チュートリアルとか面倒だ(3)
連なる暗雲に包まれた上空。真下の平原にぶっ倒れた俺の身体からはぷすぷすと煙が立っていた。
「く、くそ……綺羅羅ちゃんに会えないままで死ねるか……こんな雷なんざ、綺羅羅ちゃんに初めて会った時のほとばしる衝撃に比べたら大したことはないはず……」
精神強度は、普通の人間のそれよりも自信がある。だが、わけわかめな異世界における変な事象に触れたら、そんな自信も吹っ飛ぶというものだ。
このまま野良の雷にトドメを刺され、故郷ではない異世界で成仏するしかないのか……と弱気になったその時。
視界にこんな表示が現れた。
―――ITEM 追加―――
アイテム? あいてむって、ゲームとかのアレかしら。
仮にそうだとしたら、そのアイテムを確認したい。もしかしたら、この状況を打破できるのが追加されてるのかもしれないし。
こういう場合、アイテムはアイテムストレージに追加されているのがふつうだ。ストレージの片隅にある新アイテムをタップし《使う》なりなんなりを選択すればいい。
だが、今の俺にはそれができない。チュートリアルも済ませていない現状、俺はこのゲーム(異世界)での操作方法が分からないのだ。
その辺に無駄に生えている草を右手で握る。己の力の無さにムカつくぜ……! みたいなバトルラノベ1話目みたいなことは思わないけど、普通に死ぬのは怖い。死ぬのが怖いという感覚だけが、俺の脳内を支配していた。
綺羅羅ちゃんのことを忘れていることに気づいた。
―――結局、俺は死に対面すると最推しのアイドルのことさえもすんなり忘れてしまう薄情者なんだ。くそったれめ。ダサい。猛烈にダサい。
そんなことを考えていると、俺のすぐ隣―――5メートルほどの位置へ、再び雷が。どしゃあんという鋭い音を立てて『次はお前だ』みたいに耳元へ語りかけてくる。
せめてもの抵抗として、ごろりと身体を反転させる。上空を見上げてこう叫ぶためだ。
「―――綺羅羅ちゃぁあああああああああああん! 愛してるよおおおおおおおおおおおおん!」
次の瞬間、異世界へ転移したばかりの俺の身体を、雷が穿った―――生存していた時間は、およそ2分。カップ麺もギリ作れない……




