エピソード3
一緒に住み始めてから、ユカはタカに何も要求することはなかった。
次の春祭り、タカは世話役として初めて参加した。
今まで参加したことがないのだから、裏役として、配膳や片付けをやっていたのだが、他の村の者から声をかけられた。
「次の時間ではお話できますか? 」
祭りでは、全員で参加する催しと個別に話ができる時間を交互にとっていた。個別に話をするということは、選ばれたにも等しかった。
係の者で参加者ではないと伝えると、相手は落胆した顔を見せる。不審に思い、責任者に問いただしてきたと後で聞いた。
結婚した時期を聞かれ、納得したようではあったが、もし、結婚がもう少し遅かったら偽装を疑われたかもしれないと言われた。
コウが言った通り、最後のチャンスだったわけだ。
ユカも声をかけられたらしい。会の途中でしがみついてきた。「どうした? 」と聞くと「なんでもない」と答えたが、怖かったらしい。一人でいる時に知らない男が声をかけてくるというのは、ユカにとって初めてのことだった。
それから、何も特別なことがあるわけではなかった。畑仕事をし、細工物を作り、村の共同作業に汗を流し、穏やかな毎日が3年たつと少し様子がかわった。
ユカの母がときどき訪ねてくるようになった。
その時は、水くみとか畑の様子見てきてと追い出される。女同士の話もあるだろうと、タカは言われるまま外にでた。
冬は外に出る機会が減る。
村の共同作業は緊急の場合以外は行われない。
畑も収穫が格段に減る。次の春に向けての土作りが主になる。魚も取らないし、木の実もない。
秋に取った栗仕事や果物を干したり、竹や木を作った細工物を作る作業を家でやることが多くなる。
その日も、ユカの母が来て、畑の様子を見てきてと追い出された。
することがなく、少し時間をつぶして家へ戻ると、まだユカの母がいた。
「もう、用事は終わったでしょ」
ユカが母を帰そうとする。ユカの母は溜息をつき、
「夫婦仲が良すぎるとできないっていうけどねえ」と言う。
「お母さんっ」
ユカが母親を椅子から立たそうとする。
「でも、タカにもタカの両親にも申し訳なくて――」
「もう、わかったから」
「タカ、すまないねえ」
言われて、タカは首を振ることしかできなかった。
謝らなければいけないのは自分の方だ。ユカは何も悪くない。
ユカは母親を立たせて、ドアまで連れていく。何度も頷いているのが見える。ほどなくして、母は帰ったのだろう。ユカが戻ってきた。
「お風呂に行こう。用意してくる」
「ああ」
ユカが支度をしに奥へ行った。
共同風呂は焼き場の熱を使ったもので、男用と女用に分かれていた。入る入らないは自由だが、順番で使用できる日が割り振られている。
朝に入る人もいれば昼に入る人もいる。作業が終わった後くらいが一番混んでいる。タカとユカは作業が終わった後に入った人たちがでたあと、食事の支度や食事などで人が少ないであろう時間にいつも行っていた。
予定どおり、タカが風呂に入ると誰もいなかった。いつもは沸かした湯で体を流す程度だ。ここにくれば、体を伸ばしてゆっくりと湯につかることができる。
静かだった。さっき聞いたユカの母親の言葉が頭をよぎる。うすうす感じていたのだが、母親が来ていたのはやはりその件だったのかと思うと、ユカが守ってくれていることに申し訳ない。だからといって、自分は役立たずだ。
他にも子供がいない夫婦はいる。傍から見ているだけではわからないことが色々あったのだろうと自分が当事者になるとわかる。家族に子供は大事だ。いずれ働き手になるのだから。
コウのところには2歳の娘マユがいて、二番目の子がお腹にいるという。同じ日に結婚したのだから、比べられることも多い。子ができないのは女のせいにされることも多い。これからますますユカに辛い思いをさせることになる。
タカがぼんやり考えているとカタンと扉が開く音がした。誰かが入ってきたのだとみると、それはコウだった。




