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第3話 ロイク子爵領。

私、アメリーはモルガン伯爵家、というよりは、今はジュリアン様個人に雇われている。私自身は…まあ…よくあることだが、いわゆる没落令嬢だ。爵位は伯爵家だった。


ロイク子爵家にお邪魔するようになってから、こんな生き方もあったのかと、驚いた。まあ、よく言えば質素倹約。ほしいものは作る。野菜でも家具でも、何でも作っている。壊れたら、直す。必要じゃないものは持たない、買わない。

麻を育てて、生地を織り、羊を育てて毛糸を取る。


屋敷の皆さんは私のことを、一人、娘が増えたようにかわいがってくださる。

私は当たり前のように畑仕事に駆り出され、使用人にもかかわらず食事を一緒に取り、みんなと繕い物をしたり、織物を習ったり、領内の学校で勉強を教えたりもしている。


ロイク家の跡取り息子は、アカデミアに通う勤労学生らしいが、旅費がもったいないので、ここ数年帰ってきていないらしい。



当主家がそんな感じなので、領民もそんな感じだ。皆、働き者だ。

特産品らしい特産品もないが、定番の椅子と机。なんの装飾も奇をてらうこともない、なんてことはないそれが、丈夫で長持ちすると人気らしい。私的には…もっと販路も拡大できるし、商品価値を宣伝すればいいのに、とも思うが…まあ、あまり欲はないのかな。

もともと、領内の子供に開かれた学校用に作っていたもの。この領は、さほど裕福でもないのに、教育水準は高い。驚くことに、ほとんどの領民が読み書きできる。


私の家は…没落して平民に身を落としてもなお、両親は贅沢が抜けなかった。跡取りだった兄はさっさと出奔し、当時婚約していた侯爵家令息は雲行きが怪しくなると迷いもせずに婚約を解消して来た。私はしかたなくメイドとして働いて、給金のほとんどを親に仕送りしても足りないと催促が来る。そんな生活だった。

ジュリアン様が個人的に雇い入れてくださって、名前も変えた。仕送りもやめようと思っていたが…細々と続けている。親に連絡先は教えていない。


ロイク家を見ていると思う。

うちの親も、もう少し領民のこととか…考えられなかったかな。

まあ、お嬢さま生活していた頃の私も贅沢三昧だった。そんなこと考えたわけじゃないから責められないか。

…それにしても…生きていく上で必要なものは、そんなにたくさんないんだな、とここに来て生活してみて思った。

新しいドレスや、流行の髪飾りや、季節に合った色目の靴…あの子より大きな宝石…どうしても欲しい、と、思っていた自分……。



クロエお嬢様は、自分用に割り当てられた畑で、イチゴとブルーベリーを作っている。リンゴも作りたかったようだが、苗木を育てるのが難しかったらしい。今は棚を作って、ブドウを栽培する気らしい。ある意味…欲望の赴くまま、だな。面白い人だ。


ここでの私の仕事は、来るべき日まで、クロエお嬢様を貴婦人に仕上げて、その身を守り…月に2通ほど手紙で、クロエ様のご様子をジュリアン様に報告すること。ありのまま報告しろ、と言われているので、そのまま書く。



【本日のクロエ様は、新しいコック長のコックコート姿に身もだえされておりました。】




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