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第9話 夏の制服。

「暑苦しいわよね?アメリー?」

「そうですね。」


初夏。

ララ食堂にエールを飲みに来ている兵士や近衛の皆さんは、上着が暑いのだろう、みな椅子の背に上着をかけている。それでも…まあ、汗臭いというか、熱気むんむんというか…暑苦しい。


この方たちの制服は、もちろん非常時にその体を守るために、厚めのウールで作られている。それはわかる。その必要性は理解できる。が…着ている人たちも暑かろう。

見ているだけでも暑いのだから。


稽古中とかはさすがに上着は脱いでいるらしいが、

出勤時と退出時は制服をきちんと、しかも一番上のボタンまで締める必要がある。


腕まくりしたシャツから覗く筋肉が…と言っていたお嬢さまも、さすがに暑苦しく感じるらしい。


窓は全開。夏の時期は外にもテーブルが作ってある。

それでも…たくさんの筋肉集団…暑苦しい。


「なんとかして、この方たちの制服人生を救って差し上げなければね!」


お嬢様が鼻を、ふんすっ、と鳴らして息巻く。

大好きな兵と近衛の(制服姿の)ため、何か考えているようです。夏休みですしね。


しばらくすると、ロイク家から、お嬢さまの兄上様がひょっこり訪ねていらっしゃいました。相変わらず熊です。私をじっと見てから、ぺこりと頭を下げました。

(……なにかしら?)


熊男は、普通に、今までそうしていたからそうしている、といった感じでララ食堂の皿を洗っている。おかみさんも気にしていないみたいで、なんか…私だけがソワソワする。おかしいでしょう?おかしくない?なんでみんな当たり前みたいにするのよ?この人は子爵家の嫡男よ?今、下宿もしてないし。


夜は兄妹お二人でお嬢様の部屋にこもって、といっても暑いのでドアも窓も全開ですが…うふふふふっ、とお嬢様の笑い声が漏れ聞こえて…気になって眠れない…かと思いましたが、熟睡してしまいました。熊男は台所に寝ると言っていた。


朝、いい匂いがして目が覚めると、小さい台所で熊男がみんなの朝食を作っていた。

料理できるんだ…貴族の嫡男なのに…。

残り物野菜を使ったスープと、オムレツと焼き立てパンケーキ。しかも美味しかった。


私とお嬢様の日ごろの朝食はパンの生野菜サンドが精いっぱいだったことを考えると…良いお嫁さんになれそうね。熊だけど。


そして昼間はアカデミアの研究室に出かけ、夜になると、来る日も来る日も、ララ食堂の皿を洗いに来る熊男。

時々、視線を感じて振り向くと、熊男が目をそらし…た、気がしたけど気のせいか?


(…いい年して、ウサギのアップリケのついた制服なんか着て…とか思っているのかしら?)


2週間ほどして熊男、あ、お嬢さまの兄上はお帰りになり、部屋はほんの少し広く感じるようになり、お嬢さまと私の朝食はパンと生野菜生活に戻った。



「今回の訪問は何だったんですか?」

「夏の制服よ。」

「はい?」


突然来て、帰っていった熊男、のことをお嬢さまに聞いてみた。


「夏は暑いし、冬は寒いでしょ?学院でさえ、夏はベストにスカートやスラックスになる。一番暑い頃は夏休みだしね。じゃあ、兵の皆さんだって、非常時と公式行事以外は夏服があってもいいと思わない?交代で休むにしても真夏の勤務もあるし。そ・こ・で!」

「そこで?」

「夏用の制服よ!」


(ああ。ないなら作る、ってことですね?さすがロイク家。)


「ベストにすればいいのでは?」

「そうよね~。問題は生地よ。その生地自体を通気性の良い、吸湿性の良いものにすればいいと思わない?しかも丈夫で。もちろん機能性も、見た目も大事!ここ、大事!」

「ええ。まあ。」

「そこで!お兄様が上京したわけなのよ!お兄様も王都での生活で、夏用の生地の丈夫なものがあればって、思っていたんですって!」


うんうん、と腕組みしてお嬢さまが深く納得している。


(…この兄妹は…なるほど、ロイク家!)

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