エピソード6
村の入り口に集まっているのは十人ほどだった。それでも集まった方だ。春は仕事が多い。
「タカっ」
コウが駆け寄ってくる。
「急ごう」
タカはコウの肩に手を置くと促した。
コウの顔を見てうすうす分かったことだが、高熱を出した子供はコウとシンのところだと森までの道で聞いた。シンのところは少し大きいので助かるかもしれないが、コウのところのマユは危ないということだった。
森の入り口から、木々の間の獣道を鎌で草を刈りながら道しるべ通りに進む。太陽が頂点につく前に目的の場所に着くことができた。突然開けた草原一面に色とりどりの花が咲いている。しかし、それらは光ってはいない。どこにでもあるよく目にする花と何ら変わらないように見えた。神の花は光っているらしい。タカは神の花を見たことはなかったし、今回一緒に探しに来た者達も見たことはなかった。
「端から探すしかないな」
だいたいの分担を決め、それぞれが草の中をかき分けて探した。
光る花――それだけの情報しかない。
皆が自分の持ち分を探し終えたところで集まったが、見つかってはいなかった。あたりにはあきらめの空気が流れている。今まで何度も諦めて帰った過去がある。
「もう一度探してくる」
タカはそう言うと引き戻した。太陽はまだ高い。なかったと言える時間じゃない。
光る花。ひとつでいい。あって欲しい。
「神の花を探してんの? 」
タカが草をかきわけ探していると声をかけられた。
タカは声がした方へ顔を上げたが、誰もいない。見回してみたが、村から一緒に来たやつらしかいない。
空耳か? そう思って、また手を草の中を突っ込むと、「見えないからって無視すんなよ」と文句が聞えた。
見えない? また顔を上げた。誰かがいるということなのか。そして、見えないということはひとつの可能性が考えられた。
神? この森は神が住む森と言われている。
「神か? 」
誰も見えない空間へ声をかけた。
「人間はそう呼んでたりするけど、別種の人型生物ってだけだよ」
答える声がある。
「では、神の花はあなたが? 」
「俺が作ったもんだよ」
その言葉は救い以外の何だろう。
「頼む。神の花が必要なんだ」
タカは見えない相手に頭を下げた。
「俺の仲間になるっていうなら、いいよ」
え? 仲間になる? それはどういうことだ? そんなことができるのか?
「オレができることなら、なんでもする」
それ以外に返事はあるのだろうか。
神の花を手に入れるために、このチャンスを逃したくなかった。
「じゃあ、肩にかけてるバッグを下に置いて、じっとしてて」
言われるまま、タカはバックを下ろした。体が熱くなった気がしたが、それは一瞬だった。
「タカっ! 」
背後から叫び声が聞こえた。
「まずいな。俺の後ろへ回って」
彼が言う。
顔をあげると、彼の姿が見えた。思い描いていた神の姿とは違う。やんちゃな若い青年といった感じだ。
「早く」
急かされて、後ろに回ると、皆がこちらへかけてくる姿が見える。
「約束はちゃんと果たすよ」
彼の言葉の後で、目の前の花が光出す。
神の花は草をかけ分けて探すものではないと、本物を見て思った。
こちらへ走って来た皆は神の花の前で立ち止まった。
「これでいいだろ。行こ」
彼が神の花に背を向けて歩き出す。
「どこへ? 」
「とりあえず、ねぐらへ。俺、もうあんま体力ないんだよね。話しておかなきゃいけないことあるし」
「あ、ちょっと友達に話してくるよ」
いなくなったら心配するだろう。
「やめときなよ。人間にはもうあんたの姿は見えないし。変なやつになったって、奇異な目で見られることになるよ」
「え? 」
姿が見えない?
「仲間になるって言ったろ。あんた達が言う神ってやつになるって」
「え? 」
タカは自分の姿を見てみた。何も変わってはいない。
「俺のことが見えるってのが、その証拠だろ。さっそくで悪いんだけど、もう、歩くのしんどいんだよね。連れてってくんない? 」
「肩をかせばいいのか? 」
体格は同じくらいだ。おぶるのも抱き上げるのも苦しそうだ。
「俺を持ち上げるように念じてみてよ」
神の花を与えてくれたのだから、さからうことはできなかった。
言われた通り、ただ思っただけなのに、神の姿が浮いた。
「そうそう。その要領で自分も浮くように念じて」
同じく強く思うと自分の体も浮いた。
「もっともっと高く」
もっと?
空へ向かって飛びあがるイメージを頭で描く。
草原の周りの木よりも高く飛んでいた。
「そうそう。あの、ひと際高い木のところへ行って、幹の中頃に洞がある。そこがねぐら」
「わかった」
とりあえず、神をねぐらへ送り届けなければいけないだろう。飛びながら「花をありがとう」とタカは彼に言った。
神の花をもたらしてくれた。
地上からはタカを呼ぶコウの叫び声が続いていた。
ごめん――答えることのできない声にタカは心の奥でわびた。
「タカっ!、タカっ!、タカーーーー」
辺りを見回してもその影すら見えない。
コウは膝から崩れ落ちた。
目の前には神の花が咲いている。
ごめん――そうタカの声が聞えた気がした。
周りを見回してもタカの姿はない。
タカはどこへ――。
「タカを探すものと村へ花を届けるものと二手に分かれよう」
そう言うリョウの声が聞えた。
コウは立ち上がることができなかった。
「タカっ・・・」
タカは消えたとしか思えなかった。そして、その代わりのように現れたのは神の花だった。




