エピソード1
村の広場では結婚式が行われていた。
太鼓や笛が囃す中、台の上には料理と酒がふるまわれており、村人たちは踊りや歌に興じていた。
そんな中、タカは一人その場から離れた。
広場の端にある東屋の椅子に腰かけて溜息をこぼす。心の中がからっぽだった。
いや、何も考えたくなかった。
しばらくして、足音が聞こえた。顔をあげると、馴染みのある顔が微笑みかけてくる。今日の花嫁であるリーのような華やかさははないが、穏やかで、けれど、芯の強そうな瞳を持っていた。
「コウが、タカはどこに行ったのか気にしてたよ。きっと隅で感動して泣いてるのよって言っておいたから、泣いていいのよ」
ユカが言いながら横に座る。
「大袈裟だなあ」
タカは笑った。コウとリーは許嫁であった期間は長かったが、問題があったわけじゃない。結婚しなかった理由はわからないが――。
「コウのことが好きだったんでしょ? 」
意外な言葉に驚き、タカは思わずユカを凝視してしまった。
「何言ってんだ」
笑おうとしたのに、顔が引きつったのがわかった。
「誤魔化さなくてもいいのよ。わかってるんだから。コウがなんで今日まで結婚を伸ばしていたか知ってる? 」
「いや」
あえて避けていた話題だ。
「コウはタカと一緒に結婚したかったのよ。タカをおいて幸せになれないってリーが言われたそうよ」
「バカな・・・そんなこと」
「でも、次の春祭りはこの村で行われるから、コウとリーは前回許嫁ということで除外されているし、そもそも許嫁で通る歳でもない、次は言い逃れのための許嫁ということにされてしまうからだめだということで、結婚するか、春祭りにでるかのどちらかを選ばなければいけなかったのよ。だから、結婚することを選んだんだけど、コウはあなたを気にしてる」
春祭りは近隣の村で持ち回りでやっているお見合いのようなものだ。他の村の者に選ばれたら断ることはできない。
タカは言葉がなかった。
「で、当然春祭りは私たちにも関係あるのよ。前回は一緒に隠れていて、怒られたじゃない。あの時はまだ子供だってことで許してもらったけど、今度はそれはできない。村に迷惑をかけてしまう。どうするつもり? 」
「ユカはどうするんだ? 」
立場は同じだ。ユカが微笑む。
ごまかされるのかと思ったが――。
「タカ、結婚しよう」
「えっ? 」
意外な言葉にタカは思わず声が出た。
「オレは――オレなんかより良いやつがいるだろ」
「だったら、とっくに結婚してたわ」
それは、そうかと思う。
「でもオレは――」
次の言葉を言うことを躊躇った。
「わかってるって言ったじゃない。私が望むのは一緒にいてくれることだけ。それだけでいいの。そうしたら、コウの傍にいられるよ。コウも安心するよ」
「でも、今から結婚っていったら、春には間に合わないだろ。
家の準備や生活を始めるための準備もあるし、ドレスも、冬に式はできないだろうし」
「長老に許しをもらえば良いのよ。家だって程度の良い空家を住みながら直せばいいし、ドレスも式もいらないわ」
「ドレスを着たいんじゃないのか? 」
そんなことを昔聞いたような気がする。
「ドレスへのあこがれなんてとっくの昔になくなったわ。ねえ。この結婚式が終わったら長老のところへ行こう」
ユカが手を握ってくる。
ユカの申し出はタカにとっては有難いことだった。町へ出るしかないかと思っていたが、出たところで仕事がみつかるかはわからない。
「それで、後悔しないのか? 」
ユカばかりが辛い思いをするように思える。
「そんなのわかるわけないじゃない。でも、タカがどこかへ行ってしまうのだけは嫌。タカが他の誰かと結婚したいのなら、それは仕方ないと思って諦める。タカと結婚できないなら、相手は誰でもいいから、春祭りに出るわ。でも、そうじゃないでしょう? 」
「オレが結婚なんてできないのは、わかっているんだろ? 」
「じゃあ、決まりね」
ユカが言う。タカはユカの手を握り返した。
そんなことでしか返せないことが心苦しく思う。けれど、断る理由はなかった。




