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神の花  作者: 蒼りんご
7/7

エピソード7

 暗い空には柔らかい三日月と共に小さな光が散りばめられていた。 

 タカはユカと共に暮らしていた家の屋根に座っていた。

 ユカにだけは知らせようとやってきたのだが、家には入れ替わりのように客が現れ、こんな時間になってしまった。  

 今、家の中にはユカの母がいた。


 タカは昼に神と話したことを思い出していた。

 まずは、俺たちのことを話しておくよ、と彼は言った。

「さっきも言ったけど、人間とは別種の人型生物だよ。人間から我々のことはみえないし、触ると激痛がある。どちらもね。念じるだけで伝えたり、動かしたり、飛ばせたりできる。自己修復機能があるから、病気も怪我も大丈夫。だけど、欠けたら、切られたとかね、復活はしない。人間のように手を使って持ち上げたり、足を使って歩いたり走ったり、姿を見せたり、声を出したりすると、半端なくエネルギーを使う。活動するためのエネルギーは太陽の光を浴びることで得られる。あと、少量の水が必要。水は口から飲んでも良いし、皮膚からも取れるから、手を浸すだけでもいいよ。川の水でも雨でも。人間みたいに食事をとる必要はないけど、食べたからといっても害はない。命は基本永遠なんだけど、体の寿命がくると、今の俺みたいな状態――蛹の状態になって体を再生する。欠けた部分は戻らないけどな。なんか、質問ある? 」

 彼は、なんでもないことのように言うが、まだ、理解が追い付かない。

「しなければいけないことってあるのか? 」

「太陽を浴びて、水を取ることくらいかな」

「生きていくためじゃなくて、仕事みたいなことで」

 タカが聞くと、彼は笑った。

「真面目だなあ。人間だって生きていくためのことしかしてないでしょう。あとは、好きなこととか、やりたいことか。同じだよ。もっと話しておいた方が良いんだろうけど、もう時間切れみたいだ。花を三つはサービスしすぎちゃったかな。じゃあ、二、三か月後に――」

 そう言って、彼は沈黙した。


 話すと奇異な目で見られると言われたけれど、ユカにだけは話しておきたかった。ただ、ユカが受け入れてくれるかは分からない。

 キイとドアが開く音がして、ランプを持ち誰かが出てくる。

「本当に一人で大丈夫? 」

 声を聞いてユカの母親だとわかった。

「うん。大丈夫。お母さんこそ気をつけてね」

「また、明日来るからね」

「そんなに心配しなくても大丈夫よ。もう遅いから」

 ユカが帰るように促す。

 ユカを連れて帰りたそうな母親はそれでも、家へと歩き出した。しばらく母親を見送っていたユカが家の中に入ろうとした時に、タカは「ユカ」と呼びかけた。

 ユカの動きが止まった。

「タカ? 」と呼びながら辺りを見回す。

「オレはユカたちとは違う種族になったらしい。でも、話をしてくれるか? 」

 もし、ユカが怯えたり嫌がるようなら、もう現れないことを言って終わりにすれば良い。

「――当たり前じゃない。タカ、どこ? 」

 ユカが辺りを見回している。

 タカはユカから少し離れた場所に降りた。

「俺の姿は人間からは見ることはできないらしい」

 それは、自分では確かめられないことだ。

「家に入れてくれるか? 」

 タカはユカに聞いた。ユカと話しているところを誰かに見られたくはない。

「あなたの家じゃない」

 ユカはタカが入れるように家のドアを開けた。

 「ありがとう」と言い、家の中に入ってから、「もういいよ」と告げた。

「食事は? 」

「いや、いらない。食べる必要はないんだ。欲しいとも思わない」

「あ、そう――座る? 」

「ああ」

 タカはダイニングテーブルの椅子を引いて座った。

 ユカが不思議そうな顔をする。

 誰もいないのに、椅子が動くのは変だろう。

 座って、疲れたと思う。歩くことも椅子を引くことさえ、人と同じ動作をするのは疲れるのだと理解した。


 ユカも向かい側に座る。

 何から話せばいいのだろうとタカは思った。

「今日あったことは聞いたわ。神の花を探していたタカが光に包まれたら消えて、そこに神の花が現れたって。コウがタカが見えなくなった後で『ごめん』って声が聞えたような気がするって、だから、消えたわけじゃないんじゃないかって言ってた。長老がその話を聞いて、タカは神に召されたのだろうって。タカが望んで神の花を残してくれたんじゃないかって言ってたって」

 呟いた言葉はコウに伝わったのか、とタカは思った。

「――そうか。長老には何でもわかるんだな」

 何も説明する必要はなさそうだ。

「タカは来てくれるって信じてた」

 ユカが手を前に出す。

「ごめん。人に触れることはできないんだ。激痛があるらしい」

「そうなの? 」

 ユカはゆっくりと手を引っ込める。

「ごめん」

「タカのせいじゃないわ――居てくれるだけでいい。今までみたいに居てくれるの? 」

「それは――きっと無理だ」

 できたとしてもしない方が良いと頭の中で囁く声がある。

「――じゃあ、どの位? 」

「ひと月くらいか」

 心配は必要ないことを伝えるだけと思っていたのに、口から出たのは違っていた。彼は好きなことをすれば良いと言っていた。

「その後はどこかへ行くの? 」

「その後のことは分からない。彼は――神と呼ばれている彼は神の花を作る為に使った力のために今眠っているんだ」

 彼が目覚めたとしても、あまり変わらない気がする。けれど、いつまでも村に留まるのが良いこととも思えない。今は答えを保留したかった。

「一か月もの間、ずっと寝てるの? 」

「ああ。もっと長くなるのかもしれない」

 言いながらタカは自嘲した。未練だなと思う。ふれあいもできない者同士が一緒に生活するのは辛いだけだろう。今も、触れたい気持ちを抑えるためにテーブルの下で手を握りしめている。

 長く――そうユカは呟いた。そして。

「あのね、タカ。私のお腹に赤ちゃんがいるの」

 ユカがお腹あたりに手を置いた。



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