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第12話 夢のなかへ

 いつの間にか夜のショッピングモールで眠っていた。


 なんでこんなところに? 連行された?

 夢か?


「くっくっく、私にはすごい才能があるみたいね!! 望んだ夢を見る才能が!!」


「夢、すよね」


「ちょうどアヤメくんに会いたかったのよ。今日の反省会をしたくて。夢だけど、まぁいいわ」


 たまに夢であるとハッキリわかる夢を見ることがある。明晰夢ってやつだ。

 これもそれか。

 じゃなきゃ説明がつかない。

 まさか異能の力なわけないし。


 思考が鈍い

 頭がぼんやりしてる。

 深夜に叩き起こされたような眠気。


「反省会、でしたっけ」


「うん!!」


 僕にとっても大事なことか。

 次に活かせるし。


 夢の中とはいえ、寝巻きの先輩、妙に色気があるな。

 スウェットに見事な山ができている。

 たぶん、下着はつけていない。


 どうせ夢なんだし触って……いいわけあるか。戻れなくなる気がするからやめる。どこに戻れなくなるのかは知らんけど。


「どうだったかしら、デート中の私」


「後半普通にユーイチロウと話してましたね」


「うぅ……」


「僕も口数減ったことは反省してます。もっと積極的に話しかけるべきでした」


 先輩だけでなく、霧素にも。

 ユーイチロウの女にちょっかいをかけまくるのだ。


 さすがにあいつも僕を嫌うだろう。そうなれば、僕に巡凪先輩を渡したくないと思うはずだ。


「お、女としては、どうだったかしら? 根本的に魅力がないと、話にならないじゃない」


「え……」


 先輩に魅力がない?

 バカ言うなよ。あんたは電波で子供っぽいけど、それを差し引いても綺麗で明るい素敵な女性だ。


 が、それを口にするのは、僕のメンタルが持たない。

 たとえ夢であっても。


「まぁその……問題ないと思いますよ」


「それって、魅力的ってことかしら?」


「そ、そっすね」


「……くふふ」


 無邪気で満足そうな笑顔。

 僕みたいな冷笑系モブ男を溶かすような、太陽の光。


「むしろ魅力がないのは僕でした。ダサい服着てすみません。あれじゃあユーイチロウはライバル認定しませんよね」


「あはっ☆ せっかく洋服屋さんがいっぱいあるのだから4人でアヤメくんの服を選んで買えばよかったわね」


「地獄かよ」


「好きなブランドはあるのかしら?」


 Amazonで売ってるネタ系のシャツならよく買ってるけどね。

 タンスに封印されているが。


「ていうか、今もモールにいるのだから試着しちゃえばいいのよ。どうせ夢だし!!」


 先輩が僕の手を引っ張る。


「ちょっ」


 若干の痛みが腕に走る。

 やけにリアリティのある手の感触。

 足音。肌寒さ。


 もしかして現実なのか。

 そんなわけあるか。あってたまるか。


「待ってください先輩。この先スーパーしかありませんよ」


「そうだったわ!! えっとー、確かどこかにユニクロが〜」


「ユニクロは反対側です。ていうか、反省会は良いんですか?」


「反省会は明日でもできるけど、アヤメくんと夜のショッピングモールを駆け回るなんて、今しかできないわ」


「僕と駆け回ってどうするんですか。ユーイチロウでしょうそこは」


「ううん。アヤメくんよ」


「な、なんでですか」


「だって今日、アヤメくんあんまり楽しくなさそうだったじゃない。照れ屋だからでしょ? だから、誰もいない今こそアヤメくんのフィーバータイムよ」


「…………」


 だから、僕に優しくするなよ。

 待て待て、これは夢なんだ。つまり僕は潜在意識のなかで、先輩に優しくされたがっているのか?


