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第5話 損して得取れ。

「出来たわ、アメリー。これが起死回生の一打よ!」


翌朝、お嬢さまが私に見せてくれたのは、


【なんでも飲み物一杯無料券 飲み食い処 ララ食堂】

裏にはウサギのスタンプが押してある。偽造防止らしい。


昨日夜遅くまで作っていたのは…これ?


「最初は手書きにしようかと思ったんだけどね、面倒くさくなったからハンコを彫ったのよ。紙は丁度良く、お兄様が模型を作るための厚紙が残してあってね。」


確かに…文字もウサギもハンコみたいだ。


「さて、おかみさんに了解を取って、無料券を配りに行きましょう!食堂の料理は美味しいんだから、すぐに客足は戻るわね!損して得取れ!ですよ。」


渋るおかみさんを説得して、お嬢さまが今までの客層を聞き出している。

「王城の兵士の皆さんや、近衛の方が多いかしらね。うちはほら、値段の割に食事の量が多いから。」

「なるほど!じゃあまず、その辺から行ってみますね!」


一度部屋に戻って、お嬢さまが自分の三つ編みの髪をほどいて、ツインテールにしている。私もツインテールにされた。券を配りやすいように、カワイイ系で攻めよう、ということらしい。いやあ…私はもう、23歳なんだけどね?少し恥ずかしいんですけど…。


「食堂の制服があればよかったなあ…作るか。まあ、とりあえず、一番明るい色のワンピースを着て、エプロンして、行きましょう!アメリー!」


王城近くの路上で、出勤途中の人たちに、にっこり笑って無料券を配りまくる。

「ララ食堂で~す。よろしくお願いしま~す!」

小さな編み籠に入れた、お嬢さまが用意した200枚ほどの無料券は、小一時間でなくなった。

翌日も、その翌日も、微妙に時間帯を替えて、きっちり200枚づつ配った。

昨日貰えなかったから、とわざわざ取りに来てくれた人もいた。


さて…600枚も配ったわよ??お嬢さま、大丈夫ですか??


配り始めた当日の夜から、ララ食堂は混み始めた。

皆、手に手に【一杯無料券】を持っているので、正直ひやひやした。この店、つぶれちゃうんじゃないかしら?そう思ったのは私だけではないと思う。


開けてみると…お酒やジュース一杯だけ飲んで帰る人はおらず、お替りしたり、つまみやご飯を食べる。一杯無料券でちょっと得した気分で帰る。


これが、お嬢さまの言っていた、損して得取れ、ですね。


さらにお嬢さまがハンコを作って作成したのは【来てくれてありがとう!スタンプ10個で飲み物一杯無料】のスタンプカード。お会計の時に、ウサギのスタンプをおかみさんに押してもらえる。書いてある通り、ウサギスタンプを10個ためると、また飲み物が一杯無料になる。お昼ご飯も有効である。


「最高ね、アメリー。」

満席の店内を見て、顔を赤らめて満面の笑みのクロエお嬢様。さすがです、とほめようとしたら…。


「制服が…いっぱいで立ち眩みしそうだわ。」






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