13 逆恨み
最初にトラブってしまったが、ユキナとミズホの今後の仕事については一旦セーブしていく方向でみんなの賛同を得ることができた。
よりいい仕事を選んで価値を上げたいという趣旨にマネージャーも賛同してくれた。
「ほかになにかあるか? お、じゃ、三花くん」
「所属アーティストのオーディション状況について報告します」
「9月末の締め切りでエントリーは締め切りました。
書類と音源の一次選考を進めてきましたが、二次審査に進めるメンバーを20人まで絞ったので確認をお願いします」
「うん、了解だ」
「最終的に10人にして公開合宿に参加するんだっけ」
「そうです!」
「楽しみだねー」
次に古杉くんから俳優オーディションの途中報告だ。
「こちらも9月末でエントリーは締め切りました。いま書類選考を終えて30人まで絞りました。引き続き選抜中です」
「これはテレビ局プロデューサーたちを招いた公開オーディションで最終決定だったな」
「はい、こちらも10名参加の想定です。なかなか面白い素材が集まってますよ!」
「それは楽しみだ」
「いい子が見つかるといいね!」
最後に、三花くんから湾テレの越上に関する緊急報告があがった。
「昨日の役員会議で越上氏の懲戒解雇が決定したそうです。直接的な理由は巨額の横領。明日記事になるようです」
「横領?」
「かなりの額の不正使用があったようっすね。前からマークされていたのが今回の件で表沙汰になったとか。ミズホとのトラブルは表に出ません」
「それはありがたいが……明確なトリガーだ。逆恨みはあり得るよな」
「はい、最大限の注意が必要かと。できれば当事者のミズホは外に出したくないのですが……厳しめの仕事があります」
ふむ。
【予知】が離れたミズホやユキナに有効とは確信できない。
「改めて明日からのふたりのスケジュールを見直して報告してくれるか。頼み込んで飛ばせるものはリスケするかもしれない」
「「はい!」」
古杉くんと三花くんがさっそくPCと携帯でスケジュール確認に入った。
「ユキナとミズホは単独行動は禁止だ。基本は私と一緒に行動すること。あるいは必ずマネージャーの誰かと一緒にいることを厳守してくれ」
「「はい!」」
古杉くんがノートPCを持ちながらこちらに来る。
「どうだ?」
「再来週はCMが1日あるのでそこはなんとか進めたいですが、あとは基本ドラマのみです。番宣は逃げますね。ドラマの撮影も余裕があるので1週間ならバラせなくもないかと」
「ロケは?」
「1日だけです」
「できれば全リスケだか最悪でもロケだけNGにしてもらうのでもいい。他局のスタジオに侵入は無理があると思いたいが……」
そこへ三花くんがやってくる。
「歌番組の収録は大半終わってますが、飛ばせないイレギュラーがひとつだけ。ミズホ、週末のフェスに出演します。大トリでチケット完売してます」
脳内に強めのアラートが鳴った。
どうやらここだな。
「古杉くん、改める。ユキナはオールオッケーだ。予定通りでいい。但しベタ付きで1秒もユキナから離れるな。着替えとトイレに同行できる女性の護衛をいつものところに発注しておいてくれ」
「はい!」
「三花くん、フェス以外の仕事はミズホもオールオッケーだ。同じくベタ付きで、女性の護衛も雇ってくれ」
「はい。フェスはどうしますか?」
「オレが直接話すよ。至急、フェスの主催とセッティングしてくれ。警察にも相談しようと思う」
「了解しました!」
―――――――
翌日、さっそくイベンターとの打合せが組まれた。
場所はイベントの放映権を持つ音楽配信チャンネル・フルフルの会議室だ。
出迎えてくれたのは配信チャンネルの親会社である汐テレビの旧知の編成マン、大谷さんだった。
「ウミさん、わざわざすみません」
「久しぶりです大谷さん。急な申し出にも関わらずお時間ありがとうございます」
「いえいえ、こちら今回のイベンターを務める掛川プロデューサーです」
軽くアラートが鳴る。
紹介されたのは長身で髪を伸ばしたサングラスの少々胡散臭い男性だった。
なんか絡んでるのかもな。
でもアラート反応は軽いよな。
軽いっていうか……なんかいつもと違う。
ちょっと気をつけたほうが良さそうだ。
「初めまして掛川さん。今日はありがとうございます」
「あー、よろしくお願いします。で、一体どうしたってんです?」
「まあまあとりあえずお座りください。ウミさんと三花さんはコーヒーでいいかな?」
「「ありがとうございます」」
コーヒーを待つ間、雑談をしていたが、掛川という男は終始無言で腕と足を組んだままだ。
こんなに分かりやすい態度、今どき珍しいやつだな。
自信過剰なのかもしれないが……実力がないとここまで強気な態度は取れないもんだ。
まあ嫌いじゃない。
なんか面白い感じしかしないぞ。
アラート大丈夫なのかこれ。
すぐにコーヒーが届き、ひと口飲んでから話を切り出す。
「お時間もあるようなのでそのまま申し上げますね。
実はミズホに脅迫がありました」
それを聞いた掛川が体を起こして前のめりになった。
「何ですって!?」
大谷さんがそれに続く。
「それは大変だ。どういう経緯です?」
「『フェスで狙われる』ということだけわかってます。警察にも話はあげてますので詳しい話は差し控えさせてください」
掛川さんがまず口を開いた。
「お話しできないのでしょうが……単なる嫌がらせではないと確信できる理由があるんですね?」
お、なかなか鋭いな。
「はい」
「……わかりました。ミズホさんの出演は無しで行きましょう」
「おいおい! ちょっと、掛川くん!」
「判断が早いですね」
「何かあったら取り返しがつかないじゃないですか! なんといってもミズホちゃんは日本の宝……いや、世界の、いやこの宇宙の宝なんですからね!」
そっち方向のアラートかーい!
掛川さん、ミズホの熱狂的なファンでした。
「こちらも未然に防ぐ方法があるならそれを模索したいと思っています。楽しみにしてくれている方の期待にも沿いたいですし」
「でもミズホちゃんに何かあったらどうするんですか!」
「最悪は出演キャンセルも考えますよ。でもそれは最後の手段です」
「ミズホちゃんがボクのコンテンツでケガをしたなんてことになったらボクは生きてられません!」
すごい熱量だな。
「……どうしてそこまでミズホを推してくれるんですか? 私は気にしませんから教えてもらえますか?」
掛川さんは大谷さんの顔色を見つつ、理由を説明してくれた。
聞けばデビュー前にサンプルを聴いた時からその才能に惚れ込んだとのこと。
この声の持ち主は必ず世界に通用するディーバになる! そう確信した掛川さんは自身の配信チャンネルはもちろんのこと、汐テレにも膨大な企画書を提案し続けたらしい。
あまりにその熱量がすごいので局から本人への接触はもちろん、ファンであることも開示するなとお達しが出ていたそうだ。
単なる見た目のファンじゃないし、売れてから乗っかってる業界人でもない。
容姿がわからないデモテープだけでここまでか……。
「そうだったんですね。……局の判断を否定するようで申し訳ないのですが、それは隠すことじゃなかったですね。私が最初に汐テレにレギュラーを持たせたのはあなたの企画がとても優れていたからです。他局からはゴールデン帯を含めて先を見越したオファーがいくつかありましたが、私は利益やメリット抜きであなたの企画を選んだんですよ」
それを聞いた掛川さんは人目もはばからず号泣した。
うん。強力なサポーターじゃんか!
あれはアラートじゃないな。
良縁を告げるサインだったんだな!




