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第13話 もう戻れない

 月曜日、僕は社畜予備軍として文句も垂れずに登校していた。

 昨日からずっと、あの夢のことを考えてしまう。

 夜のモールで先輩とデートの続きをした、あの夢。

 僕は、先輩に特別な感情を抱いているのだろうか。だとしたら最悪だ。記憶を消してしまいたい。いい加減消してくれよ、SOBAさんよ。





 駐輪場に自転車を停めて、鍵を抜く。

 偶然、同じクラスの桃井が駐輪場にやってきた。

 一応説明しておくが、桃井という可愛らしい名字をしていても男である。


「おっす末永」


「うん」


 別に友達じゃない。

 けど挨拶くらいはする。


「ルパン三世が参上したの聞いたか?」


「は?」


「土曜の夜、閉店してるイオンに侵入したやつがいるんだってよ。入った形跡がないのに、中の警報器が作動したんだ。んで、確認したら監視カメラに若い男女が映ってたんだと」


「……え」


「まぁ顔はハッキリ映ってないらしいし、物も盗まれてないんだってさ。警備会社とか警察が駆けつけたときには、誰もいなかったって」


「ルパン三世じゃなくて幽霊なんじゃないか」


「あはは、こわ〜」


 怖いのはこっちだ。

 幽霊だろうという推察は、僕の願望そのものだ。

 イオンで男女の侵入者?


 そんなわけがない。

 きっと恐ろしい偶然に違いない。


「なにを話しているんですか?」


 途端、背後から霧素が現れた。

 桃井は驚きつつ、テンション高めに返答した。


「ショッピングモールに侵入者だよ家須さん!!」


「へぇ、侵入者」


「いっちょ俺たちで現場検証行っちゃう? なんちゃって!!」


「ふふふ、それだとデートになってしまいますね」


「あ、あはは、いやいや〜なにもしないよ〜。家須さんみたいな可愛い子に手を出したら、男子たちにぶっ殺されるって〜」


 面倒くさいおじさんみたいなセリフばかり。


「うふふ、桃井さん、おもしろいですね。ユーイチロウさんとは大違い」


「え!? そ、そう? マジ? ていうか、俺の名前覚えててくれてたんだ」


「それよりも、同じサッカー部の上級生が呼んでいましたよ?」


「うそマジ!?」


 慌てて桃井が去っていく。

 たぶん、霧素の嘘だ。

 僕とふたりきりになりたくて、桃井を追い払ったんだ。


「性格悪いな、あえて彼氏の悪口を言って、あいつに変な期待をさせたんだろ。奪えるかも、みたいなさ」


「じゃあ末永さんの前でユーイチロウさんの愚痴を吐いていたのも、あなたを期待させようとしたことになりますね」


「…………」


「事実を口にしたまでです。それより末永さん、様子がおかしいですよ? 怖い話でも聞きました?」


 こいつ、どこまで知ってる。

 なにを把握している。

 

