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第36話 たぶん最後の恋愛相談

 霧乃……というSOBAとはつくづく恐ろしい組織だと戦慄する。

 マネージャーを含めて4人しかいないはずのキャッチボール同好会もといキャッチボール部が、翌日には正式な部として学校から認められ……というか前々から存在していましたみたいな扱いになっていたからだ。


 あのさ、これマジでなんなの?

 人の記憶を操る念波ってやつなの?

 いい加減頼むから僕の記憶を完全に消してくれ。


 して、水曜日の昼休み。

 僕は屋上でピユシラと昼食を食べていた。


 あの日以降、バイトやら小テストでちゃんと腰を据えて話せていなかったから、いい機会だ。


「ホント、無事でよかったよピユシラ」


「でも、問題は解決していない。アタシは、今後も狙われ続ける」


 そのへんもどうにかしてやりたいが、僕の管轄外だろうしな。

 ちなみにピユシラにはすべてを話している。霧乃が向こうの世界の刺客を招き寄せたことも。

 それすら囮だってことも。


 知ったうえでピユシラは、


「みんな事情がある。怒ってもしょうがない」


 などと懐の大きさを見せつけてくれた。

 ピユシラ大明神だね。


「でも、スエナガが来なくて、よかった」


「足手まといだから?」


「スエナガの前で、殺しはしたくない」


「あぁ〜」


「好かれたいわけじゃない。でも、嫌われたくもない」


「心配しなくても、僕はこの世界に存在するすべての人間がほんのり嫌いだよ」


「え」


「全員好感度−5だけど……ピユシラは−1くらい」


「…………ひひ。スエナガ、捻くれ者」


 うるせ。

 少なくとも、お前を嫌いになったりはしないよ、ピユシラ。

 独りにはさせない。


「あと、ジュンナといっしょに戦った」


「ほーん」


「ジュンナ良い奴。キャッチボール部、楽しみ」


 ちょっと待って。

 え、ピユシラさん、もしかして僕以外に友達作ろうとしている?

 やめてよ。僕にはピユシラしかいないんだから。ピユシラの友達も僕だけであってくれよ。


 あ、脳が壊れそう。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 放課後、ついに我らがキャッチボール部最初の部活動がはじまった。

 といっても、わざわざ土手まで移動してひたすらボールを投げ合うだけなんだけど。

 折りたたみ式の椅子に座る霧乃に近寄ると、紙コップに入れたお茶を差し出してくれた。


「ありがとうよ、マネージャー」


「うふふ、いえいえ」


 横に並び、先輩とピユシラの魔球の応酬を眺める。


「どうなんだよ、やっぱり組織に怒られたりしたのかよ」


「わたしがポインターになったことも、本当の目的も、気づかれちゃいませんよ。わたしは賢いので」


「そうかい。そりゃよかった」


「……」


 会話が途切れた。

 もう少しくらい心配してやろうか。

 いやいや、あんまり踏み込むと変なイジりを受けそうだからやめておこう。


「おそらく、わたしが本気で末永さんを狙いにいっても、巡凪さんには勝てないのでしょうね」


「な、なんだよいきなり」


「よくよく考えてみれば、わたしたちで部活を作ろうと提案したのはあの人なんですよね。計算か、偶然か。結果的にわたし、末永さん、そしてピユシラさんといった寂しい連中が傷を舐め合うグループができあがったわけじゃないですか」


「嫌な言い方」


「そしてわたしも、ピユシラさんも、ここが自分の居場所だと、安心してしまっている」


 安心しているらしい。

 茶化すつもりはない。それでいい。

 霧乃もピユシラも独りじゃない。相容れなくても、違う生き物でも、孤独じゃない。

 なにかあれば協力しあえるのだ。


「さすが、神の娘ですね」


「結局、僕らみたいな捻くれ者は先輩みたいなストレートな人間には勝てないのさ」







「アヤメくーん!!」


 噂をすれば。

 先輩とピユシラがキャッチボールを切り上げ戻ってきた。


「くっくっく、次はアヤメくんと私で剛速球勝負よ!!」


「あー、じゃあ僕の葬式会場予約しておくんで待っててください」


「くふふ、以前のアヤメくんなら断ってきたのに、最近はずいぶんノリノリね!!」


 いやノリノリではないだろ。

 遠回しなお断り宣言なんだよ。

 先輩の本気とやるくらいならピユシラと……ダメだ、こいつの球は音速を超えるんだった。

 ミットごと僕の胴体に穴が開く。


「気だるそうにしつつ楽しんでいるアヤメくん、かわゆいわ!!」


「かわゆくないです」


「ふふ、末永さんはかわゆいですよ」


 なっ、霧乃まで。


「スエナガは、かわゆい」


 なんだお前ら、事前に打ち合わせでもしてきたのか。

 やめろ、三人で僕を見つめるな。息苦しくなる!!


「アヤメくん顔が赤いわ!! 照れているのね!! くふふ」


「死にかけているんです」


 それから僕らは日が沈むまでボールを投げて、解散した。

 帰宅後、先輩から電話が掛かってきた。


 次はどこでデートの練習をしようか、なんて相談だった。

 忘れていた。僕は先輩の仮の恋人だったんだ。


 ふと、霧乃との会話を思い出す。

 僕みたいなのじゃあ先輩には叶わない。

 本当に、そうだと思う。


 僕が先輩の力になっていたつもりだったのに、気づけば先輩が僕の居場所をくれた。

 巡凪先輩がいたから、僕も、ピユシラも、霧乃も、心が少し救われたんだ。


『だ、だからアヤメくん、告白の練習もしておくべきだと思うの』


「先輩にはまだ早いですよ」


『えぇ!? そ、そうかしら。うーん』


「そういうのは例の気になっている人にだけやってください」


『だからそれは……うぅ、なんでもないわ!!』


 僕は、先輩に恩を感じている。

 先輩に感謝している。

 だから、ほんの少しくらいは、気持ちに向き合ってみようと思う。


 逃げてばっかじゃキャッチボール部員は務まらないしな。


「じゃあこうしましょう。今度のデートの練習のとき、告白の練習もするってことで」


『いいの!?』


「まぁ、練習ですし」


『くふふ!! やったわ!! アヤメくん大好き!!』


「え!?」


『あっ!!』











ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

※あとがき

終わりです!!

やりたいことはやりつくしたので、終わりますっ!!

途中までマジで霧乃エンドに行っちゃいそうな流れだった……。

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