ミアってまさか……(1)
人間とは、感情に流されやすい生き物だ。
どんなに冷酷であろうとしても、生涯それを貫き通すことは不可能に近い。
俺にいたっては、生涯どころか数分ももたない。
「せぇの! 萌え・萌え……ばっきゅう〜んんッ!」
「全く足りないわ! 詠唱速度がゴミ同然よ」
「これ以上早くできねーよ! 成人男性にこんなことさせんな!」
「アンタがやってくれるって言ったんでしょ! 結婚についても、快く引き受けてくれたじゃない」
「そうだけども!」
「『結婚』ステータスの状態で、生涯一度だけ使えるという治癒魔法『モエ・キュン・ハイパーヒール』……おかしいわね、どうして発動しないのかしら」
ミアの妹は、どうやらヤバい病に侵されているらしかった。その辺に売っているポーションなんかじゃ、どうにもならないらしく、縋るような思いで『精霊魔法(治癒魔法のレベルが高い)』を使用できる俺に結婚を申し込んだようだった。
頭のなかを整理しよう。
一つ。この世界における『結婚』とは、婚姻関係にある二人のステータスをおよそ三割増しにする効果を持っている。もちろん、治癒魔法なんかの効果も三割増し。しかし、デメリットもある。
二つ。精霊魔法の使い手(魔法効率が非常に高い)は、もともと世界に100人もいなかった。その中には、高度な『壁抜け』魔法を使う者が存在した……
三つ。ミアの妹の病気を治すには『モエ・キュン・ハイパーヒール』という治癒魔法を24時間連続で使用し続けなければならない。
マズいのが、俺は別に精霊魔術とやらを使える人間ではないということだ。成り行きで、なんか俺が精霊魔術の使い手みたいな感じになっているが、今さら違うなどとは言い出せない。だって結婚しちゃってんだもん。あくまでシステム上のことではあるけども。
なんか他に方法はないのか? そうだよそれを聞いてみればいいじゃん。
「この治癒魔法以外に、妹さんを治す方法は無いのか?」
「―――無いことは無いわ。けれど……」
「けれど?」
「そのアイテムは、絶対にドロップさせることができない場所にあるのよ」
次の瞬間、俺の目の前にこのようなポップアップが出現した。
《それは何処にある?》《諦めよう》
これ、俺が転移から一週間くらい経ったあと、魔王城正門で見たポップアップに似てるな。あのときは《レベル数値未達成》みたいな表示だったが。
試しに《諦めよう》を選択してみた。
「じゃあ無理だな。諦めよう」
「そんなこと言わないで―――そのアイテムは、絶対にドロップさせることができない危険な場所にあるのよ」
ミアからのその言葉を聞き終えると、再びポップアップが現れた。またしても《それは何処にある?》と《諦めよう》だ。
なんかさ、ちょっと思ったんだけどさ。さっきも感じた違和感だけどさ。
ミアって、NPCなんじゃね?
よくある展開じゃんこれ。RPGゲームしてると、よくある展開じゃん『ボスを倒してくれるか?』で断ると、何度でも『まあまあそう言わず』とたしなめられるヤツじゃん。
何回断っても会話の流れ無視して、承諾するまで機械的に繰り返される会話じゃんこれ。




