第2話 こんなお嬢様でも実は婚約者がいます。
こんな変わり者のお嬢様ですが、実は婚約者が既にいます。
お嬢様が10歳の時、どんな手を使ったのか、お嬢さまの叔母さまが、モルガン伯爵家のお茶会の招待状を手に入れてきたらしいな。
「いい?クロエ?今回のお茶会は、モルガン伯爵家次男のジュリアン様の婚約者を決めるお茶会なんです!次男とはいえ、来年から王太子殿下に付いて隣国に留学に行く実力者です。将来の国王陛下の側近。しかも、剣の実力もあって、近衛師団からもお声が掛かるくらいの腕前!逃す手はありませんわよ!」
まあ、これは後でお嬢さまに聞いたんだが、かなり力が入っていたらしい。叔母さんが。
まあ、とにかく、お嬢さまも一番いいドレスを着せられて、参戦させられたようだが…何分、お嬢さまの叔母さまに限らず、皆狙っているいいポジションなわけで、しかも、ジュリアン様はその頃14歳だったが、容姿端麗、品行方正、質実剛健…まあ、いい男だったわけだ。しかも将来有望。
王子妃を狙えばよかろう?と思うようなご令嬢方まで参戦していた。
当然、クロエお嬢様はとりあえず秒で挨拶だけは出来たらしいが…ドレスの波に押し出されて、ぽつんとはぐれ猿のようになってしまったらしい。
「仕方がないから、」
どなたも近づかないテーブルの出されていたお菓子を堪能し、伯爵家の給仕係の濃い緑色の制服に歓喜し…挨拶に来てくれていたパティシエの白に緑のラインの入った制服姿によだれをこぼし…。にぎやかなご令嬢方の喧騒から離れて、使用人の皆さんとまったりと楽しい時間を過ごしたらしい。
「お嬢様?イチゴのケーキは召し上がらないので?イチゴが苦手でしたか?」
「いえ。イチゴの旬は6月でしょう?この秋にこのような大きなイチゴは高価でしょうから、他のお嬢さま方にどうぞ。私は小さい子爵家ですから、身の程以上の贅沢はするなと、おばあさまに言われておりますし。私は6月になったら自分の畑でお腹いっぱい食べれますから。うふふっ。」
うっとりと制服姿のパティシエを眺めながら言ったに違いない。まあ確かに、時期を大きく外れたイチゴなど異常なほど高いはずだ。高位なご令嬢方は誰も気にしないだろうが。
なかなか行けない王都で、馬車の窓にしがみつきながら様々な制服姿を堪能し、無事に帰ってきたお嬢さまを追いかけるように…ジュリアン様との婚約の書類を持ってロイク子爵家にお邪魔することになったのはこの私、アメリーです。
「え?なぜですか?」
ご家族そろってぽかんと口を開けて私を見ておられます。
はい、口には出しませんが、私もそう思います。
「ジュリアン様、直々のご希望でございます。私は本日から、お嬢さまの教育係、兼、侍女、兼、護衛としてお側に控えさせていただきます。私のお給金はジュリアン様から支払われますので、ご心配なく。部屋だけはお願いしてもよろしいでしょうか?」
「え?」
「取り急ぎ、こちらの書類に家長様のサインと、はい、その下に、クロエ様のサインを。はい。これで整いましたね。」
こうして、私のロイク子爵家での生活が始まったのでございます。




