エピソード4
おかしい。コウとは風呂の日は違うはずだ。
「早いんだね」
コウが言う。
「ああ、人が少ない方がゆっくり入れると思って。でも、コウとは日が違ったと思っていたが――」
「ああ、母が具合が悪くて、日を代わったんだ」
「なるほど」
そういうことはある。人数調整のためなのだから、その日でなければいけないわけではない。でも、ということは、女湯にはリーとマユが来たはずだ。風呂の日は家族単位だった。
タカは湯から上がると、手早く洗い風呂から出ようとした。
「そんなに急ぐことないだろ」
不満そうなコウの声がする。
「ゆっくり湯につかり過ぎた。きっと、もうユカはでてるころだ」
「仲がいいな」
コウの言葉がユカの母親のものと重なった。
「一つだけ教えてくれ」
続けられた言葉に足が止まった。
「タカ、お前が好きだったのはリーか? 」
コウの声が硬かった。
「リーは・・・素敵な女性だけれど、違うよ。俺はお前の幸せを願ってるよ」
タカはコウに笑顔を向けると、風呂を後にした。脱衣所で服を着て外にでる。ユカは予想通り待っていた。
「もっと、ゆっくりしてくればよかったのに」
ユカが驚いた顔で言う。
タカはユカの肩を抱いた。ユカの体が冷たくなかったことだけが救いだった。
「家に帰ろう」
二人きりになれる場所に。
「コウと二人きりになれたのは久しぶりなんでしょ」
ユカは立ち止まったままで、また行けといった感じだ。
「ユカの方が大事だ」
タカは強引に歩き出した。促されるようにユカも足を出す。
「私なら大丈夫よ。だって、私が望んだことよ。タカが一緒にいてくれるだけで幸せなのに」
そうは言っても、小さな子供を見て辛くないわけがない。事実、リーたちが入ってきてすぐに出てきたはずだ。
「子供がいない夫婦だって、私たちだけじゃないじゃない。その分、村に尽くせばいいよ」
「――だから、細工物を夜遅くまでがんばってるのか? 」
小間物は町から業者が来て買っていく。それは村の収入になる。ユカの作ったものは評価が良く、高値で売れる。
「好きなのよ。それだけ」
それだけじゃないだろう。
辛いことを全部背負ってくれている。なのに、それを表にはださず、いつも笑ってくれる。
肩をだく手に力が入る。胸の奥にわけがわかない感情があふれていた。
家に入ると、タカはそのままユカを寝室へ連れて行った。
「タカ? 」
不思議そうな声をユカが出す。
持っていた道具をテーブルに置き、ユカをベッドの上に押したおした。体が触れて、察したユカが体を開く。
「ユカ――」
組み敷いた体に肌を寄せる。
これほど、人を愛しいと思ったことはなかった。
どれほどの時間が経ったのだろうか。
辺りは暗闇に包まれていた。
灯りをつけるのも忘れていたし、玄関に鍵もかけていない。夕飯もまだだった。けれど、腕の中にある温もりを離したくなかった。
「食事の支度をしないと――」
ユカが抜けていこうとする。
タカは抱き寄せて首筋に唇で触れた。
「オレがいくよ」
手を伸ばし上着を羽織ると、起きてベッドから降りた。窓を開けると、月明かりが入ってくる。
台所へ行き、種火で灯りをつけた。
鍋に水を注ぎ、芋を切って入れる。かまどに火を付け、鍋を置いた。茹った頃に、干し魚を入れる。青菜を切っていると、ユカが来て後ろから腕を回してくる。
「まだ休んでいると良いよ」
かけた声に返事はない。代わりのように頭を背中につけてくる。青菜と冷や飯をいれて、塩で味をつける。このまま少し煮れば完成だ。
タカは後ろを向くと、ユカの頭を撫でた。
友達の延長のような関係が変わったのを感じた。




