オフの過ごし方
いつもの報告会も今日はトラブルもなかったのでスムーズに終了した。
今日は早く帰っていたミズホがごはんを作ってくれていた。
「じゃじゃーーん! ミズホシチューだよー!」
普段は暴走キャラのミズホだが実は家事全般、ソツなくこなす意外性を持っている。
というのもそれはユキナの影響だ。
ユキナはとにかく綺麗好き。
掃除も洗濯も洗い物もすべて完璧にこなす。
中でも料理の腕前はかなりのもので、もし私がユキナと芸能人として出会ってなければ間違いなく店を持たせていたと思う。
というより、結婚を申し入れていただろうな。
とりあえず年の差は置いておいて。
そもそも容姿端麗でスタイルも抜群。
なにより性格も素晴らしい。
そこにこの家庭力だぞ。
彼女の夫になれる人はどれだけの徳を積んだんだってくらいのラッキーマンだ。
で、同居をし始めてからそのことに私が気づいた。
工夫を凝らして作ってくれる手料理に感動して、毎食褒め倒していたらいつの間にかミズホが弟子入りしていた。
ちなみにシチューとカレーは私が教えた。
ルーから仕込むユキナとは違いこちらはよくある市販のルーを2種類混ぜて使う程度のものだが、レシピの2倍の野菜を入れることと、なるべく皮を剥かないのが好みだと伝えたらメキメキ腕を上げてなかなかのモノを作るようになった。
どちらもいつ嫁に出しても恥ずかしくない、というか誇らしい、というか悔しいから嫌だ。
ミズホシチューを頂きながら楽しく団らんしていると、ミズホが質問をしてきた。
「で、ふたりは明日どんなデートするのー?」
「そこはウミさん任せだよ」
「いやデートじゃないし。それにオレはなんにも考えてないぞ」
「ひどーい! 何カ月ぶりのデートだと思ってるのよ!」
「だからデートじゃないけどな。どこか行きたいところはないのか?」
「ウミさんと一緒ならどこでもいいよ」
確かに久しぶりのオフだもんな。
日帰りで楽しめるところだろ。
どこにしようかな。
「ユキナ、次から選んで。①蕎麦とサウナ、②ジビエとサウナ、③海鮮とサウナ」
「なんだー! 全部にサウナがついてるよ!」
「どれにする? ちなみにさらに全部にバーベキューが付いてくるぞ」
「なんですと! 全部行きたい」
「無理だぞ」
「じゃあ①から順番にする。いつか全部行く」
「オッケーだ。明日は蕎麦だな!」
「はい!」
「ミズホも次の休みは①から行くからねー!」
「わかったよ」
そして次の日。
3人で朝食を取り、ミズホを現場に送り出してから私たちも出発する。
着替えてきたユキナは――とんでもなく可愛かった。
薄手のニットの白ワンピースにダウン、足元はローカットのブーツ。
頭にはニットキャップ。
付けてるネックレスやイヤリングまですべて私が買ったものだな。
ちょっと嬉しいかも。
「うん。大事にしてくれてるんだな。ありがとう」
「えへへへ」
駐車場に向かうと助手席に乗ろうとするのでそれは止めた。
「え? 今日はデートだよ」
「安全な席に座らせるのはオン・オフ関係ないよ」
「えー」
「これは絶対の約束だからな」
「わかったよう」
渋々いつもの後部シートに乗り込む。
「今日は助手席に乗れると思ったのになあ」
「甘いなユキナ」
「引退するまでお預けかあ」
「引退してもだぞ?」
「なんでやねん!!」
「大事な人は安全なところだ」
言葉に詰まる。
「えへへ。ユキナは大事な人なのかあ」
「当たり前だよ」
「そうかあ。なら仕方ないねえ」
なにやら勘違いしているようだけど、前提は日本の大切な存在だからだぞ?
