壁抜けでいいっしょ(1)
簡単に言おう。俺は『壁抜け』ができる。
何だそれ?
あれだよ、あれ。アドベンチャーゲームとかで、操作キャラの挙動をバグらせて、プログラムの穴を突いて壁を抜ける、あれ。
つい先日、このファンタジーチックな異世界へ転移してしまった俺にはそれができるんだよね。
***
「うし、ここでスクワット動作35回」
暗雲渦巻く空。苦虫噛み潰したみたいな空気の悪さ。ついでにそこら中を覆い尽くしている気持ち悪い魔物たち。
ここはれっきとした魔王城。バリアフリーというには大げさすぎる大きさの正門には《Lv.173 以上の数値要求》というポップアップが浮かんでおり、ここから入ることはできないらしい。
一応さっき試したが、なんかポップアップに触れた瞬間に身体中に弱めの静電気が駆け抜け、5メートル後ろへ強制ノックバック。やっぱ通れませんでした。
なので裏門。裏門の隣にある煉瓦質の外壁から《壁抜け》を使う。
規定の位置にて、規定の動作《スクワット35回》をしっかりと敢行。運動不足の足腰が悲鳴をあげるが、構ってはいられない。
俺の身体Lvは7。通常ルートで魔王城に入るなら必須の《スニーク》などの隠密スキルは一つも所持していない。
そのため、魔王城付近にいる高レベルモンスターたちには一瞬でサーチされてしまう。用事は早いとこ済ませなくちゃな。
35回目のスクワット動作を終わらせると、ここで俺の身体がオートで前方へ動き、外壁へとめり込み始めた。身体全体に、異様な不快感を発生させながら魔王城エントランスへと無事進入成功だ。
「よし成功」
壁抜け発動に伴い、全ての服と装備は強制武装解除されてしまう。どうせ脱がされてしまう服を着る必要はない。
なので最初から俺はすっぽんぽんだ。武器も防具も持っていない(というか、持っていても魔王城のモンスターには一撃でやられる)。
エントランスには、人気がなかった。赤い絨毯が敷かれているだけの円形空間。正面30メートルほど先に《フロア移動階段》がある。
おっと、ここで俺が魔王城に馳せ参じた理由と目的を説明しておこう。
それは、俺が転移した異世界―――その中心にある王国《スリアリード王国》に君臨している姫君の救出だ。俺がやって来た時点で、既に姫君の部屋はもぬけの殻だったらしい。ハートフルなアドベンチャーができるだろうと踏んでいた転移者の俺からすれば、なんか既に荒廃している無秩序世界に放り込まれてがっかりだ。
通常、こういう有事の際には国の管轄部隊が救出に動くらしいのだが、あいにく現在の王国はとある理由で壊滅状態にある。
部隊もくそも機能していない国の辺境―――そのまた辺境にある俺が勝手に住まわせてもらっていた空き家―――にまで例の『姫君が奪い取られた』とかの噂が舞い込んできた。
それを聞いた頭の軽い俺は『姫助ければ、なんか手がかり得られるんじゃね』と思った。『壁抜け』を使える俺の行動は早かった。
その次の日の早朝―――俺は今、こうして魔王城にいるというわけだ。連れてかれた姫がいる場所は、魔王城が相場だろ多分。
その時だった。何百層にも連なるフロアの遥か上方から、聞き覚えはない多分姫君のものであろう(?)声が聞こえてきた。
『王子は何やってんのよ! 早く助けに来なさいよ!』
王子とか言ってるな。多分姫君だなこれ。いや、転移した時にはもう有事発生してたから姫君の姿知らんけども。
随分と横暴な姫君のようだが、元の世界へ帰る手がかりのために我慢して助け出すとしよう。




