ついにパーティに仲間が加わる?(2)
創作の世界でよく見る魔法ってのは、詠唱を必要とする。
それっぽい英語みたいな言葉を並べて、格好良く発話すると魔法陣みたいなものが出現。そこから攻撃魔法だの防御魔法だのを繰り出し、華麗に戦う。
そこんとこのシステムは、どうやら俺の転移した異世界でも適用されるらしかった。
「ポート・トゥ・はじまりタウン……スペル・コンバート」
途中までは、なかなか味のある詠唱文章だったのに、固有名詞が出ると途端にダサくなった。
このダークな世界観の異世界で、町の名前が『はじまりタウン』なんてことがあっていいのだろうか。あまりにもあんまりだ。
そんなことを思っていると、魔王城最上階にて詠唱を済ませたミアが『急がなくちゃいけないから、少し無茶するわよ』と大きめの声を上げた。
どんよりした空気が一瞬でからりと変化した。荒れた風が周囲を巻き起こり、互いの声量が自然と上がる。これが精霊魔術とかいうヤツなのだろうか。
大丈夫かな……俺さっき成り行きで『ただの壁抜け』のことを『精霊魔術』だと伝えてしまったけど。
うっかり大魔術師とかだと勘違いされちゃいないよな? この世界を救ってくださいとか言われないよな?
―――なんだか、変だ。荒廃した異世界へ壁抜けで転移してしまった俺は、きっと長い時を一人きりで過ごすことになろうと、思っていた。確信ではないが―――
何故、突然にして都合よくミアという少女が現れた?
なんだか、とてつもなく大事な気づきみたいなものを、ここにいたるまでの道中で取りこぼしているような気がする。
頭を掠めたそれの正体に一瞬触れかけた。しかし、周囲の風が一際強くなると、俺の視界は瞬く間に真っ白な光によって覆い尽くされてしまった。そのせいで、思考は無理やりに中断させられた。
***
目を開けると、そこは『はじまりタウン』であった。
超高層といって遜色ない魔王城とは打って変わった『THE 郊外』という様子の―――集落だ。
存在している建築物の数は30にも満たない。全てが柔らかい色合いの木造建築。
ミアが、初対面の俺に結婚を申し込んで来た理由がここで分かるだろう。
全裸状態の俺は、それをものともしないミアに手を引かれ、一軒の家へと入った。
そこは、町の中心部にあって他の家よりもやや豪華な造りの建物だった。
家の中には一人の少女がいた。ベッドに横たわり、呼吸が苦しそうだ。高熱もあろう。顔も青ざめているのが如実に分かる。
ミアが少女に近づき『今回の治癒魔法は、ちょっと特別よ』と微笑んだ。背中越しなので表情は分からなかったが、ことばの感じからして笑顔なのは分かった。
未だ全裸状態のままの俺は、恐らく『結婚』という行為が『スキル練度上昇』的なバフ効果を持っていることを推測した。
この異世界に、ほとんど人間は存在していないことは知っている。そもそも、俺が魔王城に潜ったのも『魔王のところにいる姫君助ければ、有力な情報得られるんじゃね』と思ったからだ。
そういう理由で、ミアは偶然出会った数少ない人間の俺―――しかも、精霊魔術が使える(?)男を結婚相手に選んだのであろう。多分そうである。そうと決まれば、この苦しそうな少女にポーションを恵んでやらねば。
―――非常に打算的かもしれないが、俺はこの世界の人間に対して情のようなものを抱くことができない。あくまでも、俺は元の世界で最推しこと綺羅羅たんに再会することだけを目的としており……
今目の前で―――会ったばかりのミアが、その妹らしい少女への治癒魔法使用に失敗していようと、俺には関係ないのである―――なんてことになるのは、非情系主人公だけなのだ。




