きっかけ
きっかけは何の触れもなく訪れた。
「カラーーーーーーーン」
突然、鐘の音が鳴り響いたと思ったら世界が止まっていた。
モノクロの世界。
すべてが静止していた。
――――
オレは藤沢 海。
小さなタレントプロダクション勤務の49歳だ。
ほかに出版社や編集プロダクションなど業界でいくつかの顧問も兼任していて、それなりにのんびり余裕のある生活をしている。
今日も事務所を兼ねた自宅のマンションで起きてコーヒーを飲んでいたところだった。
はずなのに。
――――
鐘の音の残響が響く中、これがこの世の終わりだと悟った。
知られていないだけで人はこうやって死を迎えるのだと。
いま普通にリビングにいたんだよな。
なんでこうなった?
隕石が落ちてきたのかもしれないな。
いや、そんな激しい音を聞いてない。
狙撃とか?
いや、日本でそれはないだろ。
業界人だけど暴露もしない真っ当な人間だし。
あーでもファンの妬みは買ってるかもなあ。
理由はわからないけど、ともあれ、即死だったのだろう。
49歳。
年相応に親しい人たちも見送ってきたし、自分の人生の終わり方についてたまには考えなくもなかった。
例えば病死とかなら――。
自分も周りも準備できる。
「もっとこうすればよかった」
「もっとこうしてあげればよかった」
未練はキリがないけど。
どちらも未練は残すだろうけど。
どうあれ。
残す者たちに想いを伝えられる。
送る者たちも想いを伝えられる。
謝罪も。感謝も。
事故死はそれができない。
残された人たちに圧倒的な無念を残す。
選べるならば、前者であってほしいと思ってた。
私にはなんとしても言葉を残さねばいけない相手がいた。
そのことを思うととても苦しくなる。
伝えられないが、願わくば。
どうか強く生きてほしい。
君たちのおかげで幸せな人生だったよ。
突然すぎてなんの実感もないが、それなりに充実したものだった。
だからといって悔いがないはずもない。
残した大切な人たちがこれからも幸せでいてほしいと願うことしかできない。
そうか。これが人生か。
でもまあ。
自分だけが動けないのではなくてよかったかな。
死には自分だけが置いていかれるイメージしかなかった。
死んでも世界は変わらず動いていくと思ってたけど。
自分の死と同時に、私にとっての世界は終わるのかもしれないな。
平気な顔で笑ってるのを見るのも寂しいが。
なにより、自分の死を心から嘆く者たちを見ることしかできないのは辛すぎるだろう。
意識は残っていても身体が動かない。
肉体が死んだだけで意識はあって周りのことはわかるのに伝える方法がないだけ。
いちばん恐れていた終わり方はそれだった。
火葬というものが少し怖かった。
かといって土葬も怖かった。
死というものは漏れなく全員に訪れるのに、正解が分からないのが不思議だった。
UFOを見たことがある。
しかも近所の人みんなで見たからあれは本物だった。
幽霊は見たことはないけれど、説明のつかない霊的な不思議な経験は何度かしたことがある。
どちらも言い訳のできない、紛れもない事実だった。
それらに遭遇するまでは、そんなことが起きたら夜も眠れず大騒ぎするだろうと思っていたけれど、実際に体験したら不思議とそうでもなかった。
だとして必ず訪れる死というものが何を指すのか、どういうものなのかが気になっていた。
かといって宗教には答えを求めなかった。
なぜなら。
UFOと霊は信じていても、神さまだけは信じていなかったからだ。
なのに。
目の前に、神がいた。
オレは――神と対峙していたのだった。
―――――――
わかりやすい神さまだった。
なんて言えばいいのかな。
白すぎるほどに白い服を着ている。
ふんわりとしたやつね。
顔立ちは整いすぎていてむしろ無個性。
それでいて明らかに美しい。
女性だと思うのだけど、もしかしたら男性ともいえる気がする。
さてどうするか。
声をかければいいのかな。
そう思っていたら向こうから声をかけてくれた。
『やあ。えらく考え込んでいたね』
澄みきった優しい声。
でも威厳がある声だ。
「……ええ。どうしたものかと」
『キミはまだ死んでないよ」
「え?」
油断したな。
とんでもない展開だそこれは。
『実はね、キミにお願いがあって呼んだんだ』
何を言ってるかわからないな。
お願いごと? 呼ばれた?
なんだこれは?
この人が神さまなのはわかる。
たぶん間違いない。
『混乱させてしまったね』
「えーと。神さま、ですよね?」
『そうだよ。よくわかったね』
「この流れなら誰でもわかるんじゃないですかね」
『名乗ってないのに。悪魔とかかもしれないよ?』
「そうなんですか?」
『いや神だけどね』
うーん。何のやりとりだこれは。
『とりあえず、お願いごとを頼んでいいかな』
「えーと。それは断わってもいいやつですか?」
『あー、そうくるか。それは困るな。でもどうしても嫌なら仕方ないけどさ』
「その場合どうなります?」
『君が? 世界が?』
「え?」
『?』
「世界?」
『うん』
「私が頼みを断ると世界がどうこうなるってことです?」
『そうだよ』
ちょっと待て。
なんかイメージ変わってきたな。
これ、もしかしてだけど。
異世界転生的なやつか。
『お、そうそう! そんな感じだよ』
「うわ、心読まれてるし」
『神だからね』
「止めてくださいよ」
『でさ、悪いんだけどあんまり時間ないんだ。話を進めてもいいかな』
「時間制限あるんですか?」
『あるんだよなそれが』
「ツッコミどころ多いなあ」
『神にもいろいろあるんだよね』
「じゃあまあ、どうぞ」
神さまはひと息おいてからはっきりと言った。
『ちょっとこの世界を救ってもらえないかな』
新作です。
こんどは独立した話にしたいと思ってたのですが、デビュー作と、それに繋がった2作目が気に入りすぎて、また同じ世界線にしました。
3部作ってことになります。
2作目同様に前作、前々作を読まなくても楽しんでいただけるように努力しますので、ぜひお読みいただけたら嬉しいです!
【第1作】
ゾンビが交ざる新世界までのカウントダウン 〜業界人が気まぐれな神からもらったチート能力で無双しながら現実世界を救う物語
https://ncode.syosetu.com/n0717kl/
【第2作】
時空の狭間に落ちたら迷子の女神がいた〜神も超えたチート能力で芸能界とバスケ、野球を完全無双。タイムリープにモンスター退治までなんでもこなす神さま代行屋の物語
https://ncode.syosetu.com/n2453kq/




