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第4話 下宿先。

「きゃあ!見て見てアメリー!可愛らしい制服ね。まさか自分がこちら側の人間になれるなんて!」


お嬢様が叔母様の家の従姉から頂いた貴族用の学院の制服を着て、大きな姿見がないので、窓ガラスに映して自分の制服姿を堪能している。紺色のジャケットに赤のチェックのスカート。この制服は私が通っていた頃から変わらない。黒い靴も指定なのだが、少し大きかったらしく余り切れを詰め込んでいる。


…まあ、いわゆる、おさがり、というやつである。



ジュリアン様のモルガン伯爵家から十分すぎるほどの婚約支度金が入っているはずだが、そっくり、手つかずのままらしい。

婚約が結ばれてから早5年。それでも、何かの間違いだろうからとロイク子爵家の皆様はいつでも支度金を返せるように、と一銭も使っていない。


お嬢様の学院に通うための宿も、モルガン伯爵家で申し出をしてくださったが、社会勉強をしたいので、とお断りされていた。

今の今までクロエお嬢様のお兄様が住んでいた食堂の裏の小さな一軒家。食堂でアルバイトをすると、家賃が免除になるらしい。小遣いも貰える。


そのお兄様に入れ違いにご挨拶だけさせていただいたが、ぼさぼさの黒髪にぼさぼさの髭。卒業論文が佳境に入って、そのままだったらしい。専攻は機械工学?らしい。

私がわかったのは…クロエ様と同じ黒髪に緑の瞳なのね、というくらい。年齢も24歳と聞いてはいたが見た感じは年齢不詳に見える。お嬢さまとは9つ違いね。


「妹をよろしくお願いします。」

ちらりと私を見て、ボソッとそう言って、お嬢さまの荷物を下ろした子爵家の馬車に必要な荷物だけ積んで帰って行かれた。


「お兄様はね、きちんとなさるといい男なんですよ?あまり気にしない人で困りましたが。」

…お前が言うか?

アメリーは出かかった言葉を、飲み込んだ。


部屋はあの熊のような男が生息していたとは思えないほど綺麗だった。

床が抜けるんじゃないかと思えるほど、本が積んであるけど。


小さな台所と、部屋が二つ。

お嬢様はベッドのある部屋を私に明け渡してくださって、自分は本だらけの部屋に嬉々として入っていった。後で様子を伺いに行って見ると、荷物を詰め込んできたリンゴ用の木箱を並べて即席のベッドが出来上がっていた。恐るべしロイク家の血筋。


よく見ると、その部屋の本棚だと思っていた棚も…多分リンゴ箱。あの熊も間違いなく、ロイク家の血筋ね。


食事は夕食は大家さんに当たる隣の食堂で食べれるらしい。



「さて、働きますか。」


制服を脱いで、ハンガーにつるして壁に掛けたお嬢さまが、着替えた普段着の上にエプロンをしている。


「え?今日からですか?」

「え?だって、働かざる者食うべからず、って言うでしょう?アメリーは本業があるんだから、休んでて!」


いやいや。私の本業は、お嬢さまを守ることですから、そんなわけにもいきません。


二人で張り切って食堂に向かうが…思ったより暇そうだ。

「あらまあ、今日ぐらい休んでくれてよかったのよ?近くに新装開店した居酒屋ができてねえ…落ち着くまでは暇かもねぇ。うちも食堂とはいえ、お酒も出していたからねえ。」

食堂のおかみさんが、がらがらの店内を見てため息をつく。

お嬢様と2人で店のテーブルで晩御飯を頂いた。量も多く美味しかった。

こうして私たちのアルバイト初日は終了になった。


「お酒、ねえ…居酒屋、かあ…」

ぶつぶつ言うお嬢様。

「儲かってもらえないとねぇ…生死にかかわるわよね。」


それは…大げさじゃないですか?確かに、住むところも小遣いも当てにはしてきたようですが。


その日、夜遅くまで、お嬢さまの部屋の明かりはついたままだった。



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