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第12話 ジュリアン。

珍しく、くすくすっ、と笑い声が聞こえる。

今日、ジュリアンのところに国元から郵便物が転送されてきたから、恋文でも来たのかな?

ブリアック殿下はついもらい笑いをしながら、お茶を飲む。


「なに?ジュリアン。新しい恋人からの手紙?」

「殿下…人聞きの悪い言い方はおやめください。これでも僕は婚約者一筋なんです。」


執務机に向かいながら、ジュリアンがにやけながら抗議の声をあげる。

いやいや。僕の読みでは女の子たちの攻撃や、親が婚約者を決めろとお茶会だのパーティーだのをやたら開催するのに出るのがめんどくさいから、とりあえず無難な子を婚約者に据えたようにしか見えなかったけど。


「いやいや、どこに行っても女の子に囲まれているお前がそう言ってもなあ。」

「殿下に言われたくはございません。」


しれっとそう言うジュリアンは私の小さいころから側にいる。モルガン伯爵家の次男。今は隣国に留学中だが、護衛兼務で付いてきてくれている。もちろん、学校も一緒だ。ゆくゆくは私の側近になる。信用のおける、優秀な男だ。


「婚約者に僕のところから侍女を付けましてね。その侍女が定期的に様子を書いて送ってくれるんですよ。ご覧になりますか?」


どれどれ、と、手紙を覗き込む。


【本日のクロエ様は、新しいコック長のコックコート姿に身もだえされておりました。】


どんな楽しいことが書かれているのか、と、期待したが…期待の斜め上だった。


「お前の婚約者…大丈夫なのか?」

「ええ。多分。つけた侍女がとても優秀なので。ただ、クロエ本人もそのご家族も、いまだにこの婚約が何かの間違いだと思っているようですがね。うふふっ。」


よくよく話を聞いてみると…婚約者を選ぶお茶会で、クロエというお嬢さんはジュリアンに見向きもせずに、使用人との親睦を深めて、お菓子を食べて帰ったらしい。


「秋のお茶会だったんですがね、何でも食べたのに、イチゴは食べなかったんですよ。」


決め手はそこ?だったらしい。こいつの基準もよくわからない。


「本当に欲しいものは、自分で作るらしい。面白い子でしょう?」



面白いかどうかで婚約を決めていいかどうかは微妙なところだがな…。


いつも厳めしい顔のジュリアンをこんなに笑わせてくれる子は、意外と大物なのかもな。


「ところで、その婚約者からは手紙は来ないのか?」

「え?…来てますよ。ちゃんと。」


どうしたことか急に渋るジュリアンに、婚約者からの手紙を無理やり見せてもらう。


【元気でやっています。】




え?これだけ?

相手は女泣かせと噂されるいい男の、ジュリアン、だよ?

お婿さんにしたい男性ナンバーワン、だよ?



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