まあ面倒だからいいや。
クルマを走らせて1時間ほどで千葉の君津で高速を降りる。
この先、鴨川へ向かう途中に目的の蕎麦屋さんがあるのだ。
「鴨川かー。シャチも行くのかなあ」
「狙いはあくまで蕎麦だ」
「えーお蕎麦を食べにわざわざここまで?」
「それだけの価値があるんだよ。もう10年くらいは通ってるな」
「グルメなウミさんが遠くまで通う名店か! これは楽しみだなあ」
しぱらくしたら脇道に入りさらに奥の方へ進む。
曲がりくねった山道を走り続ける。
「ねえ本当にこんなところにお店があるの?」
「もう着くよ」
山道を抜けて少し開けた場所にでたら右手に古民家。
ここが私の行きつけの蕎麦屋だ。
「えー! すごーい! 素敵すぎる!」
「いい店ならどんなに遠くてもお客さんは通うんだよ。休日は行列だぞ。すぐ品切れ閉店になっちゃうしな」
「すごいね」
「今日は平日だしたぶん大丈夫だ」
並んでいる人も外にはいないようだ。
ちょうど一〜二回転して落ち着いた頃合いかな。
古民家の入口を開けると待っているお客さんがいた。
一組だけなので直に案内されるだろう。
隣に並んで座ってメニューを眺める。
「うわあ。メニューから雰囲気あるね。品数は厳選されてるなあ。どれがいいの?」
「蕎麦の前に必ず食べるのは手作り豆腐。粗塩で食べるんだけどめちゃくちゃ美味いぞ」
「もうそれ決定。蕎麦は?」
「まだ残っているならあらびきの太きり蕎麦。おかわりもするぞ」
「なら私もそうしようかなあ」
「普通のせいろ蕎麦も美味いぞ。違いがわかるからオススメだよ」
「迷うなあ」
そこへ店内と区切られた扉が開いて、前の組と一緒に私たちも案内された。
ちょうど席が空いて片付けていたところだったようだ。
「わあ、雰囲気あるね」
店内はテーブル席が5つで広くスペースを取った作りで
古民家らしい落ち着いた空間だ。
我々はひとつだけある奥の半個室に案内された。
席に着くと注文を取りにお店の方がやってくる。
「いらっしゃいませ。いつもありがとうございます」
「今日はウチのスタッフをデビューさせます」
「あらユキナちゃんだ! いつも社長が『早くユキナに食べさせたい』って言ってたのよ」
「えー! そうなんですか! 嬉しいなあ。今日は楽しみにしてます!」
「さ、注文はどうしましょうか。いつものはまだ充分ありますよ」
「よかった! おかわりも先に頼んじゃっていいですか?」
「もちろんです」
「じゃあ、お豆腐、天ぷら。蕎麦は太きり蕎麦を2つでそれぞれおわかりも。あとせいろ蕎麦もひとつ。せいろのお代わりはまたあとで決めます」
「はい、かしこまりました。お酒はどうされます?」
「もちろんお願いします」
「頃合いで呼んでおきますね」
「いつもありがとうございます」
お店の方が出ていくとユキナがツッコミまくる。
「ねえ、蕎麦頼みすぎじゃない!?」
「大丈夫。ユキナはたぶんせいろ蕎麦もおかわするぞ」
「そんなに食べられるかなあ。それにお酒!」
「いつも飲むよ。毎回運転代行を呼んでもらうんだ」
「頃合いで呼ぶってのはそれかあ」
「蕎麦には日本酒だよ」
すぐに手作り豆腐と瓶ビール、日本酒が届く。
お酒についてくる簡単なつまみが提供される。
「ユキナも一杯だけご同伴に預かるかなー」
「どうぞどうぞ」
ビールをそれぞれ注ぎあって乾杯。
お酒のつまみとお豆腐をいただく。
「ねえ! お豆腐! ヤバすぎる!」
「だろ!」
「これはすごいなあ」
そしてしばらくすると天ぷらと蕎麦が次々と届く。
「うわー、美味しそう!」
天ぷらは地元の食材をサクサクで。
蕎麦はもう言うまでもない。
推しの太ぎりはもちろんのこと、細い蕎麦も絶品だ。
もちろんユキナはおかわりしまくった。
売り切れ御免の太ぎりはあとのお客様のために最初に頼んだ分だけにして、せいろのおかわりを2回。
ま、美味しいからな!
デート(じゃないけど)はスタート良好だ。




