エピソード2
大きな歓声とともに、式が終わりを告げる。
太陽は西に傾き、遠くに見える稜線を赤く染めていた。
タカはユカの手を握ったまま並んで座っていた。まるで、それが儀式かのように。
「タカっ」
名前を呼びながら、人込みの中から走ってくるのは今日の主役のコウだ。
タカはユカの手を解き立ち上がった。
「主役がこんなところに来たらだめだろう」
まだ、祝福してくれている人達がいる。
コウはタカの手をつかむと、「これからの主役はタカだ」と言い手を引っ張っていく。
「ちょっと待てよ。どういうことだよ」
文句を言いながらもタカはコウに手を引かれるまま付いていった。手をつなぐなんていうのはいつぶりだろうと思う。温もりが嬉しい。こんなことはこれが最後だろうと思うと、振り払うことなどできない。
人込みの中を抜け、花嫁が待つ一段高い席まで連れて行かれた。花嫁であるリーが笑顔で自分が持っていたブーケをタカに差し出す。
「今度はあなたの番よ、タカ」
「これを好きな人に渡してくれ。好きな人はいると言っただろ」
コウがリーからブーケを取りタカの手に握らせる。
タカは俯くと笑った。そんなことを言ったのは、いつの話なんだか。いいのか? 本当に好きなやつに告白しても――。そんなことを思いながら、できるわけないことは分かっていた。
「タカ、これが、最後のチャンスなんだぞ」
心配そうなコウの声がする。
花嫁のブーケを投げる、または、渡す。それはよく行われる余興だ。余興だから、強制力はない。けれど、足を踏み出すきっかけにはなる。
コウを見て、周りを見回すと、興味深げな人々の中に不安げな顔をしたユカがいた。
タカはゆっくりとユカの方へ歩いていった。
「結婚してくれるか? 」
もらったブーケをユカに差し出す。
ユカは唇を噛むと頷いてブーケを受け取ってくれた。瞬間、歓声があがる。ユカの目に涙が光っているように見えた。
コウとリーに声をかけ、タカとユカに声をかけると、人々は散っていく。 最後にと、タカはコウに「おめでとう。幸せになれよ」と声をかけると、「おまえもな」と返された。
コウとリーを手を振って見送り、タカはユカと共に長老の住まいに向かった。
ドアをノックすると、「どうぞ」と声がする。「失礼します」と言って入ると、「待っておったぞ」と長老が笑いながら言った。
囲炉裏の奥に座る長老に向かうように囲炉裏の手前で二人で座る。
「結婚することを許していただきたいのです」
タカは言った。もう逃げることはできない。
「これからのことをどう考えておる? 」
「空家をいただき、住みながら修理や道具を作っていきたいと思います」
「式はどうするのじゃ」
「行いません」
「大きなものではなくても、皆に集まってもらって祝福をうけることは祭り前でもできるのではないか? 」
「祝福は今日してもらいました」
「ユカもそれで良いのか」
「はい」
ユカが頷く。
「そうか。それでは、婚姻を認めよう」
長老は立つと、机に向かい筆をしたためる。そして、書いたものを見せてくれる。名前と日付と婚姻の文字があった。
「これで、お前たちは今日婚姻を結んだことになる。空家の件は長に伝えておくので、相談しなさい。まだ、親には報告していないのだろう? 」
「明日、ユカの家へ挨拶と報告に行きます」
「そうじゃな」
これからも、村のために尽力しておくれ」
長老の言葉に、タカとユカははい、と返事をして頷いた。




