第8話 食堂の制服。
ララ食堂は、相変わらず大繁盛だ。
おかみさんの姪っ子も手伝いに来ている。
お嬢様も上機嫌で、夕方からの仕事に精を出されている。
今日はお嬢様の叔母さまから荷物が届いていた。
箱を開けるお嬢様の手元を覗いたら、どうも、使わなくなった侍女服らしい。
「どうするんですか?その服?」
「まあ、見ててよ。」
シンプルな形の襟無しの侍女服。ザックザックとスカートを短く切り、猛スピードで纏り縫いをしていく。スカートの裾に、あらかじめ作っておいたらしい、大きな茶色のウサギのアップリケを縫い付けて…私がお嬢様にリクエストされて作ったレースの替え襟を縫い込む。
「できた~!」
紺地の地味な侍女服が、どうしたことでしょう!カワイイ女給さんのドレスに生まれ変わりました!ペチコートの下のレース部分だけがチラ見え。
「ふむふむ、可愛いですね。おかみさんの姪御さんなら似合いそうですね。あの子は13歳ぐらいですか?」
「あら、アメリー、あなたの分も作るわよ?」
これを…ですか?
しかも、足が…ひざ下…出てしまいますが??しかも…かわいいウサギは…23歳の私にはキツく無いですか??
ふんふんっ、と鼻歌を歌いながら、お嬢さまはスピードを落とさずに、その夜のうちに3着きっちり仕上げた。
「さ、恥ずかしがらずに着て頂戴、アメリー。」
翌日のララ食堂への出勤前。お嬢さまは渋る私をせかせて…仕方がないから制服に袖を通す。
紺地に白いレースの襟。ひざ丈のスカートにはかわいい白いウサギがくっついている。エプロンはウサギが隠れないくらいの絶妙な短さ。袖はパフスリーブ。髪型は引き続きツインテール。
「あ、かわいい…」
「でしょう?似合うわ!アメリーは元が綺麗だから何を着ても似合うわね!」
「いや、はあ、ありがとうございます。でも、これ、スカートが短すぎませんか?」
「いい、アメリー。これはララ食堂の制服よ。恥ずかしくなんかないわ。制服を着ることによって、一体感が生まれるのよ!」
「…はあ。」
この子…いえ、お嬢さまは、制服を堪能するのに飽き足らず、自分で生み出してしまったわよ…。
【ジュリアン様
クロエお嬢様は、学院で保健委員になったそうです。
入学式に見た医務官の制服姿がそうさせたと思われます。
学院のご自分の制服は(おさがりですが)気に入ったようですが、男子生徒の制服は上着にネクタイなので新鮮味がないと、興味を示されませんでした。
詰襟の制服見たさに、騎士養成学校を志そうかと思っていらしたみたいですが、それはご遠慮いただきました。
今は、下宿先のララ食堂の女給用の制服を自ら作成され、おかげさまで大評判です。
底知れぬ…制服愛を感じます。
とりあえず、ご報告まで。】
アメリーは自室で雇い主への手紙、というか、報告書をかきあげて、伸びをする。
今日もよく働いた。
お嬢様の授業中は、本を読んだり、レース編みをしたり。控室にいる侍女同士でお茶をしたり。昼間が自由時間のようなものである。
お嬢様はこれまでの5年間で淑女教育も徹底したし、勉強もかなり進んでいる。
ああ見えて、ダンスも上手だ。
学院生活で、ジュリアン様の婚約者、ということでいじめられたりしないか心配したが、入学式の時に倒れた子を背負って医務室に運んだことで、一目置かれているらしい。(これは他の侍女さんに聞いた)
私的に倒れた子は女の子だと思い込んでいたら、ガタイの良い男の子らしい。その子をひょいと背負って走り出したので、皆驚いたらしい。さすがお嬢様だ。
その子をはじめとして、結構な数の男子生徒に声を掛けられているようだが…(多分制服に興味がないので)お嬢さまはまったく興味がないらしいな。面白い方だ。
いや…そこは、婚約者がいますから!でしょう!




