第1話 制服フェチ令嬢。
「ねえねえ、アメリー、今度の料理長は素敵よねえ。」
屋敷の勝手口の植え込みに隠れて、下働きの子と一緒に生ごみを出している料理長を、ここのお嬢さまのクロエ様がうっとりと眺める。
…料理長が?ねえ…
40ちょっとくらいのお屋敷の新しい料理長は、真新しいコックコートに身を包み、にこやかにゴミ出しをしている。料理長と言っても、このロイク子爵家には料理人はこの料理長と下働きの子だけだ。
チラリとみると、呆けたように眺めていたお嬢さまがため息までついている。
「あの、折り目の残る真っ白のコックコート…素敵…。」
私は知っている。このお嬢さま、町で私服の料理長に挨拶されたら気が付かない。多分。以前にも何回かあった。
あれはまだ、お嬢さまが12歳のころ、その当時惚れこんでいた護衛騎士の方が非番で、お買い物中のお嬢さまとばったり会った。にっこり笑って挨拶されたが…お嬢様本人としては制服姿と私服のギャップにくじけたらしく…いや、まあ、普通の格好だったけどね、どうも私服のシャツが赤紫色だったことがショックだったらしい。
「…赤紫…無いわ…。」
みんながみんな、休日も制服を着ているわけではないことは理解されているようだが…何分、ギャップは確かにあるわね。
制服だときりっと見えていた人が、私服だと意外なほどラフだったり。許してやれよ、と、アメリーは心の中で思う。
郵便配達員、警邏中の警備兵、うちのコック、うちの護衛騎士…
そう、うちのお嬢さまは、小さいころから病的に制服好き。
「…制服って、着ているだけで、5割増し。」
そう言うお嬢様。言い換えれば…脱いでしまったら、5割減?
お嬢様の侍女兼護衛を務めるアメリーは今日もため息をつく。




