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第15話 大舞踏会。

大舞踏会の入場は位の高い順から。

モルガン伯爵家は伯爵家では一番初めに呼ばれるので、皆さん、会場に入った。

今日のお嬢さまは、ブルーと白のふんわりとしたドレス。髪飾りもサファイアのお花。ジュリアン様は王太子殿下に付きそうらしく、同行なされないので、モルガン伯爵夫妻に挟まれて出席。御嫡男殿ご夫婦もご一緒だ。


控室の椅子に座って、熊男を待つ。


「あらあ、アドリエンヌ嬢ではなくて?ずいぶんお久しぶりですこと。」

「……」


一番隅っこに、目立たないようにと座ったつもりだったが、真っ赤な派手なドレスのご婦人に絡まれてしまった。その方のご友人も一緒のようだ。


「まさか、社交界に返り咲き?その年で?」

「あらあら、旦那様でも探しに来た?後妻の座とか?あはははっ。」

「やだ、仕立ての良いドレス着てるじゃないの?もう、誰かの愛人なんじゃない?」

「昔から、お綺麗ですものねぇ。」


油断した。


学院の控室でも知り合いに合わなかったし、ロイク家はもとより、モルガン伯爵家でも、私の事情を知っていてもそしりを受けることがなかったから。なんて能天気になっていたんだろう。


私を取り囲んだのは、学院時代の顔見知り。座っている他の方々も扇子の奥でせせら笑っている。


「貴女みたいな方が来るところじゃないのよ?」

「メイドしてたんでしょ?仕事先で手籠めにされちゃった?あはははっ。美人はお得よね。」


ぎゅっとロンググローブをした手を握りこむ。

帰ろう。そう思って、椅子から立ち上がろうとしたときに、息を切らして走りこんできた青年がいた。


「ごめんね、アメリー、待たせたね。思ったより時間がかかってしまって。」

「……」

「ご、ごめんね。心細かった?」

「……」


その青年が控室に入ってきてから、ご婦人方も、連れのご令嬢方も、顔を赤らめてざわざわしている。

「んまあ、どなた?」

「こんな素敵な殿方、見たら忘れないもの。舞踏会では初めてお会いしましたわ。」


黒のジャケットに銀糸の刺繍。タイは紫と白のストライプの棒タイを結んでいる。緑の瞳に、きちんと刈り込まれた黒髪はかきあげられ…髭もない。あなたまさか…熊男?


「さあ行こう。大丈夫?」

そう言いながら差し伸べてきた手に手を載せると、ひょいっと引かれて、私の腰に手を回した。

「僕のカワイイ子ウサギちゃん。今日も綺麗だ。」

天然なのかしら?聞いて恥ずかしくなるようなセリフを耳元で言ってのけた。


熊男はギャラリーに目もくれずに、ざわついたままの控室を出た。


「え…と、聞いてたんでしょう?」


変装した熊男にエスコートされながら、小声で問いかける。


「あの不愉快な会話のこと。」

「…私も、向こう側にいたのよね。言われても仕方ないの。言われている方はこんな感じだったのね、って思ったわ。呆れたでしょう?社交の裏側なんて、あんなものよね。」

精一杯顎を上げる。みじめで泣きそうだ。

「今のアメリーは違うでしょう?」

「…あなたに何がわかるのよ。」


大ホールまで、熊男と回廊を並んで歩く。あの控室を抜け出せてほっとしたが…そもそもあの人たちが言っていた通り、ここは私が来ていい場所じゃない。


「私、もう…帰りたいわ。」


「アメリー?じゃあ、帰ろう。」

「あなたは行ってきなさいよ。商談があるんでしょう?一人で帰るわ。付き合ってあげれなくてごめんなさい。ドレスまであつらえてくれたのに。後で返すわね。」


やっとのことで笑って謝る。油断したら…自分が情けなくて泣きそう。

もう…下宿先に帰って、お酒でも飲んで眠ろう。そう思った。私には他に行くところもないし。


お嬢様が嫁がれたら?仕事はどうなるのかな?

いっそ、ロイク家に雇ってもらおうかな、メイドでも下働きでも良いから。楽しかったなあ、ロイク家の生活。何なら、畑仕事でもいい。無理か?無理よネ…後見人もいないし。


「ああ、君、モルガン伯爵に言伝してくれないか?パトリス・ロイクは連れの具合が悪くて帰ったと。」

熊男が係りの男を捕まえて、伝言を頼んでいる。


熊男は私の手を握ったまま踵を返して、出口に向かう。

クロークで預けていたコートを出して羽織らせてくれてた。


「さあ、帰ろう。アメリー。」

「ちょっ、あなたね!私のことより、大事なことを優先しなさいよ!」

「…泣いている君より大事なものなんてない。」


「は?バカなの?」


「うん。」


「は?」


熊男は私に羽織らせたウサギのファーのオーバーの大きな飾りボタンを締めてくれながら…


「アメリー、君にひとめぼれだったんだ。君を泣かせるようなことはしないから結婚してほしいと今日告白するつもりだったのに、もう、僕が遅刻して、君を泣かせてしまった。」

「バカじゃないの?私はね、没落貴族の娘なのよ?平民よ?あの人たちが言ってたようにメイドもしてたわ!」


「うん。母にみんな聞いていた。アメリーに社交界は優しくないだろうから、「連れて行きたいなら一時も離れるな」とくぎを刺されていたのに……。ごめんね。」


「もう…私には…帰るところもないのよ!」


「じゃあ、僕と作ればいい。君の帰る場所を。ね?」


「…え?な、何言ってるの?」


「うちの家訓なんだ。どうしても欲しいものは、自分で作るんだよ?アメリー、僕と作ろう?」












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