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火種



翌朝。


昨日は魔法の特訓もして、スキルも増やした。

何が起きるかも、何をすればいいかも聞いてないんだ。

手探りの中の初日としては充分がんばったんじゃないかなあ。


そして反省点は仕事だ。

昨日は同行をせずにミズホに可哀想なことをしてしまったので、今日からはいつも通り、ふたりの仕事には立ち合いをすることにした。


というのも。


この身体になってかなり……いやめちゃくちゃに調子がいい。

たぶん寝なくても大丈夫な気がする。


なので昼夜は仕事、夜中は魔法の練習と研究をするのをデフォルトにすることにしたのだ。


しばらくするといつものようにのそのそとユキナが起きてくる。

ユキナがシャワーを浴びている間にミズホが階段を転げ落ちてくる。

いつもの朝だ。


みんな揃ったところで、ユキナが作ってくれた朝食を食べながら今日の動きを共有する。


ユキナはドラマの撮影。

ミズホは昨日に続いてアルバムプロモーションの取材日だ。


ドラマの現場は馴染みのスタッフだから入りのタイミングに顔出しをして、あとはミズホに付くカタチにするかな。

まずはユキナと一緒に仕事に行く。


仕事なのでこういう時の置いてけぼりにはミズホも文句は言わない。

ちゃんといってらっしゃーいと元気に見送りをしてくれた。


「おはようございます社長!」

「古杉くんおはよう」

「おはようふるっち!」


マンションのエントランスに降りると、ユキナの現場マネージャーの古杉くんが車から降りてきた。


彼は私より5コ下の関西人。

中高は柔道、学生時代はラグビーでそこそこ有名な選手だったらしく、ガタイがいいので威圧感があり、ボディガードとしては文句なしだ。


そして元プロダクション社長だけに愛想もいい。


弱小事務所だった当時は営業に苦戦していたそうだが、私と合流してからはほかのプロダクションとの距離感もよくなり、自然とテレビ局との付き合いも広く、そして深くなったそうで仕事の決定率も上がったらしい。


「古杉くん、今日は午後からミズホの現場に行くからオレは自分の車で追いかけるよ」


「えー! じゃあユキナもそっち乗る! ふるっちのクルマ、乗りにくくて嫌だー!」


古杉くんはクルマにこだわりがあって、今どき珍しいなにがなんでもスポーツセダン派。

どんな車でもいいけど車高が低い車がいいと言うので

高級車種のスポーツカーモデルにした。

ユキナは乗り降りのしにくさと車内の天井が低いことにいつもボヤいている。

乗り心地はいいんだけどな。


「ダメだよ。ちゃんと現場の打合せをしながら向かいなさい」


私の指示に従い渋々自分の移動車に向かうユキナ。


「ちぇーっ。ふるっちも背が高いのにしてよー!」

「いやいや。ユキナを安全に送迎するのがいちばんの仕事やからな。オレが乗りやすいクルマやないと!」

「タレントの気持ち!」

「安全第一!」

「あー、私のお菓子がなくなってる!!」

「車に食べ物は置いていかない約束! 食べられても文句なしって決めたやろ」

「ユキナをお仕事現場まで気持ちよく乗せるのが仕事でしょ!」


朝からやってんなあ。

もともと二人三脚でがんばってきたふたりだけにお互い遠慮なく本音で言い合えるのはいいよな。


「そのノリはまるで恋人だよ。よくて兄妹だな。ふたりの時にそれやったら完全にそう思われるからな」

「あ、すみませんつい!」

「ふるっちとなんてあり得ない!!!!」

「他人はあれこれ言うもんだ。とにかく気をつけるようにな」

「はい」

「はいはーい」 

「2回言うな」


そんなやりとりをしつつ、窮屈そうにユキナが車に乗り込むのを見て思う。

ふるっち、オレもその車は車高が低くてイマイチ苦手だぞ。


私のセコイアは仮眠も取れるようにしてあるし冷蔵庫があったりテレビも付いているからな。

私でもこっちに乗りたいと言うだろう。

それもめちゃくちゃいいクルマなんだけどなー。

めちゃくちゃ高かったし!

こればっかりは好みだよな。


2台で連なり出発する。

今日の現場は赤坂。

文京区からだと30分ほどで到着する。


テレビ局の駐車場につくとエレベーターホールにスタッフが待っていてくれた。


「ウミさん! おはようこざいます」

「おはようございます家野さん」

「相変わらず早く入るねー」

「なのに赤坂テレビのトッププロデューサー自らお迎えですか」

「なに言ってんの。当たり前だって。 こないだの件、そろそろ返事聞かせてもらわないと!」

「ですよね。このあと少し話しましょうか」


家野さんの話というのは再来年の日曜ドラマの主演の件だ。

話としてはもちろんありがたいのだが、すでに湾テレの月曜でオファーが来ていたのでちょっとややこしい。


とりあえずユキナをメイクルームに送り込んだら打合せだな。


控室に入る前にまずは現場にユキナと一緒に顔を出して全体に挨拶。

これはミズホたちにもやらせているルールだ。

もちろん指定された時間よりも余裕をもって現場に入るのは当然。

そのためにも仕事は詰め込まないように徹底している。


ユキナを預けてから家野プロデューサーとの密談に入る。


「で、ドラマなんですけどね、先にオファーを受けている作品があるんですよ。まだ決定は入れてませんけど早い遅いではなくて、持ち回りの順番的にも受けないといけない状況なんですよね。家野さんの特番あたりで収めてもらえませんか?」

「あー、その件はわかってるから大丈夫だよ。それは方便でね。ちょっと心配事を耳にしたからふたりで話したくてね」

「ん? なんでしょう」


秋野さんは声を潜めて耳打ちする。


「東テレの越上と揉めたって?」

「……耳が早いですね。昨日の話ですよ?」

「ミズホちゃんの案件だからな。トラブルの話は回るのも早いさ」

「東テレとは距離を取ることにしました」

「うん。それでいい。だけど越上がかなり話を違えて吹き回ってる。このままだと自分が責任取らされるからな」

「そんなの気にしませんよ」

「周りもそう思ってる。だからかなり追い詰められてるようだ。気をつけろってことだよ」


……この人はやっぱりいい人だな。

出版社の新人時代から面倒をみてもらった恩人だけどそれを武器にすることもなくいつもプレーンな付き合いをしてくれる。


義理人情の世界だ。

もっと私への貸しを仕事にしたらいいのにそれをしない。

大事にしなければいけない縁だと思ってる。


再来年の日曜ドラマは辞退しつつ、代わりに家野さんの好きなタイミングで特番ドラマを受けることを伝えて密談は終了した。


さて。

越上プロデューサーか。

確かに古株。それなりに面倒な相手だよな。

こっちに非はないとはいえ面倒にならなければいいのだけどな。



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