむちゃんは、殻に入っていたことがある。
殻からでてきた時を見たけどヨレヨレで、水分が足りていなくて可哀想で、私の知識不足で。
しっかり、調べて二度とそうならないように今でも乾燥にだけは気を付けているのだけど、つむちゃんが自分で最近は下にしいているヒタヒタのキッチンペーパーのところに行くことを覚えているように見える。
つむちゃんが住みかに適応しているのだ。
そんな中、つむちゃんはすくすく元気に育ったのだ。
毎日キッチンペーパーとエサを変えて、卵の殻がつむちゃんの殻の栄養源になると分かって、食べやすいように小さくしてレンジでチンして消毒してつむちゃんは、食べていた。
大根の葉っぱには、その栄養源が入っているらしく、だから、つむちゃんは、びっちりくっついていたんだと分かった。
かたつむりは、それらが近くにない時は、コンクリートを食べることもあるらしかった。
私も今は、腰痛のリハビリ中で毎日ゆで卵を食べているので何だか繋がっていると感じて、とても嬉しくなった。
つむちゃんは、ある日から、リラックスしすぎて、こきゅうこうと呼ばれる小さな穴を大きく広げて、キャベツを懸命に食べるようになった。
ブラックホールみたいなそれは、何だか吸い込まれそうで、ありの巣からでてくるあり達を小さい頃じっと見るのが好きだった私は、こきゅうこうを見つめる時間が多くなった。
小さい頃の私は、その時、何の嫌がらせかあり達の巣をほじくっていた怪獣だったけど。
今は、こきゅうこうを見てつむちゃんも生きているんだと命を私は、預かっているんだと責任を凄く感じるようになり、かたつむりのことをもっと、調べるようになった。
かたつむりは、雌雄同体でオスでもありメスでもあるという凄い体の仕組みをしていることが分かった。
今つむちゃんは、立派な大人になり、殻が野生では恐らく見られないぐらいの鋼と言ってもいいぐらいの殻に成長している。
たまに、つむちゃんは、自分の殻を舐めてお手入れしている。猫みたいだ。
最初、見た時は体を物凄く捻っているので驚いたけど、その姿は、無防備に見えるので、ここが安全だと感じてくれているのだろうかと思って私は、とても嬉しくなった。
つむちゃんは、カルシウムが足りなくなると自分の殻をかじったりすることもあるみたいなのだ。
怖いので、卵の殻をしっかりあげることが大事だ。
カットルボーン(イカの甲)もかたつむりの大好物でカルシウムなのだ。
かたつむりの殻は、あさりと一緒の貝殻と呼ばれていて、ほぼ炭酸カルシウムで出来ているけど残りの数%が、タンパク質で出来ているらしい。
あさりは、海水をカルシウムにするけど、かたつむりは陸の生物だから塩をかけたら、亡くなることが分かった。ナメクジも同じなのだ。
ナメクジは、かたつむりの進化した形で、コンクリートには、ミネラルが入っているのでナメクジがよくいるのは、食べていることが理由みたいだ。
祖母から、つむちゃんは、4ヶ月も一緒に過ごしていたら私の顔を覚えていると嬉しいことを電話で話してくれた。
調べると、つむちゃんは、匂いに敏感なため私を同じ匂いとして認識して、『あ、またこの匂いということはエサ変えか!』という感じなのか、そもそもそんなこと考えないかと、思いながらいつもつむちゃんの部屋を私は、掃除している。
でも、なにかを覚えてくれているかもと思うと、親しくなれているようで、嬉しいのだ。
だけど、そういうことを求めることは人でもあまり良くはないと考えている。
つむちゃんにとっての天国は、朝露だと私は、思っている。
野生は危険でいっぱいだけど、朝露をつむちゃんに届けるためには、安全な場所を調べて外の世界に帰してあげることが、育てた者としての責任かもと、泣きそうになりながらも感じることがある。
子供を産めるサインのものがおでこに最近でており、つむちゃんはもう大人だ。
気候と相談しながらつむちゃんのことを考えた方が良いのかもしれない。
だけど、このまま私は、つむちゃんのお母さんで一生を見守りたいと勝手に思っている。
朝露があるぐらいの暮らしをさせてあげたいのだ。
つむちゃんの大好物のレタスをたまに食べてもらうことで、もっと、そう感じてほしいと思っているのだけど、自然の良さには敵わないんだろうな。
今は、夏場で暑いので、保冷バックの中に入ってもらっていて保冷剤も一緒なので、つむちゃんは気温が丁度良いのだと思う。
この前、私が起き上がれなくなった時に、母が、つむちゃんの保冷剤を入れ替えてくれた。
とても、嬉しかった。
誰かに支えてもらわないと自分のベッドにも、戻ることが出来なかった日があったけど、それでいいんだと泣きながら思ったことを今でも覚えている。
今、つむちゃんは体をのびのび伸ばしたり、三日月みたいに体をくねっとさせている。
私は、その姿を見るとリハビリ頑張らなきゃ!と勇気をもらえるのだ。
容器の下にいつもチラシをひきながら、掃除をしていてたまに、透明な容器だから虹に見えることもある。
つむちゃんは、何だか私が行きたいところに案内しようとしてくれているのかもしれない。
神様なのかな。
これからは、つむ様と呼ばないといけないね。
かたつむりの顔は、殻の中からにょきっと出てくる触覚のある方(大触覚)が頭で目である。
その触覚の反対の顎の部分に、猫みたいに下から2本の短いひげ(小触覚)がでている。
ひげが出ていたらその場所に安心している合図らしく、私は、そういう場所を作ってあげられているのかもしれない。
ひげがでている時間が多くなった。
最近は、殻の下から足もでている。
とても、居心地が良いのかな。
安心してもらえる、そういう存在になれたら、いいな。
つむちゃんを見ているとタイミングが大事だなと思う。
たまねぎネットにのっている時にエサを変えたら、とめているゴムがパチン!!と音を立てて、勢いよくネットが取れたのでつむちゃんが、そのまま落ちてしまったことがあった。
私は、「つむちゃんが落ちちゃった!」と泣いていたけど横から母がやって来て「嘘だ!つむちゃん、ピンピンしてるがね!たった5cmだがね! 触覚も出てるがね!どうもなってないから!」と言われてよく見たら、つむちゃんの殻はキッチンペーパーが受け止めてくれていて、ダメージ0だった。
そこからは、つむちゃんが下に降りている時にエサを変えるようになって、上にいる時は無理に変えることはしなくなった。
母には、今、「キッチンペーパーも高いんだからね!208円だよ!貯金箱に入れて!」と、言われて、私は、ちゃりちゃりと猫ちゃんの貯金箱に100円玉を母がキッチンペーパーを買ってくれた日にいつも入れている。
毎日、続けていることがあることは、自分にとっていいことなのかもと思っている。
役に立てている自信にも繋がるから、時間はかかってもそれでいいのだ。
かたつむりは、マイペースで動きはいつもゆっっくりだけど危険を感じると触覚を大きくのばしたり、ダッシュで味噌カップを登ったりするほど、パワフルだ。
私も体が元気になれたらそうなれると信じて、リハビリを頑張るのだ。
かたつむりの生態って凄いんだなと思いました。