 まるで僕が先輩に対して本気みたいじゃないか。


「僕は……楽しまなくていいんです。喜びがない代わりに悲しみもない平坦な人生でいいんです。僕みたいなもんは」


「私はアヤメくんと遊びたいわ。だってアヤメくんは、私だけを見ていろんなことを教えてくれるんだもの」


「え、僕の意思は?」


「細かいことはいいじゃない。夢の中なんだから」


 そう言ってまたも強引に僕を引っ張っていった。

 いつ以来だ、女子に触られたの。

 くそっ、こんなことで発情するなよ情けない。


「組織の人間だから、ずっといろんな人に秘密を抱えて、本当の自分を出せなかったの。ユーイチロウにしたって、喋ろうとすると緊張しちゃうし、どこかそっけないし」


「僕だってそっけないです」


「照れ屋なだけよ。アヤメくんはとても優しい人だわ。私を構って、たくさん話し相手になってくれる。だから、アヤメくんに出会えて私、すっごく楽しいわ!!」


 勝手に楽しまれても困る。


「あれ!? シャッターしまってる!!」


「夜ですからね。他もそうでしょう」


「うーん、ごめんなさいアヤメくん。ぬか喜びさせちゃって」


「もともと喜んでないです」


「けど、なんだかワクワクするわね!! 夜のショッピングモール!!」


 あんた超能力組織として夜間異能バトルしているんじゃないのかよ。

 慣れっ子だろこういうの。


 あぁそうか、そうだよな、妄想だもんな。


「そろそろ、離してください」


「へ? あ、うん」


 手を離す。

 僕の手、汗かいてなかっただろうか。

 気持ち悪いって思われてたら、嫌だな。


「この出来事こそ、ユーイチロウに話したらどうです? 夢に僕が出てきて、夜のデートをしたって」


「おぉ、ナイスアイデアね。くっくっく、ユーイチロウのやつもきっと嫉妬するわ」


「…………」


「…………」


 いかん。無言で見つめあってしまった。

 先輩の方が身長高いから、見下ろされてしまう。

 恥ずかしい。


「ていうか、今更ですけど、いっそ別の男と付き合えばいい気がしてきました。僕じゃダサすぎてユーイチロウに太刀打ちできません。先輩、モテそうですし」


「うーん。私は、アヤメくんがいいわね」


「なんでですか」


「ふふ、面白いから」


 小馬鹿にされてる……よな。

 けっ、所詮は笑い物だよ僕は。

 きっと裏でユーイチロウや霧素と一緒に僕をバカにしているに違いない。


「もしかして……アヤメくんは本気で嫌なのかしら? 私の恋愛相談に付き合うの」


「それは……」


「だとしたらごめんなさい。私、クラスの友達からもクールで冷たいけど猪突猛進で察しが悪いってよく言われるから」


 前半は嘘だろ。

 先輩が申し訳なさそうに僕を見つめている。

 子犬のような瞳だ。


 本音を口にするべきか。

 したっていいだろ夢なんだから。

 仮初の世界でぐらい、女の子を悲しませるなよ。


「嫌なわけないじゃないですか」


「ほんと?」


「だって先輩……キ、キレイですから」


「はわぁ……」


 背を向ける。

 拳を握る。

 あーもー、なに調子乗ってんだ僕は。


 キモいだろ、わけのわからん陰気なチビにキレイとか言われても。

 いくら夢だからって、図にのるな末永アヤメ。


「くふふ、嬉しい」


「そ、そっすか?」


「アヤメくん」


「なんすか」


「呼んでみただけよ。アヤメくん。……良い名前ね、アヤメくん」


「べ、別に。女みたいで嫌いです」


「そう? 美しいじゃない。アヤメ」


「…………」


 どんな潜在意識を秘めてるんだよ僕の脳みそは。

 誰かマグナムで撃ち抜いてくれ。


「今度のデートはどこにしましょうか。私、実は任務以外で桐生市から出たことないのよ。東京とか、横浜とか、行ったことない知らない土地で、知らない遊びをしたいわ。たくさん教えてね、アヤメくん」


「僕だって、そんなに詳しくないですよ」


 途端、遠くからパトカーのサイレンが聞こえてきた。

 なんだろう。


 音がどんどん大きくなってくる。



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「わっ!!」


 気づけば、僕は自分の部屋にいた。

 先輩はいない。

 外は、まだ夜だ。


「やっぱり、夢?」


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