「夢を、見た」


「夢?」


 霧素が眉をひそめた。


「土曜の夜に夢を見た。僕と先輩が夜中のモールを走り回った夢だ。家で寝てたはずなのに気がついたら先輩とモールにいた」


「……え」


 霧素がどんどん青ざめていく。

 と思えば急に考え込んで、ぶつぶつと思考を言語化しはじめた。


「末永さん、まさか巡凪さんとセックスでもしましたか?」


「するわけないだろ」


「これは、マズイですとても。どうして今さら。ずっと大人しかったのに」


「どういうことなの。冗談とか無しに説明してくれよ」


「信じませんよね」


「…………とりあえず聞くだけ聞く」


 霧素が自分の腕時計をチラ見した。

 僕もつられてスマホで時刻を確認する。

 大丈夫。まだHRまで余裕がある。


「どうせ僕は無関係な一般人なんだ」


「そうですね。……では末永さん、単刀直入に真実をお話します。わたしは影武者として生み出された人造生命体ホムンクルスです」


「う、うん」


 いきなり凄いのが来たな。


「つまり本当は神の娘ではありません。もう察してますよね? わたしは真の神の娘の影武者。なら本物は誰なのか」


 あの人の顔が脳裏をよぎる。


「土曜日、モールで説明しましたよね? 神の娘の能力は奪って与えること。使いようによっては、対象をワープさせることもできるのだと」


「じゃあ、つまり」


「はい、巡凪さんこそ神の娘なのです」


 僕はいま、危ないカルト教団に洗脳されかけているのかもしれない。

 それくらい僕は精神が動揺し、判断力を鈍らせていた。


 散々出現していた神の娘というワード。

 その正体は、ある日突然であった美人の先輩だったって?


 古のラノベすぎる。


 なら、モールの件はどう説明する。

 偶然? ただの偶然をネタに、霧素にからかわれているだけなのか?


 勘弁してくれ。

 僕ができるのは恋愛相談までだ。

 それすらちゃんとできているのか怪しいけど、謎の異能バトルは専門外だぞ。


「これは組織の中でも極々一部の人間しか知りません。巡凪さんが守るべき存在は、巡凪さんそのものだったのです」


「ま、待ってよ。おかしいでしょ、じゃあなんで先輩は命をかけて戦っているんだよ。アホみたいじゃん」


「巡凪さんは正義感の強い人です。SOBAの実態を把握している以上、戦いを望みます。なら、変に抑え込むより適度に発散させてやったほうが都合がいいんです。だからあえて危険度の低い任務しかしないBクラスに配属していますし、毎回最強のユーイチロウさんと組ませています。巡凪さんは戦いを大げさに語るから、ノルマンディー上陸作戦やスターリングラードみたいな激戦を想像しちゃうんでしょうけど、実際はヤンキー漫画の乱闘シーン程度です」


 ごめん霧素、言葉が頭に入らない。

 耳から耳へと通過していく。

 めまいがしてきた。


「先輩と、話す」


 巡凪先輩に会いたい。

 あれが夢じゃないなら、先輩だって覚えているはずだ。


「やめてください。巡凪さんが神の娘であると自覚するのは組織としては絶対に阻止しなくてはなりません」


「なんでだよ。……いや、いい、説明しなくて。頭がパンクしそうだ」


「しかしどうして力が発動したのでしょう。左手のブレスレットが故障したのか。あの人がそこまで末永さんを気に入っているとは思えませんが」


「教室に行く。座りたい」


「そうですね。わたしも内心かなり動揺しています。下手をすると、わたしたちの世界は……」


 と歩き出そうとしたとき、前方に湯白がいるのに気づいた。

 ぼーっと突っ立って、こっちを見ている。


「やっ、ゆしーー」


 瞬間、湯白が消えた。

 え。なんて間抜けな声漏らした直後、二人の人影が僕の視界の端に現れた。

 一人は、湯白。謎の光るナイフのようなものを霧素に向けていた。

 もう一人は、ユーイチロウ。その湯白の腕を掴んで、動きを止めていた。


 つまりは、霧素の側まで瞬間移動した湯白の攻撃を、突然現れたユーイチロウが防いだのだ。


「もう待てない。よこせ、神の娘」


「学校では揉め事は起こさないと決めただろう、ピユシラ」


「黙れ。カツアーサ、コマリ、マドシュウィルウィン、ユーイチロウ」


「そっちの言葉を使うな。約束を保護にするなら俺も全力で君を倒さなくてはならない」


 いったい、なにがどうなってる。

 霧素が僕の腕を掴む。

 ぐいっと引っ張り、走りだす。


「お、おい」


「あとはユーイチロウさんに任せましょう。HRがはじまりますよ」


「それどころじゃないだろ」


 なんで湯白までユーイチロウと因縁があるっぽいんだ。

 前々から変わった子だとは思っていたけど。


 まさか、まさか本当に、異能バトルが実在するっていうのかよ。

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